相続法の改正で変わる制度と手続き

相続法の改正で変わる制度と手続き

相続法改正の主要変更点

相続法改正の概要
🏠
配偶者居住権の新設

被相続人の配偶者が終身または一定期間、居住建物に住み続けられる権利を創設

📝
遺言制度の見直し

自筆証書遺言の要件緩和と法務局による保管制度の創設

⚖️
遺留分制度の変更

物権的効力から金銭債権へと請求方法を変更し、より実用的な制度に

相続法改正による配偶者居住権の新設

2020年4月1日に施行された配偶者居住権制度は、相続法改正の目玉となる制度です。この制度により、被相続人の配偶者は従来よりも安定した居住環境を確保できるようになりました。

 

配偶者居住権には以下の2つの類型があります。

  • 配偶者居住権(長期居住権):終身または一定期間、配偶者がその使用を認められる法定の権利
  • 配偶者短期居住権:遺産分割が終了するまでの間、無償でその居住建物に住み続けることができる権利

配偶者短期居住権については、居住建物が第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄して共有持分を有しない場合でも、居住建物の所有者による消滅請求を受けてから6か月間は無償で住み続けることができます。

 

この制度の最大のメリットは、配偶者が家の所有権を相続しなくても「配偶者居住権」を相続すれば亡くなるまで家に住み続けられることです。配偶者居住権は家の評価より低くなるため、他に預貯金なども相続して老後の生活資金に充てやすくなっています。

 

さらに、被相続人と20年以上連れ添った配偶者が生前贈与によって家をもらっていた場合、特別受益の持ち戻しが原則的に行われないという優遇措置も設けられました。これにより、家をもらっても遺産相続分を減らされる心配がありません。

 

相続法改正に伴う遺言制度の見直し

遺言制度についても大幅な見直しが行われ、より利用しやすい制度となりました。主な変更点は以下の通りです。
自筆証書遺言の方式緩和(2019年1月13日施行)
従来は遺言書の全文を自筆で書く必要がありましたが、改正により財産目録についてはパソコンで作成することが可能になりました。また、通帳のコピーや不動産の登記事項証明書を添付することも認められるようになり、遺言作成の負担が大幅に軽減されました。

 

法務局における遺言書保管制度(2020年7月10日施行)
自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度が新設されました。この制度により、遺言書の紛失や改ざんのリスクを防ぐことができ、相続発生時の検認手続きも不要になります。

 

遺言執行者の権限明確化
遺言執行者の権限と責任範囲が明確化され、遺言の実現がよりスムーズに行えるようになりました。特に、遺言執行者は相続人の代理人ではなく、遺言執行者であることを示した行為は相続人に対して直接その効力を生じるとされました。

 

これらの改正により、遺言書を作成したい方は大きなメリットを受けられるようになっています。特に高齢者にとって、手書きの負担軽減と安全な保管が可能になったことは、遺言制度の活用促進に大きく寄与しています。

 

相続法改正で変わる遺留分制度

遺留分制度についても根本的な見直しが行われました。2019年7月1日の施行により、遺留分の請求方法が大幅に変更されています。

 

従来の問題点
改正前の制度では、遺留分減殺請求権の行使により当然に物権的効力が生じるとされていました。これにより、遺留分を取り戻す際には「物」を返してもらう必要があり、金銭的な清算は認められていませんでした。

 

改正後の新制度
改正法では、遺留分侵害額請求権の行使により遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずるものとされました。これにより以下のメリットが生まれています。

  • 遺留分をお金で精算してもらえるようになった
  • 返還後に共有物分割請求する必要がなくなった
  • 受遺者等の請求により、金銭債務の支払いについて裁判所が期限を許与できる

この変更により、遺留分の取り戻しを考えている方にとって、より実用的で利便性の高い制度となりました。特に、不動産が主な遺産である場合に、複雑な共有関係を避けることができるようになったのは大きな進歩です。

 

相続法改正による相続登記義務化

2024年4月1日から相続登記の義務化が開始され、2025年現在も継続して重要な制度となっています。この制度は所有者不明土地問題の解決を目的として導入されました。

 

義務化の内容
不動産を相続した場合、相続を知った日から3年以内に相続登記を行うことが義務付けられました。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料(行政罰)の対象となる可能性があります。

 

登録免許税の特例措置
2025年3月31日までの措置として、土地の固定資産税評価額が100万円以下の場合、登録免許税が免除される特例があります。これは相続登記を促進するための重要な措置となっています。

 

納付方法の多様化
登録免許税の納付方法についても改善が図られ、従来の収入印紙を申請書に貼付する方法に加えて、現金・オンラインでの納付も可能となりました。

 

手続完了の証明
相続登記完了後は、法務局から相続登記識別通知が発行されます。この通知は、かつての「登記済証」に相当する重要書類で、不動産の新たな権利者を確認する際に必要となります。

 

この義務化により、相続した不動産を放置して所有者不明になるケースを未然に防ぐ効果が期待されています。

 

相続法改正がもたらす実務への影響

相続法改正は、相続に関わる実務に多面的な影響をもたらしています。特に見落とされがちな実務上の変化について詳しく解説します。

 

特別寄与制度の新設による影響
2019年7月1日に施行された特別寄与制度は、相続人以外の被相続人の親族が無償で療養看護等を行った場合に、相続人に対して金銭請求ができる制度です。3親等以内の姻族と6親等以内の血族が対象となり、献身的に介護を行った身内の方にとって重要な制度となっています。

 

預貯金払戻し制度の実用性
遺産分割前でも預貯金の払戻しができる制度が新設され、葬儀費用などの緊急時に自分で立て替える必要がなくなりました。従来は家庭裁判所の審判を経る必要がありましたが、金融機関で一定金額を直接払い戻せるようになったのは実務上大きな改善です。

 

デジタル資産相続への対応
2025年の改正では、オンラインバンクや証券口座などのデジタル資産についても、相続時の名義変更や引き継ぎ手続きが一部簡略化されました。マイナンバーとの連携や遺言書保管制度との接続も進んでおり、現代社会のデジタル化に対応した制度整備が行われています。

 

相続の効力に関する重要な変更
相続させる旨の遺言により承継された財産について、従来は登記等の対抗要件なく第三者に対抗できるとされていましたが、改正により法定相続分を超える権利の承継については対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないとされました。この変更は、第三者の取引安全を図る重要な改正となっています。

 

これらの改正により、相続手続きはより複雑化した面もありますが、同時に多くの問題が解決され、関係者にとってより公平で実用的な制度となっています。相続に関わる際は、これらの新制度を十分に理解し、適切に活用することが重要です。