
厚生年金保険料の支払いは、**70歳到達日(誕生日の前日)**をもって終了します。これは法律で定められた明確なルールであり、雇用が継続されていても自動的に厚生年金保険の被保険者資格を喪失することになります。
具体的な仕組みを見てみましょう。
この制度設計により、厚生年金保険料の支払いは最長で52年間(18歳就職の場合)となる可能性があります。
重要なのは、70歳以降も引き続き同じ会社で働く場合でも、厚生年金保険料の負担は一切発生しないという点です。しかし、健康保険については70歳以降も加入が継続されるため、社会保険料の計算に必要な標準報酬月額の決定は引き続き行われます。
70歳以降であっても、特定の条件を満たす場合には厚生年金保険に任意加入することが可能です。この制度は「高齢任意加入被保険者」と呼ばれ、年金受給資格を満たしていない方のための救済措置として機能しています。
任意加入の主な条件:
任意加入制度の特徴として、保険料負担について事業主の同意が得られる場合は、一般の厚生年金保険料と同様に事業主と本人の折半となります。これは通常の厚生年金保険と同じ仕組みであり、本人の負担軽減につながる重要な制度です。
ただし、老齢基礎年金の受給資格を既に満たしている方は、70歳以降に厚生年金保険料を支払うことができません。この点は制度の根幹に関わる重要な制限事項として理解しておく必要があります。
任意加入時の注意点:
70歳到達時には、企業側で適切な手続きを行う必要があります。この手続きを怠ると、在職老齢年金の計算に支障をきたす可能性があるため、人事労務担当者は特に注意が必要です。
基本的な手続きの流れ:
新規雇用時の手続き:
70歳以上の方を新たに雇用する場合は、70歳以上の使用される者の該当届を提出する必要があります。これは在職老齢年金の仕組みが適用されるためで、年金支給額の調整計算に必要な情報を年金機構に提供するためです。
手続きの期限は70歳到達日から5日以内となっており、遅延すると適切な年金支給に影響を与える可能性があります。
実務上のポイント:
70歳以降は厚生年金保険料の負担がなくなりますが、在職老齢年金の仕組みは引き続き適用されます。これは多くの方が見落としがちな重要なポイントです。
在職老齢年金の基本仕組み:
実際の計算例:
基本月額20万円、総報酬月額相当額40万円の場合。
この計算により、70歳以降も高額な給与を受け取る場合は、年金支給額が大幅に減額される可能性があることがわかります。
70歳到達時の年金額見直し:
70歳到達時には「退職改定」と同様の仕組みにより、年金額の見直しが行われます。
企業にとって70歳以上の従業員への対応は、人事戦略上重要な課題となっています。厚生年金保険料の負担がなくなることで、企業の社会保険料負担が軽減される一方、適切な制度理解と運用が求められます。
企業のメリットと課題:
戦略的な活用方法:
多くの企業では、70歳以降の従業員に対して「社会保険料軽減分の一部を給与に還元」する制度を導入しています。これにより。
実務上の注意点:
70歳以上の従業員を雇用する際は、以下の点を事前に整理しておくことが重要です。
特に、在職老齢年金の支給停止を避けたい従業員に対しては、月額51万円を超えない範囲での給与設定を提案することで、双方にとってメリットのある雇用関係を構築できます。
このような戦略的アプローチにより、企業は高齢者雇用を促進しながら、人件費の最適化を図ることが可能になります。また、70歳以降も働き続ける従業員にとっても、年金と給与のバランスを取りながら、より良い老後の働き方を実現できる環境を提供することができるのです。
日本年金機構の詳細な手続き情報
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/koureininni.html