
相続税と所得税の二重課税とは、同一の経済的価値に対して相続税と所得税の両方が課税される問題を指します。従来、わが国の税制では相続税と所得税は別個の体系であり、二重課税は存在しないと理解されてきました。
相続税法では相続財産を時価で課税し、一方で所得税法は相続財産のキャピタルゲイン(含み益)について相続時には原則として課税を繰り延べ、相続後に生じたキャピタル・ゲインと合わせて一括して課税しています。
しかし、実際には以下のような問題が発生します。
この問題は特に、年金形式で受け取る生命保険金や土地・株式などの含み益のある資産において顕著に現れます。
平成22年7月6日の最高裁判決(生保年金二重課税判決)は、相続税と所得税の関係について画期的な判断を示しました。この判決は長崎市の女性が起こした訴訟で、死亡した夫の生命保険特約年金に相続税と所得税を二重に課税されたのは不当として争われました。
判決のポイント:
従来の取り扱い:
判決後の取り扱い:
この判決により、同種契約は数百万件に及ぶとされ、年金払型の保険金から所得税を源泉徴収された多くの人が払いすぎた分の還付を受けることができるようになりました。
国税庁の生保年金二重課税判決への対応について詳しい情報
https://www.nta.go.jp/about/council/shingikai/110303/shiryo/pdf/05.pdf
土地や株式などの資産についても、相続税と所得税の二重課税問題が存在します。この問題は**資産の含み益(値上がり益)**に関して発生します。
土地・株式の二重課税の仕組み:
具体例:
被相続人が1,000万円で取得した土地が相続時に5,000万円の価値があった場合。
米国との比較:
アメリカでは相続時の時価を相続人の取得価額とするため、このような二重課税は調整されています。しかし、わが国では相続税と所得税は別の税制であり、二重課税は生じていないと解されており、納税者側からすれば厳しい制度となっています。
現在の調整措置:
相続税と所得税の二重課税を回避または軽減するための実務的な対策方法をご紹介します。
生命保険の対策方法:
不動産・株式の対策方法:
還付手続きの実行:
既に年金形式の生命保険金について所得税を納付済みの場合。
税制改正への対応:
相続税と所得税の二重課税問題は非常に複雑で専門的な知識が必要なため、適切な専門家への相談が不可欠です。
相談すべき専門家:
専門家相談のメリット:
個別事情に応じた対策立案
複雑な手続きのサポート
将来リスクの回避
相談時の準備事項:
注意すべき時効等:
税理士法人による相続税二重課税問題の詳細解説
https://chester-tax.com/encyclopedia/dic09_005.html
相続税と所得税の二重課税問題は、平成22年の生保年金二重課税判決以降、税務実務において重要な論点となっています。特に年金形式の生命保険金について数百万件に及ぶ契約で還付の可能性があり、その影響は計り知れません。
土地や株式などの資産についても同様の問題が存在し、適切な対策を講じることで税負担を大幅に軽減できる可能性があります。しかし、この分野は非常に専門性が高く、個別の事情に応じた対応が必要です。
相続対策を検討されている方や、既に相続が発生している方は、早期に専門家へ相談することを強くおすすめします。適切な対策により、不要な税負担を回避し、円滑な資産承継を実現することができるでしょう。