CLO(ローン担保証券)の仕組みとリスク・投資家への影響

CLO(ローン担保証券)の仕組みとリスク・投資家への影響

CLO(ローン担保証券)の仕組みと投資家が知るべきリスク

AAA格のCLOは、社債のAAAよりデフォルト率が低く、過去の実績ではゼロ%を維持しています。


CLO(ローン担保証券)3つのポイント
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優先劣後構造(トランシェ)で格付けが決まる

低格付けのローン150〜450本を束ねながら、支払い優先順位を分けることでAAA格の高安全性トランシェを生み出す独自の仕組みです。

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農林中金など日本の金融機関が大量保有

農林中央金庫は2020年3月時点で約7兆7,000億円ものCLOを保有。日本のメガバンク合計では10兆円超に上ります。

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変動金利構造で金利上昇局面に強い

CLOの裏付け資産は変動金利のバンクローンで構成されており、金利が上がるほどクーポン収入が増える特性があります。


CLO(ローン担保証券)の基本的な仕組みとトランシェ構造

CLO(ローン担保証券)とは、「Collateralized Loan Obligation」の略で、金融機関が企業向けに行ったローン(貸付債権)を証券化した金融商品です。特に信用格付けが低い企業(BB格以下)向けの融資、いわゆる「バンクローン」や「レバレッジドローン」と呼ばれるものを150本から450本ほど束ね、それを担保として発行されます。


CLOの最大の特徴は、優先劣後構造(トランシェ構造)にあります。これが基本です。


まず、複数のバンクローンをプールしたポートフォリオを組成します。次に、そのポートフォリオから生まれるキャッシュフロー(利息・元本返済)を支払いの優先順位ごとに階層(トランシェ)に分けます。支払いが最優先されるのが「シニアトランシェ」(AAA格・AA格)で、次が「メザニントランシェ」(A格・BBB格・BB格)、最後がリスクを最も多く取る「エクイティ(劣後)トランシェ」(無格付け)という順番です。


原資産のローンで損失が発生した場合、まずエクイティが損失を吸収し、次にメザニン、という順番で損失が積み上がります。AAAのシニアが損失を受けるのは、全体の損失がかなりの割合に達したときだけです。現在のCLO 2.0と呼ばれる構造では、累積損失が全体の35%程度まで許容できる設計になっており、これがAAAトランシェの強固な安全性を生み出しています。


| トランシェ | 格付け | 支払い優先順位 | 想定リスク |
|---|---|---|---|
| シニア | AAA / AA | 最優先 | 最小 |
| メザニン | A / BBB / BB | 中間 | 中程度 |
| エクイティ | 無格付け | 最後 | 最大 |


つまり、CLOは「低格付けの素材から高格付けの商品を作り出す」金融工学の産物です。これが投資家にとっての魅力であり、同時に複雑さゆえの難解さでもあります。


野村證券「CLO(ローン担保証券)」証券用語解説集 ― CLOの基本定義と仕組みをコンパクトに確認できます


CLO(ローン担保証券)のAAA格付けとリーマンショック後のデフォルト実績

「高リスクのローンが集まっているなら、AAA格であっても危険では?」と思う方は多いでしょう。意外ですね。ところが実績データは驚くべき事実を示しています。


米国のCLOについて、S&Pグローバル・レーティングスのデータによれば、2023年時点までAAA格CLOのデフォルト率は一貫してゼロ%を記録しています。さらに、2008年のリーマンショック後に信用構造が厳格化された「CLO 2.0」(2010年以降発行)では、AA格・A格・BBB格においてもデフォルト率はゼロ%となっています。


これは一般的な社債と比較すると際立った結果です。社債のAAA格でも、1年を超える期間では1%前後のデフォルトが発生しているのに対し、CLOのAAAは過去の金融危機をくぐり抜けてゼロを維持してきました。


この背景には2008年のリーマンショックが大きく関係しています。リーマンショック以前に発行された「CLO 1.0」では、AAAトランシェの構成比率が全体の75%程度を占めていました。リーマンショック後の反省から格付け基準が厳格化され、「CLO 2.0」ではAAAの比率が64%に引き下げられた代わりに、その下位トランシェの厚みが36%に増加しました。これは損失吸収の「クッション」が厚くなったことを意味します。


また、2012年1月から2023年10月までの約12年間で、AAA格CLOの年次リターンはコロナ禍を含む激動の市場環境においても一度もマイナスになっていません。これは驚きの事実です。


ただし「過去のデフォルト率ゼロ」は将来を保証するものではありません。農林中央金庫が2025年3月期に約1.8兆円の連結純損失を計上した背景には、CLO投資からの損失も一因とされており、「格付けが高い=損失なし」ではないことは頭に入れておくべきでしょう。


金融庁「日銀レビュー:CLOのリスク管理について」― 金融庁がCLOのリスク管理方法を詳細解説した公式資料です


CLO(ローン担保証券)と農林中金・メガバンクの保有実態と日本経済への影響

日本の金融機関がCLOを大量保有している理由は、長年続く低金利環境に求められます。銀行や農協系金融機関は利息収入を主な収益源としていますが、日本では超低金利が続いたため、国内での運用だけでは十分なリターンが得られません。そこで、より高い利回りを求めて米国のCLO市場に資金を振り向けてきたのです。


以下は2020年3月時点の主要金融機関によるCLO保有残高です。


| 金融機関 | CLO保有残高(概算) |
|---|---|
| 農林中央金庫 | 約7兆7,000億円 |
| 三菱UFJフィナンシャル・グループ | 約2兆3,000億円 |
| ゆうちょ銀行 | 約1兆8,000億円 |
| みずほ銀行 | 約6,000億円 |
| 三井住友トラスト・HD | 約5,000億円 |


特に農林中央金庫の保有額は突出しており、これはJA(農業協同組合)グループから預かった資金の運用先としてCLOが選ばれてきたためです。農林中金が保有するCLOは基本的にAAAに限定されており、一定の安全性は確保されています。


しかし、2024年に農林中金は多額の含み損を抱えて保有CLOの大規模売却を余儀なくされ、翌2025年3月期決算で大幅な損失を計上しました。これはCLO価格の下落ではなく、主に「為替ヘッジコストの上昇」と「期間ミスマッチ(短期で資金調達して長期資産に投資)」に起因したとされています。格付けが高くても、金利・為替環境次第で損失が発生する点は見落とせません。


日本の大手金融機関のCLO保有は日本経済全体と無関係ではありません。これらの金融機関に損失が積み上がると、信用収縮が起き、企業への貸し出し余力が低下するリスクがあります。CLOはあくまで一部の機関投資家向けの商品ですが、その動向が日本の金融システム全体に影響を及ぼし得るのです。


やさしい株のはじめ方「CLO(ローン担保証券)とは?仕組みやリスクをわかりやすく解説」― CLOの基本から日本の金融機関の保有状況まで図解でわかります


CLO(ローン担保証券)とリーマンショックの引き金となったRMBSとの違い

CLOを調べると必ず出てくるのが「リーマンショック」との関連です。多くの人が「CLOはリーマンショックの原因と同じような商品では?」と疑問に思うでしょう。これは重要な指摘です。


実際には、リーマンショックの引き金となったのはCLOではなく「RMBS(住宅ローン担保証券)」を組み合わせた「CDO(債務担保証券)」でした。仕組みは似ていますが、裏付け資産と組成プロセスが大きく異なります。


🏠 RMBS / CDO(リーマンショックの引き金)
- 裏付け:個人向け住宅ローン(サブプライムローン含む)
- 問題点:信用力の極めて低い借り手のローンを意図的に組み込み
- 格付けの問題:内部格付けの操作・誤魔化しが多数発覚


🏢 CLO(現在のCLO 2.0)
- 裏付け:企業向けバンクローン(150〜450本の分散されたポートフォリオ)
- 特徴:借り手は格付けBB以下だが、ローンは担保付き(シニアセキュアードローン)
- 格付け:リーマンショック後に基準が厳格化され透明性が向上


最も大きな違いは「借り手の分散度合い」と「担保の有無」です。CLOの裏付けとなるバンクローンは、銀行資産の中でも比較的弁済順位が高い「担保付きシニアローン」であることが多く、企業が倒産した場合でも一定の回収が期待できます。対してサブプライムローンは無担保に近い状態で、借り手の信用力も極めて低いものでした。


また、CLOでは1本のCLOに150本以上のローンが組み込まれており、1社が倒産しても全体への影響は限定的です。東京ドーム約5個分の広さを持つ大きなかごに150個以上の卵が入っているイメージで、1個や2個が割れてもかごごと崩れることはない、という構造です。


とはいえ「リーマンショックと全く無関係」とは言い切れません。経済環境が急激に悪化すれば、企業の倒産が連鎖的に増え、CLOの担保価値が毀損するリスクは存在します。これが条件です。


CLO(ローン担保証券)の変動金利という独自の強みと投資家が見落としやすいリスク

CLOが近年、機関投資家から改めて注目されている理由の一つが「変動金利商品」という特性です。これは使えそうです。


一般的な債券(固定金利)は金利が上昇すると価格が下がります。しかしCLOの裏付け資産であるバンクローンは変動金利(SOFRなどの基準金利+スプレッド)で設計されています。つまり、市場金利が上昇するほど受け取るクーポンが増える仕組みです。2022年以降の世界的な金利上昇局面で、固定金利の外国債券が大幅な価格下落に苦しんだ一方、CLOは相対的に堅調なパフォーマンスを見せた背景にはこの構造があります。


さらに、他の主要資産クラスとの相関が極めて低い点も特筆すべき特徴です。過去10年(2013〜2023年)のデータでは、AAA格CLOと米国債の相関は-0.02、米国株式とは0.16と、ほぼ無相関に近い動きをしています。ポートフォリオの分散効果という観点からも評価されています。


一方で、投資家が見落としやすいリスクも複数あります。


⚠️ 複雑性リスク:150本以上のローンで構成されるため、内部の詳細な評価が難しく、自分でリスクを正確に把握しにくい。


⚠️ 流動性リスク:CLOは市場が小さく、経済危機時には買い手が消えて売却が困難になる。農林中金が大量売却を余儀なくされた際にも、市場への影響が懸念されました。


⚠️ 為替・ヘッジコストリスク:日本の投資家が米国CLOに投資する際は為替リスクが発生します。ヘッジコストが利回りを大幅に圧迫する局面では、手取りリターンが大きく低下します。


⚠️ CCC比率リスク:CLO内のローンポートフォリオでCCC格以下の資産が7.5%を超えると、時価評価の強制適用など構造上の制約が発動します。


個人投資家が直接CLOに投資する手段は現状ほぼ存在しませんが、CLO関連のファンドや海外上場ETFは存在します。ただし、これらは主に機関投資家向けの商品設計が多く、最低投資額や手数料の面で個人にとってハードルが高い場合もあります。CLO専門の運用会社が組成する投資信託を通じてアクセスする方法が現実的です。


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