
デフォルト・ウォーターフォール損失分担とは、中央清算機関(CCP: Central Counterparty)において清算参加者が破綻した際に、発生する損失を段階的に分担する仕組みです。この制度は、金融市場の安定性を確保するために不可欠な要素となっています。
CCPは、清算参加者同士の取引の仲介役として機能し、参加者のデフォルト時には他の参加者への波及を防ぐために損失を吸収する役割を担います。この損失吸収には、事前に定められた優先順位(ウォーターフォール)があり、以下の順序で実行されます:
第1段階:デフォルターズペイ(破綻参加者の負担) 🔻
第2段階:CCP自身の負担 🏢
第3段階:サバイバーズペイ(生存参加者の負担) 👥
この仕組みにより、破綻参加者が第一義的に損失を負担し、それでも不足する場合にのみ他の参加者が負担することで、公正性を保っています。
証拠金制度は、デフォルト・ウォーターフォールの第一段階として極めて重要な役割を果たします。証拠金は主に2種類に分類されます:
変動証拠金(Variation Margin) 📈
変動証拠金は、デリバティブ取引の時価評価に応じて日々授受される証拠金です。各時点でポジションが不利になった参加者がCCPに差し入れる仕組みで、市場価格の変動によるリスクを即座に反映します。
清算参加者がデフォルトした場合、CCPはまずこの変動証拠金から損失を補填しますが、実際のポジション処理過程で追加的な損益が発生するため、これだけでは十分でない場合があります。
当初証拠金(Initial Margin) 🛡️
当初証拠金は、デフォルト時点からポジション処理完了まで の期間に発生し得る損失を確率的に推計し、それに基づいて各参加者が拠出する証拠金です。過去の市場価格変動や取引規模を考慮した リスク量に基づいて算出されます。
通常、デフォルトメンバーの拠出する証拠金で十分に損失を吸収できるように設計されていますが、世界的金融危機や大災害等による複数参加者の同時デフォルトといった極めて稀な状況では、証拠金のみでは不足する場合もあります。
国際的な金融規制において、デフォルト・ウォーターフォール損失分担制度は厳格な要件が設けられています。CPMI-IOSCO(支払・決済制度委員会・証券監督者国際機構)が策定したPFMI(金融市場インフラのための原則)では、システミックリスクが集中する傾向にある金融市場インフラに対し、リスク管理の面で遵守すべき原則を規定しています。
主要な規制要件 ⚖️
日本の規制環境 🇯🇵
日本では、金融庁が店頭FX業者の決済リスクへの対応について詳細な検討を重ねており、中央清算機関の役割がますます重要視されています。特に、リーマンショック以降の金融規制強化により、店頭デリバティブの清算集中義務が導入され、CCPの損失分担制度への注目が高まっています。
EMIRにおける規定 🇪🇺
欧州では、EMIR(European Market Infrastructure Regulation)により、清算参加者のデフォルトによる損失が証拠金でカバーできない場合に備えて、事前に基金を積み立てることが義務付けられています。
実際の運用において、デフォルト・ウォーターフォール損失分担制度は複雑なリスク管理手続きを伴います。CCPは、定められたデフォルト管理プロセスに従って、迅速かつ適切に損失処理を実行する必要があります。
デフォルト処理のプロセス ⚙️
リスク量評価の課題 📊
CCPは、各清算参加者のリスク量に応じて証拠金を徴求しますが、以下のような課題があります。
これらのリスクを適切に管理するため、CCPは継続的なモニタリングとストレステストを実施し、必要に応じて証拠金水準や清算基金の規模を調整しています。
現在のデフォルト・ウォーターフォール損失分担制度にはいくつかの課題が存在します。特に、極端なストレス状況下での制度の有効性や、参加者間の公正な負担分配について議論が続いています。
現行制度の限界 ⚠️
キャッシュ・コール制度の問題点
生存参加者から追加資金を拠出させるキャッシュ・コール制度では、上場デリバティブを扱うCCPでは無制限徴求が一般的ですが、店頭デリバティブを扱うCCPでは デフォルト・ファンドの100%~200%というキャップが設定されています。この違いにより、制度の一貫性に課題があります。
VMヘアカット制度の複雑性
変動証拠金ヘアカット(VMH)は、参加者のポジションに応じた損失配分を行うツールですが、複数CCPとのポジション調整や、市場価格変動に依存する負担額の算定など、運用上の複雑さがあります。
システミックリスクの集中化 🔄
金融規制改革により、CCPの重要性が増す一方で、リスクの集中化という新たな懸念も生じています。米財務省金融調査局は、CCPの証拠金をカバーする資金が不足する場合、CCP自体がシステミックリスクの要因になり得ると指摘しています。
技術革新への対応 💻
デジタル技術の進歩により、以下のような改善が期待されています。
国際協調の必要性 🌐
グローバルな金融市場において、各国のCCPが相互に連携し、統一的な損失分担ルールを構築することが重要な課題となっています。特に、複数の管轄区域にまたがる取引では、どの国の規制が適用されるかという法的問題も存在します。
今後は、これらの課題に対処しながら、より堅牢で効率的な デフォルト・ウォーターフォール損失分担制度の構築が求められています。規制当局、市場参加者、技術提供者が協力し、金融システム全体の安定性を維持しつつ、イノベーションを促進する バランスの取れたアプローチが必要です。