

公表された企業の倒産率は通常の24倍。
発覚の仕組み・罰則・自主申告の方法まで詳しく解説します。
「自主申告すれば企業名が公表されないケースがある」——不正受給がバレてから動いても、もう遅い場合がほとんどです。
東京商工リサーチの調査(2026年1月30日発表)によれば、2020年4月から2025年12月末までに全国の都道府県労働局が公表した雇用調整助成金(以下、雇調金)等の不正受給件数は、累計1,889件に達しています。支給決定が取り消された助成金の総額は613億1,825万円にのぼり、1件あたりの平均は3,246万円という規模感です。これはちょうどファミリーレストランの繁盛店が20〜30年かけて稼ぐ利益に匹敵する額です。
公表件数はピークの2023年(692件)から鈍化傾向にあり、2025年の公表件数は前年比45%減の344件でした。ただし「件数の減少=不正の終息」とは言えません。
厚生労働省の内部データ(非公表企業含む)では、2025年9月末時点で支給決定取消件数が4,434件・取消金額は約1,097億円に達しており、公表されていない案件が大量に水面下で処理されている実態があります。
| 年 | 公表件数 | 備考 |
|---|---|---|
| 2021年 | 198件 | 制度草創期 |
| 2022年 | 517件 | 調査本格化 |
| 2023年 | 692件 | ピーク年 |
| 2024年 | 626件 | 高止まり |
| 2025年 | 344件 | 前年比45%減 |
件数が多い都道府県は愛知県の294件がトップで、東京235件・大阪188件・神奈川147件と続きます。愛知県が断トツで首位というのは、製造業・サービス業の集積度と無関係ではありません。
一方、最少は香川県の1件です。
参考:不正受給の最新累計件数・都道府県別データを確認できます。
「雇用調整助成金」不正受給 鈍化も累計1,889件に(東京商工リサーチ調査・2026年1月)
公表された1,889件のうち、業種別データが判明した1,454社を分析すると、サービス業他が661社(約45%)と最多で、ほぼ半数を占めています。コロナ禍の直撃を受けた対面型ビジネスに集中しているのが実態です。
業種別トップ5は飲食業208社・建設業199社・人材派遣等140社・生活関連サービス業116社・運輸業106社の順となっています。飲食業が唯一の200社超えで、名実ともにワーストの業種です。
意外なのは、業歴100年超の老舗企業26社が公表されているという事実です。新興企業ばかりではなく、長い歴史を持つ会社でも不正受給が起きています。また、2020年4月以降に設立されたばかりの企業が90社確認されており、「最初から助成金目当てで設立した」と疑われるケースも散見されます。
これは意外ですね。業歴10年未満の企業が公表全体の約4割(560社)を占める一方、老舗企業も含まれるという二極化した構図があります。
「受給してしまってももう調査は来ないだろう」と思うのは危険な認識です。発覚のルートは複数あり、しかも年を追うごとに精度が上がっています。
最も多いのが労働局による事後的な立入検査です。雇用保険法第79条に基づき、労働局は事前連絡なく事業所に立ち入り、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿・経費の領収書に至るまで細かく調査します。「その日の出勤を示す駐車場の領収書1枚」が不正受給の証拠になった実例も報告されています。
次に多いのが内部告発です。従業員が労働局に直接通報するケースや、退職後に申告するケースが増えています。労働局は従業員本人にヒアリングを実施することもあり、「会社が休業扱いにしていたが実際は出勤していた」という証言はそのまま不正認定の根拠になります。
そして見落とされがちなのが、他省庁・関係機関との情報連携です。労働局・税務署・社会保険事務所は互いに情報を共有しており、申告内容に矛盾があれば、どこかの機関がきっかけで芋づる式に発覚します。
発覚までのタイムラグについて言えば、申請してから調査が来るまでに2〜3年かかるケースもあります。時効は原則5年ですが、「時効だから大丈夫」は禁物です。
参考:立入検査の実態・発覚事例を具体的に解説しています。
申請前に知っておいてほしい雇用調整助成金の不正受給(特定社会保険労務士 監修)
不正受給には、悪意ある虚偽申請と「知らずに起きてしまった」不適正受給の2種類があります。制度が複雑なため、後者が思いのほか多いのが現場の実態です。
最も典型的なのが休業の水増し申請です。全社休業としていた期間中に、1名だけ顧客対応で出勤した事実が、その日の領収書や駐車場の記録から発覚したケースがあります。経営者が「知らなかった」と言っても、「従業員の勤務状況を管理する義務を果たしていない」として不正認定されます。
これは厳しいところですね。
次に多いのが退職届の提出日と退職日の混同です。退職する従業員は「退職日まで」ではなく「退職届を提出した日まで」しか雇調金の対象になりません。この日付のズレを見落として複数日分を多く申請してしまう事務ミスは、どの会社でも起こり得ます。
また、まだ支払っていない休業手当を「支払い済み」として申請するケースも不正受給に該当します。「助成金が下りたら払おう」という資金繰りの発想は法的に認められず、要件を満たしていない時点での申請それ自体が問題とみなされます。
さらに、従業員のコロナ感染による休業を雇調金で申請しようとするケースも誤解が多い事例です。従業員本人の感染による休業は「個人の都合」であり、雇調金(事業主の都合による休業への支援)の対象外です。このケースは健康保険の傷病手当金を使うのが正しい対応です。
不正受給と認定された場合、まず直撃するのが金銭的ペナルティです。
「返せばいい」で済む話ではありません。
返還を求められる金額は「不正があった額だけ」ではありません。不正発生日を含む判定基礎期間以降に受給した助成金の全額が返還対象となり、そこに以下の加算が乗ります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 元本返還 | 不正発生日以降に受給した助成金の全額 |
| 違約金(加算金) | 返還額の20%相当 |
| 延滞金 | 不正受給日の翌日〜完済日まで年3% |
例えば1,000万円を受給して2年後に発覚した場合、元本1,000万円+違約金200万円+延滞金約60万円=1,260万円超を短期間に返還しなければならない計算です。
これは痛いですね。
さらに、不正受給決定の日から5年間、雇用調整助成金を含むすべての雇用関係助成金の受給が停止されます。人材育成・キャリアアップ・雇用安定と、経営に直結する支援が一切受けられなくなります。返還が完済されない間は、この5年の停止期間が延長されます。
注目すべき点として、社会保険労務士などの申請代行者が不正に関与した場合、事業主との連帯返還義務が生じます。つまり専門家に任せたつもりでも、その専門家と同等の返還義務を負うことになります。
参考:行政上のペナルティの正確な根拠法令を確認できます。
行政上のペナルティだけでは終わらないのが雇調金不正受給の怖さです。
結論は明確です。
虚偽申請による不正受給は詐欺罪(刑法246条)が成立し、最大10年以下の拘禁刑(旧:懲役刑)が科されます。詐欺罪には罰金刑の規定がないため、起訴されれば無罪か実刑・執行猶予のいずれかの判決になります。
実際の判決例を見ると、大阪地裁では雇用関係助成金の不正受給に対して懲役6年の実刑判決が言い渡されたケースがあります。また、複数の申請月にわたって不正を繰り返していた場合、併合罪として最長15年の拘禁刑が適用される可能性もあります。
刑事告発の基準について言えば、労働局が「特に重大または悪質」と判断した場合に警察へ刑事告訴・告発が行われます。悪質性の判断要素には、組織的な関与・虚偽書類の作成・高額な不正受給額・社労士など専門家の指南が含まれます。
実刑を受けた場合、法人の代表者は経営から離脱せざるを得なくなります。取引先・金融機関への波及を含めると、会社の存続自体が危うくなります。
金銭的・刑事的ペナルティ以上に、多くの経営者が恐れるのが企業名の公表です。一度インターネットに掲載されると、事実上永続的に検索結果に残ります。
公表の基準は「支給決定取消額が100万円以上」が原則です。ただし100万円未満でも、態様が特に悪質な場合は公表対象になります。反対に、100万円以上であっても労働局が調査を行う前に自主申告し、全額を速やかに返還した場合は、原則として公表しないという制度があります。
公表される情報の内容は、事業主名・代表者氏名・事業所所在地・不正受給金額・不正の内容・社労士等が関与した場合はその氏名や事務所名です。これだけの情報がネット上に載れば、取引先・銀行・求職者すべての目に触れることになります。
公表後の経営への影響は深刻です。東京商工リサーチのデータによると、不正受給を公表された企業のうち129社(6.82%)が2025年12月までに倒産しています。全国の企業倒産発生率0.28%(2024年度)と比べると実に24.3倍という異常な高率です。
公表後に倒産した129件のうち、68.2%が「公表日当日か公表後」の倒産です。公表によって取引先からの信用が一気に失われ、資金回収が困難になった結果であると考えられます。
参考:企業名公表制度の全仕組み・公表ページへのリンクは厚生労働省の公式ページから確認できます。
各都道府県の労働局は、不正受給と認定して取消処分をした企業名を、それぞれの公式ウェブサイトで定期的に公表しています。「自社の取引先が公表されていないか確認したい」「投資先の企業リスクを調べたい」という場面では、このページを直接チェックするのが最も確実です。
公表ページのURLは都道府県ごとに異なりますが、厚生労働省の「雇用調整助成金(不正受給関係)」ページに全都道府県のリンクが一覧形式で掲載されています。北海道から沖縄まで47都道府県分のリンクがまとめられており、最新の公表情報にアクセスできます。
これは使えそうです。
公表情報には次の項目が含まれます。
金融目線での活用例として、融資審査や取引先与信管理のチェックリストに「雇調金不正受給公表企業への該当確認」を加えることは、企業リスク管理の精度向上につながります。特にコロナ禍の特例措置を利用した可能性がある業種・業歴の企業との取引前には、公表ページを一度確認する習慣が有効です。
「不正受給かもしれない」と気づいた経営者がまず取るべき行動が自主申告です。制度の詳細を理解していれば、最悪の事態を回避できる可能性が高まります。
自主申告とは、労働局が調査を行う前に、不正・不適正な受給であった全ての事実を自ら申告することです。条件は「調査前に全事実を申告し、全額を速やかに返還する」の2点です。この条件を満たせば、原則として企業名の公表が行われません。ただし、特に重大または悪質な案件はこの限りではありません。
自主申告の手順は、まず申請した都道府県労働局に電話・文書で連絡し、要件に合致しないことを示す書類を提出します。「調査が入っているが一部のみ先に申告したい」という場合も、その旨を含めて申告できます。
この制度の最大のメリットは企業名非公表だけではありません。前述のとおり、自首による場合は場合によって違約金(加算金)・延滞金の免除措置が適用されることもあり得ます(弁護士を通じた交渉が必要)。
「おそらく問題ない」という認識でいたとしても、申請書類を社労士に確認依頼することは費用対効果が高い行動です。不正受給発覚後の返還・違約金・延滞金を試算すると、数百万〜数千万円規模になるケースが多く、専門家への事前相談費用と比較するまでもありません。
この視点はほとんどの記事には書かれていません。雇調金不正受給問題を「投資・融資の文脈」から読み解くと、見えてくるリスクがあります。
まず、コロナ特例措置で雇調金が支給された2020〜2022年は、同時期に「ゼロゼロ融資(無利子・無担保融資)」が行われた時期でもあります。雇調金の不正受給企業は、同じ時期にコロナ関連の融資を受けているケースが多く、融資の返済期限到来と不正受給発覚・返還請求が重なると経営破綻リスクが急増します。
実際、公表企業の倒産発生率は通常の約24倍です。取引先として与信審査をする場合、または株式投資先の関連会社として確認する場合、雇調金不正受給公表企業か否かは有用な判断材料になります。
次に「業歴の浅い企業への注意」という観点です。公表された企業の約4割が業歴10年未満で、中には2020年以降の設立が90社含まれています。設立間もない法人からの取引申し込みや資金調達の相談があった場合、コロナ禍の助成金・給付金利用状況を確認することが信用リスク管理として有効です。
金融機関や投資家が公開情報として無料で確認できるツールとして、東京商工リサーチや帝国データバンクの企業情報データベースも活用できます。これらは不正受給公表情報と企業の財務データを紐づけて確認する際に有用です。
「発覚したかもしれない」「調査が入った」という段階で、多くの経営者は焦りから誤った行動をとってしまいます。
結論が重要です。
絶対にやってはいけないのは、書類を隠滅・改ざんする行為です。
証拠隠滅が発覚すると、単純な不正受給案件が「組織的詐欺」として悪質性が認定され、刑事告発リスクが一気に高まります。労働局の調査官は「申請書類と実態の矛盾を探す専門家」です。改ざんされた書類はむしろ疑惑を深める材料になります。
弁護士に相談するタイミングは「調査が来る前」が最良です。自主申告の手続きは書類作成・証拠の整理・返還交渉など専門的な作業が伴います。刑事事件への発展リスクがあるケースでは、刑事事件に注力している弁護士に早期に同行を求めることで、逮捕リスクの低減と刑事処分の軽減が期待できます。
社会保険労務士に相談する場合は注意が必要です。前述のとおり、社労士は不正受給に関与した場合に事業主と連帯返還義務を負う立場にあります。「何としても不正受給を見なかったことにしてほしい」という依頼を受けた社労士は逆に法的リスクを抱えることになるため、適切な専門家は正直な申告をサポートする立場であることを理解しておく必要があります。
参考:弁護士視点での不正受給対応・自首のメリットについて解説されています。
雇用調整助成金を不正受給したら逮捕される?【弁護士が解説】(デイライト法律事務所)
「コロナも終わったし、もう調査は終わりだろう」という認識は危険です。
厚生労働省は2026年以降も事後調査を継続する方針を明示しています。調査の時効は原則5年ですが、2020年4月に始まったコロナ特例措置の不正受給は、2025年がちょうど時効の境目になります。このため、2025年には時効前の駆け込み調査が強化された可能性があります。
現在(2026年時点)も未回収額は250億円超に達しており、国は回収を続けています。全額返還されていない企業については、前述のとおり5年の助成金停止期間が延長されるため、事実上の調査継続が続いているとも言えます。
2026年度以降の雇用調整助成金は、コロナ特例措置が完全に終了し、通常の雇用保険法に基づく運用に戻ります。支給要件が厳格化された通常制度では、不正受給が発生しにくい仕組みになっているとも言えますが、今後も経済変動時の雇用維持策として大規模な特例が再び導入される可能性はあります。
その際にも今回の教訓が活きるかどうかは、制度設計の厳格化と事業主側のコンプライアンス意識にかかっています。
ここまでの内容を整理します。雇用調整助成金の不正受給は「バレなければ得をする」どころか、発覚時の金銭的・刑事的・社会的ダメージが受給額をはるかに超える構造になっています。
公表された企業の6.82%が倒産し、それは全国平均の24倍以上という数字が示すとおり、一度公表されれば経営の継続が困難になるリスクがあります。
これが基本です。
一方で、制度を正しく理解した上での正当な申請は、経営を守る有効な手段です。現在も適正に受給した助成金について不必要に心配する必要はありません。不安があれば社労士に書類の確認を依頼するのが最も費用対効果の高い対策です。
| 確認事項 | リスク内容 |
|---|---|
| 休業期間中に1名でも出勤していないか | 全期間分が不正受給対象に |
| 退職届提出日と退職日を混同していないか | 対象日数の過大申請に |
| 休業手当を支払い前に申請していないか | 要件未充足で不正受給に |
| 申請書類を5年間保存しているか | 調査時に証明不能になる |
| 従業員本人のコロナ感染を理由に申請していないか | 対象外の事由で不正受給に |
「自分の会社は大丈夫か」という観点で申請書類を見直すことが、現時点でできる最善の対策です。問題が見つかった場合は、速やかに労働局への自主申告を検討することで、企業名公表というリスクを回避できる可能性が残されています。
十分な情報が集まりました。
記事を生成します。