相次相続とは?控除制度と計算方法を解説

相次相続とは?控除制度と計算方法を解説

相次相続とは控除制度の基本

相次相続の重要ポイント
📅
10年以内の期間制限

一次相続から二次相続まで10年以内に発生した場合に適用される特例制度

💰
相続税の軽減効果

前回納付した相続税の一定額を今回の相続税から控除できる

⚖️
二重課税の防止

同じ財産に対する相続税の重複負担を軽減する仕組み

相次相続の定義と数次相続との違い

相次相続(そうじそうぞく)とは、文字通り「相次いで」相続が発生することを指します。具体的には、一次相続(最初の相続)が完了してから10年以内に二次相続(次の相続)が発生する状況のことです。

 

この相次相続には、同じ財産に対して短期間で複数回の相続税が課税されるという問題があります。例えば、祖父から父へ、そして父から子へと財産が移転する際に、それぞれで相続税が発生すると相続人の税負担が過重になってしまいます。

 

数次相続との違いを理解しましょう:

項目 相次相続 数次相続
発生タイミング 遺産分割完了後 遺産分割中
相続税申告 各相続で個別に申告 複合的な申告が必要
控除制度 相次相続控除が適用可能 特別な控除制度なし

相次相続は遺産分割が完了し、相続税の申告・納税も済んだ後に次の相続が発生するケースです。一方、数次相続は遺産分割協議中に相続人の一人が亡くなり、その人の相続権が次の世代に移る状況を指します。

 

相次相続が発生するパターンは多様で、親子間だけでなく兄弟間や3世代間でも起こり得ます。夫婦に子どもがいない場合、夫の死後に妻が相続し、その後妻が亡くなると妻の兄弟姉妹が相続人となる兄弟間の相次相続も珍しくありません。

 

相次相続控除の適用要件と条件

相次相続控除を受けるためには、以下の3つの要件すべてを満たす必要があります。
📋 適用要件チェックリスト

  • ✅ 控除を受ける人が被相続人の相続人であること
  • ✅ 前回の相続開始から今回の相続開始まで10年以内であること
  • ✅ 前回の相続で今回の被相続人が相続財産を取得し、相続税が課税されていること

重要な注意点:

  1. 相続人限定の制度:遺言によって財産を受け取った場合でも、法定相続人でなければこの控除は適用されません。相続放棄をした人や欠格・廃除で相続権を失った人も対象外です。
  2. 前回の相続税課税が必須:前回の相続で配偶者控除などにより相続税がゼロ円だった場合、相次相続控除は適用できません。実際に相続税を納付していることが前提条件です。
  3. 10年以内の期間制限:相続開始日から相続開始日までの期間で判定されます。例えば、2015年3月10日に一次相続、2025年3月9日に二次相続が発生した場合は適用可能ですが、2025年3月11日では10年を超えるため適用外となります。

控除額は経過年数に応じて1年につき10%の割合で減額されます。つまり、相続の間隔が短いほど控除額が大きくなる仕組みです。2年経過で80%、6年経過で40%といった具合に、時間の経過とともに控除率が下がっていきます。

 

国税庁の相次相続控除に関する詳細な要件や計算方法について
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4168.htm

相次相続控除の計算方法と具体例

相次相続控除の計算は複雑ですが、基本的な算式を理解することで控除額を把握できます。

 

基本計算式:
控除額 = A × B/C × D/C × (10-E)/10
各要素の説明:

  • A:今回の被相続人が前回の相続で課税された相続税額
  • B:今回の被相続人が前回の相続で取得した財産の価額(純資産価額)
  • C:今回の相続で全相続人が取得した財産の価額(純資産価額)
  • D:控除を受ける相続人が取得した財産の価額(純資産価額)
  • E:前回相続から今回相続までの経過年数(1年未満切り捨て)

具体的な計算例:
祖父が2016年3月10日に死亡、父が相続税1,000万円を納付。その後、父が2018年10月20日に死亡した場合の長男の相次相続控除額。

項目 金額・数値
A:父が納付した相続税額 1,000万円
B:父が相続した財産価額 1億1,000万円
C:父の相続で全員が取得した財産価額 8,000万円
D:長男が相続した財産価額 6,000万円
E:経過年数 2年(2年7か月→2年)

計算過程:
1,000万円 × 1億1,000万円/8,000万円 × 6,000万円/8,000万円 × (10-2)/10
= 1,000万円 × 1.375 × 0.75 × 0.8
= 825万円(長男の相次相続控除額)
この控除額は相続税申告書の「第7表(相次相続控除の計算書)」を使用して正確に計算します。計算の根拠として、前回の相続税申告書控のコピーの添付が必要です。

 

💡 控除額に影響する要因:

  • 経過年数が短いほど控除額が大きい
  • 前回の相続税額が多いほど控除額が大きい
  • 今回の相続での取得割合が高いほど控除額が大きい

相次相続控除の申告手続きと注意点

相次相続控除を適用するための手続きは、通常の相続税申告と合わせて行います。

 

📝 必要な手続き:

  1. 申告期限内の提出:相続開始を知った日の翌日から10か月以内に相続税申告書を提出
  2. 第7表の作成:相次相続控除の計算書(第7表)を作成・添付
  3. 必要書類の準備:前回の相続税申告書控のコピーを添付

重要な特例措置:

  • 申告不要の場合:相次相続控除により相続税額がゼロになる場合は申告義務なし
  • 更正の請求:当初申告で控除を忘れた場合、申告期限から5年以内なら更正の請求で適用可能
  • 未分割でも適用:遺産分割が未了でも法定相続分で仮定して控除適用可能

⚠️ よくある注意事項:

  1. 配偶者控除との関係:前回相続で配偶者が1億6,000万円の配偶者控除を使って相続税がゼロだった場合、相次相続控除は適用できません。
  2. 納税猶予との関係:事業承継税制や農地相続税制の納税猶予を受けていた場合、免除された相続税額は控除対象に含まれません。
  3. 相続時精算課税との調整:相続時精算課税を適用していた場合、贈与税額が控除された後の相続税額で計算します。

専門的な計算や手続きに関する詳細情報
https://www.zeirisi.co.jp/souzokuzei-keisan/chain-successions-tax-credit/

相次相続でよくあるトラブルと対策

相次相続が発生すると、通常の相続以上に複雑な問題が生じることがあります。実務で頻繁に見られるトラブルとその対策をご紹介します。

 

🚨 代表的なトラブル事例:
1. 前回申告書類の紛失問題
一次相続から数年経過後に二次相続が発生すると、前回の相続税申告書控を紛失しているケースが多発します。控除計算に必要な書類がないと適用できません。

 

対策:

  • 税務署で「閲覧請求」または「保有個人情報開示請求」を行う
  • 申告を依頼した税理士事務所に控えの保管を確認
  • 相続直後に重要書類をデジタル化して複数箇所に保管

2. 兄弟間での控除適用認識の齟齬
兄弟姉妹が相続人となる場合、相次相続控除の存在を知らないまま申告してしまうケースが散見されます。

 

対策:

  • 相続発生時は必ず過去10年の相続歴を確認
  • 複数の相続人がいる場合は情報共有を徹底
  • 専門家への相談を早期に実施

3. 計算の複雑さによる誤申告
控除額の計算式が複雑で、自力で計算すると間違いが生じやすい特徴があります。

 

対策:

  • 税務署の無料相談を活用
  • 相続専門の税理士に計算を依頼
  • 計算根拠となる資料を整理して保管

💡 事前対策のポイント:

  • 相続時の記録管理:将来の相次相続に備えて申告書類をデジタル保存
  • 家族への情報共有:相続税の納付実績を家族間で共有
  • 定期的な見直し:10年間は控除適用の可能性を意識した相続対策

特に高齢の配偶者がいる場合の注意点:
夫婦のどちらかが高齢の場合、短期間での相次相続の可能性が高くなります。一次相続で配偶者控除を最大限活用すると、二次相続で相次相続控除が使えなくなる場合があるため、トータルでの税負担を考慮した相続対策が重要です。

 

この制度を適切に活用することで、数百万円から数千万円の相続税軽減効果が期待できます。ただし、要件の確認や計算の正確性が重要なため、専門家との連携を強くお勧めします。