ABS(資産担保証券)の仕組みとリスクと投資機会

ABS(資産担保証券)の仕組みとリスクと投資機会

ABS(資産担保証券)の仕組みとリスクを徹底解説

AAAの格付きABSでも、2008年危機で元本が6〜7割失われた事例があります。


📊 この記事の3ポイントまとめ
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ABSの基本構造

ローンや債権などの資産をSPC(特別目的会社)に移し、証券化して投資家に販売する仕組み。「倒産隔離」によって発行元企業のリスクと切り離されている。

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格付けだけでは判断できないリスク

AAAの高格付けがついていても、2008年の金融危機ではABS-CDOで損失率6〜7割に達した事例がある。優先劣後構造とトランシェを正しく理解することが肝心。

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今のABSに投資機会はあるか?

世界のABS市場は2029年に3兆3,599億ドル規模(CAGR 6.7%)への成長が見込まれ、変動利付型の多さから金利上昇環境にも強い特性を持つ。


ABS(資産担保証券)とは何か?基本の仕組みをわかりやすく解説

ABS(Asset Backed Securities)は、日本語で「資産担保証券」と訳されます。簡単に言えば、企業や金融機関が持っているローン債権や売掛金などの資産を束にして、それを裏付けに発行する証券のことです。


具体的にイメージしてみましょう。銀行が1,000人分の自動車ローン債権を持っているとします。この債権のひとつひとつは小さな金額ですが、まとめて束にして「証券」という形に変換すると、機関投資家でも買いやすい商品になります。つまり、ABSとは「流動性の低い資産を、市場で取引できる証券に変換するプロセス」の産物です。


ABS発行の流れは、大きく以下のステップで進みます。


ステップ 内容 主なプレイヤー
ローン等の原資産を保有する オリジネーター(銀行・ローン会社)
原資産をSPC(特別目的会社)に売却・譲渡 オリジネーター → SPC
SPCが原資産を裏付けに証券を発行 SPC
証券を投資家に販売し資金を調達 証券会社・投資家
原資産からのキャッシュフローを投資家に分配 サービサー → 投資家


ここでとくに重要なのが、②のSPC(Special Purpose Company)の役割です。SPCは「倒産隔離」のために設けられます。つまり、ABSが基本です。オリジネーター(資産の元々の持ち主)が仮に倒産しても、SPCに移された資産はオリジネーターの倒産手続きの影響を受けません。この仕組みのおかげで、投資家は「元の会社の信用力」ではなく「資産そのものの信用力」で投資判断ができるのです。


担保となる原資産は多岐にわたります。住宅ローン(RMBS)、自動車ローン、クレジットカード債権、学生ローン、商業用不動産ローン(CMBS)など、定期的なキャッシュフローを生む資産であれば、原則として証券化の対象になります。これが原則です。


PIMCO(パシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー)によると、ABSの市場規模は全体で約1.5兆ドル程度(2020年12月末時点、出所:SIFMA)にのぼり、政府機関債と同程度の規模を持ちます。これだけ大きな市場であることは意外ですね。


参考:ABSの基本概念と市場規模について(PIMCO)
ABS(資産担保証券)とは – PIMCO


ABS(資産担保証券)の優先劣後構造とトランシェの仕組み

ABSを語る上で避けて通れないのが「優先劣後構造」と「トランシェ」です。この仕組みが、ABSの信用リスク管理の核心になっています。


優先劣後構造とは、資産プールから発生するキャッシュフローを「受け取る順番(優先順位)」によって投資家層を階層に分ける仕組みです。具体的には、キャッシュフローの受け取り優先順位が高い順から「シニア・トランシェ」「メザニン・トランシェ」「ジュニア・トランシェ」「エクイティ・トランシェ(残余)」と呼ばれます。


わかりやすい例で考えてみましょう。資産プールから本来100の収益が見込まれているのに、80しか得られなかったとします。この場合、損失が最初にのしかかるのはエクイティ・トランシェです。次にジュニア、そしてメザニンという順で損失を負担します。シニア・トランシェが損失を被るのは、下位のトランシェがすべて損失を吸収しきれなくなった後です。


トランシェ 格付けの目安 リターン 損失負担順位
シニア AAA〜AA 低め(5〜6%程度) 最後(最も安全)
メザニン A〜BBB 中程度(7〜10%程度) 中間
ジュニア/エクイティ BB以下〜無格付け 高め(IRR 15%以上も) 最初(最もリスク大)


この構造のメリットは「信用補完」にあります。下位トランシェが損失のクッションになることで、上位のシニア・トランシェはAAAという最高格付けを得ることができます。つまり、原資産の平均的な信用力がそれほど高くなくても、AAAの安全な証券を作り出せるのです。これは使えそうです。


ただし注意点もあります。シニアがAAAだからといって「絶対に安全」ではありません。2008年の金融危機では、AAAの格付けが付いていたサブプライム系ABS-CDOが、損失率6〜7割に達した事例も記録されています(金融庁 金融研究センター調査より)。格付けだけに依存することが大きなリスクです。格付けが条件にはなりません。


もう一つの重要な仕組みが「OC(超過担保)」です。例えば100億円の証券を発行するのに、110億円分の担保資産をSPCに入れておく方法がOCです。これにより、担保資産の一部が毀損しても証券の元利払いをカバーできる安全マージンが生まれます。


参考:優先劣後構造の詳細解説(ラッセル・インベストメント)
証券化商品戦略(資産担保証券)| Russell Investments


ABS(資産担保証券)の種類と代表的な担保資産

一口にABSといっても、担保となる原資産によってさまざまな種類があります。どのタイプかを把握することが、ABS投資の第一歩です。


代表的なABSの種類は以下の通りです。


  • 🏠 RMBS(住宅ローン担保証券):個人向け住宅ローンを担保とする。日本でも三菱UFJや住友系の信託銀行がAAA格で発行しており、最もメジャーなABSのひとつ。
  • 🚗 自動車ローンABS:自動車購入のためのローン債権を担保とする。フィッチ・レーティングスは2025年の日本の自動車ローンABSについて「堅調なパフォーマンス」と見通しを改善している。
  • 💳 クレジットカード債権ABS:カード会社が持つ売掛債権を担保とする。回転信用型のため、短期資産で構成されることが多い。
  • 🏢 CMBS(商業用不動産担保証券):オフィスビルや商業施設など事業用不動産のローンを担保とする。コロナ以降はオフィス需要の変化から注目度が上がっている。
  • 📊 CLO(ローン担保証券):企業向けの融資(レバレッジドローン)を担保とする。ABSの派生型で、トランシェ構造が特徴的。


日本と米国ではABSの定義に微妙な違いがある点は、意外ですね。米国では住宅ローンを裏付けとするMBS(モーゲージ担保証券)を「MBS」と呼び、それ以外の自動車ローンやクレジットカード債権を裏付けとするものを「ABS」と呼ぶ慣習があります。一方、日本や欧州では住宅ローン担保のRMBSもABSの一種として広義に含める考え方が一般的です。どちらが正しいというわけではありません。


さらに近年注目されているのが「グリーンABS」や「ESG-ABS」です。太陽光発電設備のリース債権や、省エネ改修ローンなどを担保としたABSで、ESG投資への需要拡大を背景に欧州を中心に急成長しています。2024〜2025年にかけてこの分野のABS発行額は増加傾向にあります。これは知っておいて損はない情報です。


参考:日本の自動車ABSのパフォーマンス見通しについて(フィッチ・レーティングス)


ABS(資産担保証券)が抱えるリスクとサブプライム危機の教訓

ABSは「リスク分散の手段」として注目される一方で、適切に理解しなければ大きな損失をもたらす商品でもあります。2008年の世界金融危機がその典型例です。


当時、米国では住宅ローン債権を証券化したRMBSや、それをさらに組み合わせたABS-CDOが大量に発行されていました。格付け機関はその多くにAAAをつけていましたが、実態は信用力の低いサブプライム層(低所得者向け)のローンを大量に内包していました。住宅価格が下落し始めると連鎖的にデフォルトが発生し、AAAのはずのABS-CDOが元本の6〜7割を失う事態となりました。


厳しいですね。では、なぜこんな事態が起きたのでしょうか?


根本的な原因は「利害の不一致」にありました。米国では当時、銀行が「販売するために組成する」というビジネスモデルを採用していたため、ローンを組成した後はすぐにABSとして売り飛ばしていました。結果として、銀行にはローンの質を厳しく審査するインセンティブが働かなかったのです。これに対して、欧州ではオリジネーターに各案件の5%を自己保有することが義務付けられています(欧州証券化規制)。自分も損するなら慎重になるという当然の原理です。


この違いが数字にも表れています。M&Gの調査データによると、2008年金融危機のピーク時におけるデフォルト率はグローバル(主に米国)ABSが12%だったのに対し、欧州ABSはわずか約2%にとどまりました。特に欧州RMBSのデフォルト率は平均0.3%と、米国RMBSの4.7%と大きく差があります。


ABSが持つリスクは格付けリスクだけではありません。主なリスクには以下のものがあります。


  • 信用リスク:担保資産(ローン)の借り手がデフォルトするリスク。シニア・トランシェでも、下位トランシェのバッファーを超えた損失が出れば元本毀損の可能性がある。
  • 💧 流動性リスク:ABSは市場規模が株式等より小さく、売却したいときに適切な価格で売れないリスクがある。特に市場が混乱した際には流動性が急低下する。
  • 📅 期限前償還リスク(プリペイメントリスク):住宅ローン等の借り手が予定より早く返済した場合、キャッシュフローのタイミングが変わり、投資計画が狂うリスク。
  • 📉 金利リスク:固定金利型のABSでは、金利上昇局面で債券価格が下落する。変動金利型はこのリスクを軽減できる。
  • 🔍 複雑性リスク:ABSはストラクチャーが複雑で、担保資産の中身や優先劣後構造を正確に理解しないと、リスクの大きさを誤って判断してしまう。


つまり格付けだけでは不十分です。担保資産の質、オリジネーターの引受基準、優先劣後の構造すべてを見た上で投資判断する必要があります。


参考:世界金融危機におけるABSのデフォルト率の比較(M&G)
資産担保証券(ABS)– ABSとは何か、現在の投資機会はどこにあるのか? – M&G


ABS(資産担保証券)の投資メリットと2025年以降の市場展望【独自視点】

ここまでのリスクを踏まえた上で、改めてABSが持つ投資メリットを整理します。正しく理解すれば、ABSはポートフォリオの「縁の下の力持ち」として機能します。


まず最大のメリットは「クレジット分散効果」です。通常の株式や社債は、発行企業の業績や信用力に価格が連動します。一方、ABSのリスクは「多数の個人・法人が行うローンの返済行動」に依存しています。つまり、特定の企業の経営悪化とは独立してリターンが決まるため、株式や社債と組み合わせることで、ポートフォリオ全体のリスクを下げられるのです。M&Gのデータでは、欧州ABS(変動金利型)の年率換算ボラティリティはわずか2.50%で、世界株式の14.13%と比べると格段に安定しています。


もうひとつが「金利上昇への耐性」です。ABSは変動金利型(フローティングレート型)の商品が多いという特性があります。固定利付き債は金利が上昇すると価格が下落しますが、変動金利型ABSはクーポン(利率)自体が金利上昇に連動して上がるため、価格が下落しにくい仕組みです。金利上昇局面でも安定収益を狙えるのがABSの強みです。これはいいことですね。


日本市場でも、自動車ローンABSや住宅ローン担保のRMBSを中心に安定的な発行が続いています。フィッチ・レーティングスは2025年の日本の自動車ローンABSについて、インフレや雇用動向を踏まえた上で「改善」見通しを出しており、一定の安定感が期待されています。


では、どうすればABSにアクセスできるのでしょうか?


個人投資家が直接ABSの個別銘柄を購入するのは難易度が高く、通常は機関投資家向け商品です。ただし、ABSを組み入れた債券ファンドや外国債券型の投資信託を通じて間接的にアクセスすることは可能です。分散投資を前提に、まず「ABS組み入れ債券ファンド」の目論見書でトランシェ構成と格付けを確認することから始めることをおすすめします。確認が条件です。


参考:ABS市場の成長見通しと世界市場レポート(Global Market Insights)
資産担保証券市場規模予測レポート 2024-2032 – Global Market Insights