相続税代償金の計算方法と評価額による課税価格の決め方を解説

相続税代償金の計算方法と評価額による課税価格の決め方を解説

相続税代償金の仕組み

代償分割による相続税の基本構造
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代償金の支払い

不動産を取得する相続人が他の相続人に金銭で補償

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課税価格の調整

相続税総額は変わらず、各相続人の負担割合が調整される

📋
評価方法の選択

相続税評価額と時価のどちらを基準にするかで税額が変動

相続税代償金の基本的な計算方法

相続税における代償分割とは、特定の相続人が不動産などの現物財産を取得する代わりに、他の相続人に対して金銭(代償金)を支払う遺産分割方法です。この制度により、分割が困難な財産でも相続人間で公平な遺産分割が可能になります。

 

代償金を支払った相続人の課税価格は「相続財産価額-代償金の金額」となり、代償金を受け取った相続人の課税価格は「代償金の金額」として計算されます。

 

具体的な計算例を見てみましょう。

  • 相続財産:自宅不動産(相続税評価額4,000万円)
  • 相続人:長男・次男の2人
  • 代償金:次男に2,000万円を支払う場合

この場合の課税価格は以下のようになります。

  • 長男:4,000万円 - 2,000万円 = 2,000万円
  • 次男:2,000万円

重要なのは、代償分割は相続財産の調整であるため、相続税の総額自体は変わらないという点です。しかし、各相続人の課税価格が変わることで、それぞれの相続税負担額は調整されることになります。

 

相続税代償金の評価額による課税価格の違い

代償金の計算において最も重要なのが、財産の評価方法をどちらにするかの決定です。一般的に「相続税評価額」と「代償分割時の時価」の2つの評価方法があります。

 

相続税評価額を基準とする場合

  • 相続税を中心に考えるため、相続税を支払う相続人に有利
  • 実際に支払われた代償金の金額から課税価格を計算
  • 計算が比較的シンプル

代償分割時の時価を基準とする場合

  • 代償金を受け取る相続人に有利
  • 代償金の金額に相続税評価額の時価に対する割合を掛けて計算
  • より複雑な計算が必要

実際の計算例で比較してみましょう。

  • 相続財産:自宅不動産
  • 相続税評価額:4,000万円
  • 代償分割時の時価:5,000万円
  • 代償金:2,000万円を支払う場合

①相続税評価額基準の場合

  • 長男の課税価格:4,000万円 - 2,000万円 = 2,000万円
  • 次男の課税価格:2,000万円

②時価基準の場合

  • 長男の課税価格:4,000万円 - {2,000万円×(4,000万円÷5,000万円)} = 2,400万円
  • 次男の課税価格:2,000万円×(4,000万円÷5,000万円)= 1,600万円

このように評価方法により課税価格が大きく変わるため、相続人全員で事前によく話し合うことが重要です。

 

相続税代償金と遺産分割協議書の記載方法

代償分割を行う際には、遺産分割協議書に代償分割の旨を明記することが絶対に必要です。適切な記載がない場合、代償金の支払いが贈与とみなされ、贈与税が課税されるリスクがあります。

 

遺産分割協議書に記載すべき項目

  • 代償分割を行う旨の明記
  • 代償金の具体的な金額
  • 支払期限の設定
  • 支払方法の指定

具体的な記載例
「相続人Aは相続人Bに対して第1条の遺産取得の代償として金2,000万円を、令和○年○月○日に限り相続人Bの指定する口座に振り込む方法により支払う。」
この記載により、代償金の支払いが相続に関連するものであることが明確になり、贈与税の課税を回避できます。

 

代償金の金額決定における注意点
代償金の金額は相続人の合意があれば公平な金額でなくても構いません。しかし、代償金と他に相続した遺産を合わせた金額が法定相続分を大きく超える場合、贈与とみなされる可能性があります。

 

また、代償財産として現金以外の財産(不動産など)を提供する場合、受け取る側に不動産取得税や登録免許税がかかる場合があるため注意が必要です。

 

相続税代償金で注意すべき贈与税のリスク

代償分割における贈与税のリスクは、適切な手続きを怠ることで発生します。原則として代償金は相続税の課税対象となり、贈与税は課されません。しかし、以下のような場合には贈与税が課税される可能性があります。

 

贈与税が課税されるケース

  • 遺産分割協議書に代償金を支払う旨が記載されていない
  • 不動産などの評価額に対して代償金が過大である
  • 代償金を支払う相続人が遺産を相続していない

特に重要なのが、代償金が法定相続割合を大幅に超える金額の場合です。この場合、その差額に対して贈与税が課税される可能性があります。

 

現金以外で代償する場合の所得税
代償分割では現金以外の財産でも精算が可能ですが、この場合には譲渡所得税が課税される場合があります。現金以外で精算する場合、これらの財産が時価で譲渡されたとみなされるためです。

 

具体例
長男が5,000万円の自宅を相続する代わりに、次男に長男所有の土地(時価2,500万円、取得費500万円)を渡した場合。

  • 長男は土地を2,500万円で譲渡したとみなされる
  • 譲渡益2,000万円に譲渡所得税が課税される

このような税務リスクを避けるため、代償分割を検討する際は税理士などの専門家に相談することを強く推奨します。

 

代償分割時の小規模宅地等の特例適用による相続税軽減効果

代償分割を行う場合でも、要件を満たせば小規模宅地等の特例を適用することができます。この特例により、土地の評価額を最大80%減額できるため、大幅な相続税軽減効果が期待できます。

 

小規模宅地等の特例の適用要件

  • 被相続人が居住用として使用していた宅地
  • 相続人が被相続人と同居していた場合
  • 相続後も引き続き居住する予定
  • 宅地面積が330㎡以下

特例適用時の計算例

  • 相続財産:自宅土地(相続税評価額5,000万円、330㎡)
  • 特例適用後:5,000万円×(1-0.8)=1,000万円
  • 減額効果:4,000万円の評価減

この特例を適用した場合の代償分割では、特例適用後の評価額を基準に代償金を計算することになります。これにより、代償金の負担も大幅に軽減されます。

 

代償分割と特例適用の実務的なポイント

  • 同居相続人が不動産を取得する場合に最も効果的
  • 代償金の計算も特例適用後の評価額で行う
  • 申告期限内に特例の適用を選択する必要がある

ただし、特例の適用要件は複雑で、個別の事情により判断が分かれる場合があります。適用の可否については、相続に精通した税理士に事前確認を取ることが重要です。

 

また、代償分割と小規模宅地等の特例を組み合わせることで、相続税の総額を大幅に圧縮しながら、公平な遺産分割を実現できる可能性があります。これは他の分割方法では得られない大きなメリットと言えるでしょう。

 

国税庁の公式見解についてはこちらで詳細を確認できます。
代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算 - 国税庁