

ストレスVaRの計算値が高いほど、あなたの金融機関が必要とする自己資本は増えるのに、その数値が「低すぎる」と規制当局に怒られることがある。
VaR(Value at Risk)とは、「ある一定期間において、一定の確率の範囲内で被り得る最大損失額」を示すリスク指標です。たとえば「信頼水準99%、保有期間1日のVaRが1,000万円」という場合、「翌日の損失が1,000万円を超える確率は1%以下である」と解釈します。
通常のVaRは、直近1年から5年程度の市場変動データをベースに計算します。つまり、相場が比較的安定している局面のデータが多ければ、VaRは自然と低く算出される傾向があります。これが問題の本質です。
ストレスVaRはこの弱点を補うために設計されました。通常のVaR算出と同じ手法(分散共分散法やヒストリカル・シミュレーション法など)を使いますが、データの参照期間が異なります。「市場に著しいストレスが発生した期間」、具体的には2007年〜2009年のグローバル金融危機のような極端な市場変動が起きた時期のデータを使って計算するのがストレスVaRです。
つまり、こういうことです。
| 項目 | 通常VaR | ストレスVaR |
|---|---|---|
| 参照期間 | 直近1〜5年 | 金融危機など極端な変動期 |
| 信頼水準 | 99%(片側) | 99%(片側) |
| 保有期間 | 10営業日 | 10営業日 |
| 目的 | 平常時リスク把握 | 極端なストレス下でのリスク把握 |
| バーゼル対応 | バーゼルⅡから | バーゼル2.5(2009年)から |
ストレス期間の選択は、過去にさかのぼって最も「VaRが高くなる期間」を選ぶことが求められています。バーゼル委員会の定めでは、少なくとも2007年以降にさかのぼってストレス期間を特定し、月次で見直すことが義務付けられています。平常時データだけでは見えなかった損失リスクを可視化するのが、ストレスVaRの役割です。
意外ですね。
参考:日本銀行による「マーケット・リスクの最低所要自己資本」解説資料(金融庁・日銀)
金融庁・日銀「マーケット・リスクの最低所要自己資本の概要」(PDF)
バーゼル2.5(2009年に発表、2011年末より実施)においてストレスVaRが導入されると、金融機関の所要自己資本の計算は一段と複雑になりました。内部モデル方式を採用する銀行におけるマーケット・リスクの資本賦課は、次の構造になります。
金融庁の資料によれば、マーケット・リスク相当額(内部モデル方式)の計算式は以下のとおりです。
💡 資本賦課額の計算イメージ(バーゼル2.5)
- 通常VaR部分:前日のVaR直近値 と、直近60営業日の平均VaRに乗数(3〜4)を乗じた値のうち、大きい方
- ストレスVaR部分:前日のストレスVaR直近値 と、直近60営業日の平均ストレスVaRに乗数(3〜4)を乗じた値のうち、大きい方
- 合算:上記2つを足したものがマーケット・リスク相当額(さらに追加的リスク=IRCを加算)
重要なのは、通常VaRとストレスVaRを「足し合わせる」という点です。ストレスVaR導入後は事実上、従来比で資本賦課額が大幅に増加しました。これが基本です。
乗数(3〜4倍)はバックテスト結果に基づき当局が決定するもので、モデルの信頼性が低いと判断されれば乗数は4に近づきます。つまり、精度の低いモデルを使っていると資本コストが余計にかかる仕組みになっています。
また、ストレスVaRの計算に際しても、通常VaRと同様の信頼水準(片側99%)と保有期間(10営業日)が適用されます。片側99%の信頼水準とは「100営業日に1回以上、VaRを超過する損失が起きることを許容する」水準です。つまり、年間約250営業日のうち2〜3回程度は損失がVaRを超えることを前提としています。これが原則です。
なお、ストレスVaRは少なくとも週次で計算することが義務付けられており(通常VaRは日次)、算出結果はバックテストにより定期的に検証されます。
参考:資本賦課の計算式と詳細については金融庁の以下の資料が権威性の高いリファレンスです。
金融庁金融研究センター「自己資本規制におけるマーケット・リスク計測」(DP2017-5)
2007年に表面化したサブプライム住宅ローン問題を発端として、2008年9月のリーマン・ブラザーズ破綻により世界的な金融危機が拡大しました。このとき、多くの大手金融機関が抱えていた通常VaRでは、実際に発生した損失を到底カバーできないことが明らかになりました。
なぜ通常VaRは機能しなかったのでしょうか?
理由は主に2つです。一つ目は、平常時のデータに依存していたことです。金融危機以前は、市場のボラティリティが比較的低く安定していたため、VaRが小さな数値にとどまっていました。危機が突然に訪れると、想定外の巨大損失が発生しました。二つ目は、資産間の相関が危機時に急変することです。平常時には分散効果があった複数の資産が、危機になると一斉に値崩れを起こし、リスク削減効果が一気に消失します。
バーゼル委員会は、銀行の損失とレバレッジ積み上がりの多くがトレーディング勘定で発生したと分析し、2009年7月に「バーゼル2.5」を発表しました。ストレスVaR導入という枠組みは、こうした反省を直接的に制度に反映させたものです。
厳しいところですね。
一方で、ストレスVaR導入後も課題は残っていました。最も指摘されていたのが「二重賦課」の問題です。通常VaRとストレスVaRの両方を足し合わせる設計は応急的な対応であり、一貫した理論的枠組みとは言えないという批判がありました。また、VaR(バリュー・アット・リスク)という指標自体が「VaRを超えた損失がどれほどになるか」を示せない(テイルリスクを捕捉できない)という根本的な欠点も持っています。
これらの問題意識が、後のFRTB(トレーディング勘定の抜本的見直し)へとつながっていきます。
バーゼル2.5が「応急措置」であったのに対し、バーゼル委員会は2009年より抜本的な見直し(FRTB: Fundamental Review of the Trading Book)の検討を開始し、2016年1月に最終文書を公表しました。
FRTBでのリスク計測の最大の変更点は、ストレスVaRを含む「VaR+ストレスVaR」という二重賦課の枠組みを廃止し、ストレス時のデータを用いた期待ショートフォール(Stress ES)へ一本化した点です。
期待ショートフォール(ES)とは何でしょうか?VaRが「○%の確率で超えない最大損失額」を示すのに対し、ESは「VaRを超えた場合の損失の期待値(平均)」を示します。つまり、最悪のシナリオにおける損失の深さまで捕捉できる指標です。テイルリスクへの感度が高く、2008年型の危機のような極端な損失も視野に入れることができます。これは使えそうです。
FRTBにおける内部モデル方式では、97.5%タイルのストレスESを用いて資本賦課額を計算します(従来の99%VaRに相当する保守性とされています)。また、流動性の低い資産については保有期間を10日から最大120日に延長するなど、より精緻なリスク管理が求められています。
🔄 VaR→ストレスVaR→ストレスESへの進化
| 規制フェーズ | 主なリスク指標 | 特徴 |
|---|---|---|
| バーゼルⅡ(1996〜) | VaR(99%、10日) | 平常時データを使用 |
| バーゼル2.5(2011年末〜) | VaR+ストレスVaR | 危機時データも合算 |
| FRTB(2024年以降) | ストレスES(97.5%) | ストレス時ESに一本化 |
日本における適用については、金融庁が2024年以降に段階的な実施を進めています。国際的に活動する銀行を中心に、新たな枠組みへの対応が求められています。ストレスVaRという概念そのものはFRTBで直接には使用されなくなりましたが、「危機時データでリスクを計測する」という考え方はストレスESに受け継がれています。ストレスVaRが金融規制の歴史における重要な「橋渡し」役であったと言えるでしょう。
参考:FRTBの概要を詳しく解説した金融庁・日本銀行の公式資料はこちらです。
金融庁・日本銀行「マーケット・リスクの最低所要自己資本の概要(FRTB)」(PDF、2016年)
ストレスVaRは規制上の計算に使われるだけでなく、金融機関内部のリスク管理でも活用されます。しかし、実務上の注意点はあまり語られません。
まず重要なのが、ストレス期間の選択バイアスです。バーゼルの規制では「銀行にとって最もVaRが高くなるストレス期間を選ぶ」ことが義務付けられていますが、どの12か月間を選ぶかにより算出結果は大きく変わります。2007年〜2009年の世界金融危機期が最もよく使われますが、1997年のアジア通貨危機など他の危機期間が適切な場合もあります。選択を誤ると資本賦課が過小になるリスクがあります。これが条件です。
次に、ニッセイ基礎研究所の指摘(2011年)では、「ストレス後VaRは信頼水準が高いほど算出値が高くなるとは限らない」という性質があることが示されています。通常、信頼水準を上げればVaRは高くなると思いがちですが、ストレスパラメータを使ったケースでは単調性が崩れることがある点は実務担当者として知っておく価値があります。意外ですね。
また、バックテストとの整合性も実務上の重要課題です。ストレスVaRが週次計算であるのに対し、バックテストは日次の通常VaRで行われます。両者の整合性を保つことが内部管理上は必要です。バックテストで例外数(損失がVaRを超えた日数)が多すぎると乗数が3から4へ引き上げられ、資本コストが直接増加する仕組みになっています。
🚨 実務担当者が押さえるべきストレスVaRの注意点
- 📌 ストレス期間は月次で見直し義務あり(固定ではない)
- 📌 ストレスVaRの計算頻度は少なくとも週次(通常VaRは日次)
- 📌 乗数(3〜4倍)はバックテスト結果次第で変動する
- 📌 信頼水準を上げてもストレスVaRが上がるとは限らない(単調性が成立しない)
- 📌 二重賦課の枠組みはFRTBで廃止済み(ストレスESへ移行)
金融機関のリスク管理担当者にとって、ストレスVaRをただ計算するだけでなく、その前提や限界を正確に理解することが求められます。そのためのリファレンスとして、日本銀行が公開しているリスク管理関連の講演資料や研究論文が参考になります。
参考:ストレステストの課題と先進的な取組みについての日本銀行公式資料はこちらです。
日本銀行「VaRの活用と留意点 ②VaRとストレステスト」(PDF)

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