事業所税の計算方法と免税点の判定基準

事業所税の計算方法と免税点の判定基準

事業所税の計算方法と申告手続き

事業所税の基本情報
🏙️
目的税としての性質

都市環境の整備・改善のための財源として1975年に創設された特定都市の市町村税

💰
二つの課税区分

事業所床面積に対する「資産割」と従業者給与総額に対する「従業者割」の2種類

📊
免税点の存在

事業所床面積1,000㎡以下または従業者数100人以下の場合は課税されない

事業所税の概要と課税対象地域の確認方法

事業所税は、都市環境の整備及び改善に関する事業に要する費用に充てるための目的税です。1975年に創設され、大都市における都市問題を解決するための財源として機能しています。この税金は地方税法で定められた特定の都市のみで課税される市町村税であり、すべての市町村で課税されるわけではありません。

 

2025年4月現在、全国で約80の都市が課税対象地域となっています。具体的には以下のような都市が該当します。

  • 東京都23区(特例で都税として課税)
  • 政令指定都市(札幌市、横浜市、名古屋市、大阪市、福岡市など)
  • 人口30万人以上の地方税法施行令で指定された市(旭川市、宇都宮市、所沢市など)
  • 東京都内では23区のほか、武蔵野市、三鷹市、八王子市、町田市の4市

事業所税は、これらの指定都市等に事業所を持つ法人または個人事業主に対して課税されますが、事業規模が一定以下の場合は免税点制度により課税されません。

 

事業所税の課税対象となるかどうかを判断する際には、まず自社の事業所が課税対象地域内にあるかを確認することが第一歩です。不明な場合は、事業所が所在する市町村の税務担当部署に問い合わせることをお勧めします。

 

事業所税の資産割の計算方法と税率

事業所税の資産割は、事業所等の床面積を対象として課税されるものです。具体的な計算方法と税率について詳しく解説します。

 

資産割の計算式は非常にシンプルです。
資産割の税額 = 事業所床面積(㎡)× 600円
ただし、課税対象となるのは指定都市内の事業所等の合計床面積が1,000㎡を超える場合のみです。この1,000㎡という基準が「免税点」と呼ばれるものです。例えば、東京23区内に複数の事業所を持つ場合、それらの合計床面積が1,000㎡を超えると課税対象となります。

 

資産割の計算において注意すべき点がいくつかあります。

  1. 床面積の算定方法
    • 自己所有か賃借かを問わず、事業に使用している床面積が対象となります
    • 共用部分(廊下、エレベーターホールなど)も専用部分に対応する面積を含めて計算します
    • 事業年度の途中で事業所を新設・廃止した場合は月割計算を行います
  2. 非課税となる床面積
    • 従業員のための福利厚生施設(休憩室、食堂、喫煙室など)
    • 屋外の平面駐車場(固定資産税上の「家屋」と認められないもの)
    • 消防用設備や防災施設の設置部分

資産割の計算例として、東京23区内に本社(800㎡)と営業所(300㎡)を持つ企業の場合。

  • 合計床面積:800㎡ + 300㎡ = 1,100㎡
  • 免税点(1,000㎡)を超えているため課税対象
  • 資産割の税額:1,100㎡ × 600円 = 660,000円

資産割の計算に必要な情報を収集する際には、事業所の図面や賃貸借契約書などの資料が重要です。これらの資料は申告内容の確認のために税務署から提出を求められる可能性もあるため、適切に保管しておくことをお勧めします。

 

事業所税の従業者割の計算方法と給与総額の範囲

事業所税のもう一つの課税区分である従業者割は、従業者の給与総額を対象として課税されます。従業者割の計算方法と給与総額の範囲について詳細に解説します。

 

従業者割の計算式は以下の通りです。
従業者割の税額 = 従業者給与総額 × 0.25%
従業者割が課税されるのは、指定都市内の事業所等の従業者数の合計が100人を超える場合のみです。この100人という基準が従業者割における「免税点」です。

 

従業者割の計算において重要なポイントは以下の通りです。

  1. 従業者数の判定方法
    • 従業者数を判定する際には、正社員のみが対象となり、アルバイトやパートタイマーは含まれません
    • 例えば、正社員90名、アルバイト40名の企業の場合、従業者数は90名となり、免税点(100人)以下のため従業者割は課税されません
  2. 給与総額の範囲
    • 給与総額を計算する際には、正社員だけでなくアルバイトやパートタイマーの給与も含めます
    • 役員報酬も給与総額に含まれます
    • 役員以外の65歳以上の従業者や障がい者の給与は控除することができます
  3. 給与の範囲
    • 基本給、残業手当、賞与などの通常の給与項目
    • 通勤手当や住宅手当などの各種手当
    • 現物給与(社宅の家賃補助など)

従業者割の計算例として、東京23区内の事業所で従業者数120人、年間給与総額が6億円の企業の場合。

  • 従業者数が免税点(100人)を超えているため課税対象
  • 従業者割の税額:6億円 × 0.25% = 1,500,000円

従業者給与総額を正確に把握するためには、給与台帳や源泉徴収簿などの給与関連資料を適切に管理することが重要です。また、65歳以上の従業者や障がい者の給与を控除する場合は、それらを証明する資料も必要となります。

 

事業所税の非課税対象施設と特例措置

事業所税の計算において、すべての施設や床面積が課税対象となるわけではありません。非課税対象となる施設や特例措置について理解することで、適切な税額計算が可能になります。

 

非課税対象となる主な施設

  1. 福利厚生施設
    • 休憩室、娯楽室、食堂、喫煙室
    • 体育館、保養所
    • 更衣室(原則として)
  2. 駐車場関連
    • 屋外の平面駐車場(土地のみのもの)
    • カーポート(固定資産税上の「家屋」と認められないもの)

      ※屋内駐車場や立体駐車場は課税対象となる点に注意

  3. 防災・消防設備
    • 屋内消火栓やポンプ室
    • 避難器具の設置部分
    • その他の消防用設備
  4. その他
    • 倉庫業の倉庫や農業、林業、漁業の事業所
    • 宗教法人の境内建物
    • 学校法人の校舎

ただし、非課税対象となる施設であっても、業務の性質上必要とされる場合は非課税にならない場合があります。例えば、以下のような施設は業務上必要と判断され、非課税対象外となります。

  • 制服着用義務がある会社の更衣室
  • タクシー乗務員の仮眠室
  • 研修所
  • 工場の浴室

特例措置
事業所税には、特定の事業や状況に対する特例措置も設けられています。

  1. 中小企業者に対する軽減措置

    資本金等が1億円以下の法人等が、特定の地域で新たに事業所等を設置した場合、一定期間、事業所税の課税標準を軽減する措置があります。

     

  2. 事業所の新増設に対する特例

    特定の地域で事業所を新設または増設した場合、一定期間、事業所税の課税標準を軽減する特例があります。

     

  3. 特定の業種に対する特例

    特定の業種(例:製造業、情報通信業など)に対して、事業所税の課税標準を軽減する特例が設けられている場合があります。

     

これらの非課税対象施設や特例措置は、地域や時期によって異なる場合があるため、最新の情報を確認することが重要です。また、非課税対象施設の判断に迷う場合は、所轄の税務署や市町村の税務担当部署に相談することをお勧めします。

 

事業所税の申告期限と延長制度がない注意点

事業所税の申告・納付に関する期限は他の税金と異なる特徴があり、特に申告期限の延長制度がない点は重要な注意点です。ここでは、申告期限と申告手続きの詳細について解説します。

 

申告・納付期限
事業所税の申告・納付期限は以下の通りです。

  • 法人の場合:事業年度終了の日から2か月以内
  • 個人の場合:事業を行った年の翌年3月15日まで

特に重要なのは、法人税や法人住民税、法人事業税とは異なり、事業所税には申告期限の延長制度が存在しないという点です。通常、多くの法人は法人税等の申告期限を1か月または2か月延長していますが、事業所税についてはそのような延長ができません。

 

例えば、3月決算の法人の場合。

  • 法人税等の申告期限:5月31日(通常の期限は5月31日、延長申請により6月30日または7月31日)
  • 事業所税の申告期限:5月31日(延長不可)

この違いにより、事業所税の申告・納付を忘れてしまうケースが少なくありません。特に事業規模の大きい企業では、他の税目は申告期限を延長しているため、事業所税だけが先に申告・納付期限を迎えることになります。

 

申告手続き
事業所税の申告は、指定都市内における主たる事業所等の所在地を所管する税務署(東京23区の場合は都税事務所)に行います。申告には以下の書類が必要です。

  1. 事業所税申告書
  2. 事業所税明細書(事業所ごとの床面積や従業者数を記載)
  3. 貸借対照表や損益計算書などの決算書類(法人の場合)
  4. 事業所の図面や賃貸借契約書(必要に応じて)

免税点以下の場合の申告義務
免税点以下であることにより納税義務がない場合でも、指定都市等によっては条例の定めにより申告書の提出が必要な場合があります。例えば、以下のような場合には申告が必要です。

  • 事業所床面積の合計が800㎡を超える場合
  • 従業者数が80人を超える場合
  • 前年度に納付すべき事業所税額があった場合

申告・納付漏れのリスク
事業所税の申告・納付を忘れた場合、以下のようなリスクがあります。

  • 延滞税の発生
  • 無申告加算税や重加算税の課税
  • 税務調査の対象となる可能性の増加

特に、事業所を新たに開設した場合や、事業拡大により免税点を超えた場合には注意が必要です。成長スピードの速いスタートアップ企業では、当期からいきなり申告・納税が必要になるケースもあります。

 

事業所税の申告漏れを防ぐためには、申告カレンダーに明確に記載しておくことや、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。また、事業所の新設・移転・拡張を行った際には、事業所税の課税対象となる可能性を検討することも重要です。

 

事業所税の電子申告と実務上の計算ポイント

事業所税の申告・納付をより効率的に行うための電子申告(eLTAX)の活用方法と、実務上の計算における重要なポイントについて解説します。

 

事業所税の電子申告(eLTAX)
事業所税も他の地方税と同様に、地方税ポータルシステム「eLTAX(エルタックス)」を利用して電子申告することができます。電子申告には以下のようなメリットがあります。

  1. 申告の効率化
    • 窓口に行く必要がなく、オフィスから申告可能
    • 24時間365日申告可能(メンテナンス時間を除く)
    • 複数の地方公共団体への申告をまとめて行うことが可能
  2. ミスの削減
    • 入力チェック機能により記載誤りを防止
    • 過去の申告データを再利用可能
  3. 電子納税との連携
    • 申告と同時に電子納税も可能
    • 納付書の作成・郵送が不要

電子申告を利用するためには、事前に利用届出を行い、電子証明書を取得する必要があります。また、eLTAXに対応した税務・会計ソフトウェアを用意するか、eLTAXのポータルセンタから提供されるPCdesk(無償)を利用する必要があります。

 

実務上の計算ポイント
事業所税の計算を行う際には、以下のポイントに特に注意が必要です。

  1. 床面積の正確な把握
    • 賃貸借契約書や図面から専有部分の面積を確認
    • 共用部分の面積を適切に按分(ビルオーナーから情報を入手)
    • 非課税部分(福利厚生施設など)を正確に区分
  2. 従業者数と給与総額の正確な集計
    • 従業者数の判定では正社員のみをカウント
    • 給与総額の計算ではアルバイト・パートの給与も含める
    • 65歳以上の従業者や障がい者の給与を適切に控