
相続において介護をめぐるトラブルが近年急激に増加しています。特に多いのが、介護を担った相続人とそうでない相続人の間で生じる不公平感による対立です。
典型的なトラブルパターン
実際の事例では、10年間にわたって母親の介護を担った長男が、相続時に他の兄弟から「法定相続分通りに分割すべき」と主張され、調停に発展するケースが頻発しています。
介護負担は金銭的な損失だけでなく、時間的・精神的コストも含まれるため、その評価が困難であることがトラブルの根本原因となっています。
早期発見すべき警告サイン
介護による貢献を相続に反映させる制度として「寄与分」があります。これは故人の財産形成や維持に特別な貢献をした相続人が、他の相続人より多く相続できる制度です。
寄与分が認められる介護の条件
具体的な評価方法
寄与分の計算では以下の要素を総合的に判断します。
例えば、要介護3の親を5年間自宅介護した場合、年間約200万円のデイサービス利用料相当として、合計1,000万円程度の寄与分が認められる可能性があります。
寄与分を立証するための証拠収集
寄与分の主張は家庭裁判所での調停や審判で決定されますが、証拠が不十分な場合は認められないケースも多いため、日頃からの記録保持が重要です。
相続トラブルを防ぐには、介護が必要になる前の段階で家族間の合意形成が不可欠です。
介護分担協定の作成項目
効果的な話し合いの進め方
まず親の健康状態や資産状況を全家族で共有することから始めます。その上で、各自の居住地、職業、家族構成を考慮した現実的な分担を検討します。
遠方居住家族の関与方法
物理的な介護が困難な場合でも、以下の方法で貢献できます。
重要なのは、各家族が自分なりの方法で介護に関わり、その貢献を相互に認め合う文化を作ることです。
相続人の中に認知症や知的障害により判断能力が不十分な方がいる場合、通常の遺産分割協議は行えません。この状況では成年後見制度の活用が必要となります。
成年後見制度の種類と選択基準
成年後見人選任の手続きフロー
遺産分割における注意点
成年後見人は本人の利益を最優先に判断するため、法定相続分を下回る分割には原則同意しません。これにより、介護の寄与分を主張する他の相続人との間で対立が生じる可能性があります。
対策方法
認知症の相続人がいる場合、手続きは複雑化し期間も長期化するため、専門家への早期相談が重要です。
専門家選定のポイント
相続と介護の問題は複雑に絡み合うため、適切なタイミングでの専門家相談が解決の鍵となります。
相談すべき早期サイン
実際の相談事例では、相続発生後に専門家に依頼した場合、手続き費用の56.5%が30万円未満で済んでいます。しかし、複雑な事案では90万円以上かかるケースも約2割存在します。
段階別の専門家活用戦略
介護開始期(予防段階)
予防段階での相談費用は1時間5,000円~10,000円程度と比較的安価です。
介護進行期(準備段階)
この段階では包括的な対策が必要で、費用は20万円~50万円程度が目安となります。
相続発生期(解決段階)
相続が発生した後は、遺産分割協議書の作成が最も多く依頼され70.9%、不動産名義変更が64.2%となっています。
専門家選定の判断基準
費用対効果の考え方
専門家への相談を躊躇する理由として費用負担が挙げられますが、調査によると「何をどう進めるべきかを理解するための情報収集」に54.3%の人が困難を感じており、専門家の知識とノウハウの価値は費用を上回ると考えられます。
特に介護と相続が重複する事案では、素人判断による誤った対応が後々大きなトラブルに発展するリスクがあるため、早期の専門家相談が結果的に費用削減につながります。