
生前贈与は相続税対策の王道として多くの家庭で活用されている手法です。被相続人が生前に配偶者や子どもたちに財産を分け与えておくことで、相続財産を減らし、相続時の税負担を軽減することができます。
生前贈与の基本的な仕組みは、財産を遺す人(被相続人)がまだ生きているうちに自身の財産の一部を子や孫などの次の世代に渡すことです。この際、贈与税は発生しますが、適切に活用することで相続税よりも税負担を抑えることが可能になります。
生前贈与の主なメリット
生前贈与には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの制度があり、それぞれ異なる特徴を持っています。どちらを選択するかは、贈与する財産の種類や金額、贈与を受ける人の状況によって決定すべきです。
暦年贈与は生前贈与の中でも最も一般的な制度で、年間110万円までの贈与については贈与税が非課税となります。この基礎控除を活用することで、長期的かつ計画的な節税対策を実現できます。
暦年贈与の具体的な活用例
たとえば、毎年310万円を贈与する場合を考えてみましょう。贈与財産310万円から贈与税20万円が差し引かれ、290万円の資金が受贈者に残ります。15年間継続すると。
この場合、贈与をしない場合と比較して約1,560万円の節税効果が期待できます。
長期継続による累積効果
110万円の基礎控除を活用し、10年間毎年110万円ずつ贈与していけば、1,100万円を非課税で贈与することができます。複数の相続人に対して同時に贈与を行えば、さらに大きな節税効果を得ることが可能です。
注意すべき点として、相続開始前の一定期間の贈与は相続財産に加算されるルールがあります。2024年1月1日以降の贈与からは、この期間が従来の3年から7年に延長されているため、より長期的な視点での計画が必要です。
相続時精算課税制度は、2,500万円までの贈与について贈与税を納めずに贈与を受けることができる制度です。さらに2024年1月1日から年間110万円の基礎控除が新設され、制度の利便性が大幅に向上しました。
制度の基本的な仕組み
相続時精算課税を選択した場合、累積贈与額が2,500万円を超えない範囲であれば、年間110万円までは贈与税がかかりません。贈与者が亡くなった時には、贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額を合計した金額から相続税額を計算します。
特に効果的な活用場面
相続時精算課税は、贈与時の価額で相続税が計算されるため、将来的に価値が上昇する可能性の高い財産に特に適しています。たとえば、贈与時に1,000万円の不動産が相続時に1,500万円に値上がりしていても、相続税の計算では1,000万円として評価されます。
2024年改正による変更点
新たに設けられた年間110万円の基礎控除により、相続時の課税対象となる資産は、贈与額から年間110万円を控除した残額となります。これにより、制度の使い勝手が大幅に改善されました。
2024年の税制改正により、生前贈与に関する重要な変更が実施されました。最も大きな変更は、相続開始前の贈与が相続財産に加算される期間が3年から7年に延長されたことです。
段階的な移行期間の仕組み
改正は段階的に実施され、移行期間中の計算は複雑になります。
具体的な影響例
毎年50万円の生前贈与を続けていた場合。
既存の贈与計画への影響
すでに長期的な贈与計画を立てていた人は、計算方法が変わるため計画の見直しが必要になります。場合によっては、贈与を停止して相続を選択するケースも出てくる可能性があります。
この改正により、より早期からの計画的な贈与の重要性が高まっています。7年ルールを踏まえた長期的な視点での相続対策が不可欠となりました。
生前贈与を実行する際には、税務署から適正な贈与として認められるための注意点があります。適切な手続きを踏まなければ、税務調査で問題となる可能性があります。
贈与契約書の作成
名義預金とみなされないためには、贈与をするたびに贈与契約書を作成することが重要です。契約書には以下の内容を明記する必要があります。
実際の財産移転の実行
贈与は贈与者の「あげる」という意思と受贈者の「もらった」という意思の合致が必要です。単に書面を作成するだけでなく、実際に財産の移転を行い、受贈者が自由に使える状態にしなければなりません。
遺留分侵害額請求への配慮
特定の人に偏った贈与をしていると、相続の際に他の相続人から遺留分侵害額請求をされる可能性があります。贈与を行う際は、将来的な相続人間のバランスを考慮することが重要です。
不動産贈与時の追加費用
不動産の生前贈与では、名義変更時に登録免許税や不動産取得税がかかります。これらの費用も含めて総合的な検討が必要です。
定期的な見直しの重要性
税制改正や家族状況の変化に応じて、贈与計画の定期的な見直しが必要です。特に2024年の法改正により、既存の計画が最適でなくなっている可能性もあるため、専門家への相談を検討することをお勧めします。
相続・生前贈与の税制改正について詳しい情報
国税庁:贈与税の計算と税率