

税関の犯則調査を受けても、税理士には対応を頼めません。
税関による調査には大きく「事後調査」と「犯則調査」の2種類があります。この2つを混同している方は非常に多く、対応を誤るリスクにつながりやすいため、まずはその違いを整理しておくことが重要です。
「事後調査」とは、輸出入者の事業所を税関職員が訪問し、帳簿や書類を確認する税務的な行政調査です。申告漏れや申告誤りを是正するのが主な目的であり、行政指導の性格が強いといえます。調査の対象期間は通常5年間遡ることができます。
一方、「犯則調査」はまったく性格が異なります。これは関税法の規定に基づき、不正な手段により故意に関税を免れた疑いのある者(犯則嫌疑者)に対して行われる、犯罪捜査に準ずる調査手続きです。つまり、単純な申告ミスではなく、悪質な意図を持った脱税行為を対象にしています。
具体的には、任意で犯則嫌疑者や参考人に対して出頭を求め、質問や所持品の検査を行います。さらに必要と判断されれば、裁判官が事前に発する許可状(令状)を取得した上で、臨検・捜索・差押といった強制調査まで行うことができます。
税関には逮捕権限はありませんが、張り込み・追尾・捜索・取り調べを実施するため、実態は刑事ドラマに出てくる捜査活動とほぼ同じです。これが原則です。
| 項目 | 事後調査 | 犯則調査 |
|---|---|---|
| 目的 | 申告の適正確認・是正指導 | 犯則事実の解明・刑事責任の追及 |
| 対象 | 申告誤りのある輸出入者 | 故意に関税を免れた疑いのある者 |
| 調査方法 | 書類・帳簿の確認(任意) | 任意調査+令状による強制調査 |
| 結果 | 修正申告・不足税額の納付 | 通告処分または検察官への告発 |
| 専門家 | 弁護士(通関士資格があるとより望ましい) | 弁護士(必須) |
金融関係の業務で輸出入に関わる方は、この違いだけ覚えておけばOKです。事後調査は「税務的な行政指導」、犯則調査は「刑事手続の前段階」と理解しておきましょう。
税関の事後調査・犯則調査の公式な説明は以下の財務省ページで確認できます。
税関 Japan Customs「事後調査等」(犯則調査の定義・目的・手続きが公式に解説されています)
犯則調査が開始されると、最終的に2つの結論のどちらかに至ります。それが「通告処分」か「検察官への告発」です。この2つは法的な性質がまったく異なるため、対象となった場合の影響も大きく変わります。
「通告処分」とは、犯則調査の結果として情状が罰金刑に相当すると税関長が判断した場合に、罰金相当額の納付を求める行政処分です。重要なのは、通告処分に応じて金額を納付した場合、前科にはならないという点です。刑事手続に移行しないため、法律上は犯罪歴として残りません。これはいいことですね。
ただし、通告処分に応じなかった場合は話が変わります。犯則者が納付を拒否した場合には、税関は検察官に告発することになります。告発に至ると刑事手続に移行し、裁判所での審理を経て有罪となれば前科がつきます。関税法違反(無許可輸出入等)の場合、最大で5年以下の懲役または500万円以下の罰金という重い罰則が規定されています。
さらに、2005年(平成17年)の制度改正以降、申告納税方式が適用される貨物に係る犯則事件については通告処分を行わず、直接検察官に告発する扱いになっています。これは見落としがちな重要なポイントです。通告処分というワンクッションを経ずに、いきなり刑事手続きに進む可能性があることを理解しておく必要があります。
犯則調査から処分に至るまでの流れを整理すると以下のようになります。
犯則調査は刑事事件ではないから大丈夫だと楽観視するのは禁物です。告発に至る可能性がある以上、対応は慎重に行う必要があります。
貿易通関・税務・知財 法律相談「犯則調査の流れについて」(通告処分と告発の分岐点がわかりやすく解説されています)
犯則調査の件数は、近年急速に増加しています。財務省が令和7年(2025年)11月に公表した令和6事務年度のデータは、金融・貿易に関わる方にとって見過ごせない内容です。
令和6事務年度(令和6年7月〜令和7年6月)において、全国の税関が行った犯則調査の処分件数は300件(前事務年度比91%増)、脱税額は約7億円(同79%増)となり、ともに大幅な増加を記録しました。
この数字を感覚的にとらえると、処分件数は前年のほぼ2倍という水準です。1ヶ月あたりに換算すると25件の処分が行われていることになり、一部の特定業者だけの問題ではないことがわかります。
品目別に見ると、最も際立っているのが金地金(きんじがね)の密輸事件です。処分件数では186件と全体の約6割を占め、脱税額では約6億2千万円と全体の約9割を占めています。金地金の密輸が犯則調査の中心的な問題になっているということですね。
具体的な告発事例としては、以下のようなものが挙げられています。
金地金の密輸が急増した背景には、消費税率の引き上げがあります。海外で消費税のかからない価格で金を購入し、日本国内で消費税込みの価格で売却することで差益を得る手法が横行しています。平成26年4月に消費税率が8%に引き上げられた後、金の密輸は急増し、平成29年には1,347件・約6.3トンもの押収があったほどです。
この問題は、金投資に興味を持つ投資家にとっても無関係ではありません。金の売買・輸出入に関わる際には、消費税の取り扱いや申告の正確さが問われる場面があることを認識しておきましょう。
令和6事務年度の処分結果の詳細は以下の財務省発表で確認できます。
財務省「令和6事務年度の関税等脱税事件に係る犯則調査の結果」(処分件数・脱税額・品目別データが掲載されています)
金融・貿易関係の方が犯則調査を受けた際、真っ先に思い浮かべるのは「顧問税理士に相談しよう」という行動かもしれません。しかし、これが大きな落とし穴になります。痛いですね。
結論からいうと、税理士は税関の犯則調査・事後調査に対応する権限を持っていません。
税理士の業務範囲は、税理士法によって「国税に関する税務書類の作成・税務代理・税務相談」に限定されています。一方、税関が扱う「関税」は国税ではなく、税理士の独占業務の対象外とされています。そのため、税理士は税関との交渉・事後調査への立会い・犯則調査への対応を職務として行う権限がないのです。
では誰に頼めばいいのでしょうか?税関対応においては、弁護士(または弁護士資格と通関士資格の両方を持つ専門家)が適切な対応者となります。弁護士は法律に関するすべての業務を取り扱うことができるため、関税法に基づく調査への立会い・主張・交渉・行政処分への対応を一貫して行うことが可能です。
特に、通関士資格を持つ弁護士は通関実務の実態も理解しているため、税関職員と同じ専門用語・目線で議論できるという強みがあります。これは使えそうです。
実際の対応において、以下の点が重要です。
また、税関の事後調査については、通関業者が立会いを行えるケースもあります。ただし、事実認識や主張の整理・法的判断が必要な場面では弁護士の役割が不可欠です。どの専門家に依頼するかは、調査の性格(事後調査か犯則調査か)によって判断することが基本です。
有森FA法律事務所「税関事後調査の弁護士による立会いは必要か?」(税理士が対応できない理由と弁護士の役割が詳しく解説されています)
犯則調査は特定の大企業だけの問題ではなく、個人の輸入・金投資・越境EC取引など、幅広い場面でリスクが存在します。金融に関心がある個人投資家にとっても、知っておくべき実務的な注意点があります。
まず、税関の犯則調査の対象として特に多いのは以下の行為です。
個人投資家が特に注意すべきなのは、金(ゴールド)への投資と輸入の交差点です。海外で金を購入して日本に持ち込む際、1キログラムを超える金地金は非課税で持ち込めません。日本で金を売却すると10%の消費税が乗った価格での売却となるため、税率差を利用した密輸は摘発対象になります。
また、越境ECや個人輸入で商品を繰り返し輸入している場合も注意が必要です。輸入貨物の課税価格を意図的に低く申告(アンダーバリュー)する行為は、悪質と判断されれば犯則調査の対象になります。「少額なら問題ない」という認識は危険です。
さらに、見落とされやすいのが関税の時効の問題です。通常の事後調査は5年間遡れますが、犯則事件については時効の計算が異なります。「もう古い話だから大丈夫」と思っていても、犯則調査の対象になりうるケースがあります。
投資目的で金地金の売買を行う方が確認すべき公式情報として、税関のサイトが参考になります。
税関 Japan Customs「金密輸の取締強化について」(金地金の密輸摘発強化の背景と具体的な取締状況が掲載されています)
犯則調査のリスクを避けるための最善策は、申告内容の正確さを徹底することです。輸入時の申告金額・品目・数量を正確に記載し、不明な点は通関業者や弁護士に相談する習慣が身につけばリスクはほぼ回避できます。「申告内容を正確に維持する」が条件です。
また、国際的な金の売買・輸入を業として行う場合には、税関の「事前教示制度」を活用することも有効な手段のひとつです。これは輸入前に税関に対して品目分類・関税率・通関手続きの方法などを事前に照会できる制度で、申告誤りを未然に防ぐことができます。