ヘアカット規制算定方法の仕組みと適用範囲

ヘアカット規制算定方法の仕組みと適用範囲

ヘアカット規制の算定方法と仕組み

ヘアカット規制算定の基本構造
📊
算定の基本概念

担保価値に応じた掛け目を適用し、取引の安全性を確保する仕組み

⚖️
最低基準の設定

FSBが定める国際基準に基づく最低ヘアカット率の適用

🎯
規制の適用範囲

銀行対ノンバンク取引における証券担保取引が主な対象

ヘアカット規制の基本的な算定構造

ヘアカット規制の算定方法は、証券金融取引における担保の価格変動リスクを適切に反映させる仕組みです。基本的な考え方として、担保となる証券の時価に対して一定の「掛け目」を適用することで、価格変動による損失リスクを軽減しています。
具体的な算定式では、**H(実際のヘアカット)f(最低ヘアカット)**という2つの指標が重要な役割を果たします。実際のヘアカットHが最低ヘアカットfを下回る取引については、より高い資本賦課が課せられる仕組みとなっています。
例えば、現金貸出が100の取引で、担保が残存期間12年の社債101の場合、H = (101-100)/101 = 0.99% というように計算されます。このような具体的な計算式により、各取引のリスク度合いが数値化され、適切な規制が適用されます。

ヘアカット規制における担保別の算定基準

担保の種類によって適用される最低ヘアカット率は大きく異なります。国債などのソブリン債については0%のヘアカット率が適用される一方、社債については残存期間に応じて段階的に設定されています。
社債の場合、残存期間1年超5年以下で2.2%、5年超10年以下で4.5%、10年超で5.9%という水準が設定されています。株式については、主要インデックス銘柄で13.8%、その他の株式で17.5%と、より高いヘアカット率が適用されます。
これらの数値は、過去5年または2008年6月末以降の時系列データから、保有期間10日、信頼区間99%の期待損失に基づいて推計されており、科学的な根拠に基づいた設定となっています。
📈 計算の実例

  • 国債担保:ヘアカット率0%
  • 社債(5年物):ヘアカット率2.2%
  • 主要株式:ヘアカット率13.8%
  • その他株式:ヘアカット率17.5%

ヘアカット規制の適用範囲と対象取引

ヘアカット規制の適用範囲は、主として銀行対ノンバンク取引に焦点を当てています。具体的には、集中清算機関(CCP)において集中清算されないレポ等の証券金融取引(SFT)が対象となります。
重要な点として、バーゼルⅢが適用される銀行間や証券会社間の取引については、規制の対象外となっています。これは、すでに十分な資本規制が適用されているためです。
また、政府債券(ソブリン債)を担保とする取引についても適用除外とされており、各国の判断に委ねられています。この除外措置により、国債レポ市場への過度な影響を避ける配慮がなされています。
適用対象の整理

  • ✅ 銀行→ノンバンクへの証券担保融資
  • ❌ 銀行間・証券会社間の取引
  • ❌ 政府債券担保の取引
  • ❌ 集中清算される取引

ヘアカット規制のポートフォリオレベル算定方法

個別取引だけでなく、ポートフォリオレベルでの算定方法も重要な要素です。市中協議文書では、個別のSFTからポートフォリオ・レベルでのマージン(ヘアカット)を適用するSFTまで、取引の実態に応じて複数の計算方法が用意されています。
担保付現金貸出の個別取引の場合、担保の種類に基づいて最低ヘアカットのテーブルの水準を適用する一方、実際のヘアカットHは具体的な計算式の下で算出されます。
ネッティング・セットに含まれる取引については、より複雑な計算方法が適用されます。これにより、リスクの相殺効果を適切に反映し、過度な資本賦課を避ける仕組みが整備されています。

 

このポートフォリオアプローチにより、金融機関は効率的なリスク管理を行いながら、規制要件を満たすことが可能となっています。

 

ヘアカット規制算定における日本独自の課題と対応策

日本のレポ市場においては、ヘアカット規制の影響が比較的限定的であると予想されています。これは、日本の金融機関が従来から保守的なリスク管理を行ってきたことが背景にあります。
しかし、規制導入に向けた準備作業には相当な期間が必要です。データ収集、リスク分析、独自のヘアカットスケジュール作成等に必要な時間を考慮し、段階的な対応が求められています。
特に、クロスボーダー取引における規制の二重適用や衝突を避けるため、国際的な協調が重要な課題となっています。各国の規制環境や市場慣行の違いを踏まえた柔軟な枠組みが必要です。
日本市場の特徴
🏦 保守的なリスク管理文化
📊 限定的な規制影響の予想
⏰ 段階的導入の必要性
🌍 国際協調の重要性
また、FSBは2018年末までに各国が最低ヘアカット規制の枠組みを適用することを求めており、日本も国内法制の整備を進めています。エンティティ・ベース規制、プロダクト・ベース規制、ハイブリッド・アプローチのいずれかの方法で規制化することが求められています。
金融機関においては、新たなヘアカット算定メソドロジーの策定と関係者間での合意形成に十分な時間を確保し、市場への影響を最小限に抑えながら規制対応を進めることが重要です。