
狩猟者登録税は、日本の税制において重要な位置を占めていた地方税の一つです。この税金の歴史は1950年(昭和25年)にまでさかのぼります。当初は「狩猟者税」として都道府県税に設けられました。その後、1963年(昭和38年)に狩猟法が全面的に改正されたことに伴い、狩猟者税は廃止され、代わりに「狩猟免許税」と「入猟税」が新設されました。
狩猟免許税は、その使途を制約されない普通税として位置づけられていました。一方、入猟税は鳥獣の保護および狩猟に関する行政の実施に要する費用に充てるための目的税でした。この二つの税金は、その使途こそ異なっていましたが、狩猟者の登録を受ける者は両方の税金をあわせて納付する必要がありました。
1979年(昭和54年)には狩猟免許制度の改正により、狩猟免許税は「狩猟者登録税」へと名称が変更されました。この変更は単なる名称変更にとどまらず、狩猟免許制度の改革に伴う税制の調整でもありました。
長年にわたり並存していた狩猟者登録税と入猟税ですが、2004年(平成16年)3月31日に公布・施行された「地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律(平成16年法律第17号)」によって大きな変革を迎えました。この法改正により、狩猟者登録税と入猟税は廃止され、新たに「狩猟税」が創設されることになりました。
この統合は、税制の簡素化と効率化を図るための措置でした。それまで狩猟者は二つの税金を別々に納付する必要がありましたが、統合後は一つの税金として納付することになり、納税者の負担軽減と行政手続きの簡素化が実現しました。
統合前の狩猟者登録税の税率は、免許の種類や納税者の所得状況によって異なっていました。例えば、網・わな猟免許、第一種銃猟免許(空気銃以外の銃器)の登録者の場合、道府県民税の所得割の納付を要する者は10,000円、納付を要しない者は4,500円でした。第二種銃猟免許(空気銃)の登録者は3,300円と定められていました。
2004年の統合により誕生した狩猟税は、それまでの狩猟者登録税と入猟税の性格を併せ持つものとなりました。狩猟税には、狩猟免許を受けることによって狩猟行為をなし得る地位を獲得した事実に着目して課税する「免許税的な性格」と、狩猟行為を行って利益を受ける事実に着目して課税する「受益者負担金的な側面」の両方が含まれています。
統合後の狩猟税の税率は、免許の種類や納税者の所得状況によって細かく設定されています。例えば、第一種銃猟免許(装薬銃など)の場合、県民税の所得割を納める必要のある者は16,500円、所得割を納める必要のない者(農業などの従事者を除く)は11,000円となっています。網猟免許やわな猟免許の場合は、県民税の所得割を納める必要のある者は8,200円、所得割を納める必要のない者は5,500円です。第二種銃猟免許(空気銃)の場合は一律5,500円となっています。
この税率の設定は、狩猟の種類による環境への影響や、納税者の担税力を考慮したものとなっています。特に、第一種銃猟免許に対する税率が高く設定されているのは、銃による狩猟が他の方法に比べて効率的であり、また安全管理の観点からより厳格な規制が必要とされるためです。
狩猟税(旧狩猟者登録税)の納税方法は、狩猟者の登録を受ける際に行われます。具体的な納税手続きは都道府県によって若干異なりますが、基本的には以下のような流れになります。
まず、狩猟者の登録申請を行う際に、狩猟税の申告も同時に行います。多くの都道府県では、狩猟税申告書に税額に相当する県の証紙を貼って納める方法か、または申告書提出後に県税事務所から送付される納付書で納める方法が採用されています。
県民税の所得割を納付する必要がない場合や、農林水産業に従事している場合など、税率の軽減措置を受けるためには、市町村でその旨を証明する証明書を取得するか、マイナンバーを利用して確認を受ける必要があります。マイナンバーの利用が可能なのは、「狩猟者登録の申請者」と「県民税所得割の納税義務者」が同一の場合に限られ、また手続きは居住地域を管轄する県税事務所または納税事務所でのみ行うことができます。
狩猟を行う都道府県ごとに狩猟税が課されるため、複数の都道府県で狩猟を行う場合は、それぞれの都道府県で登録と納税の手続きが必要になります。これは、狩猟税が各都道府県の鳥獣保護や狩猟に関する行政費用に充てられる目的税であるためです。
狩猟税(旧狩猟者登録税)には、特定の条件を満たす狩猟者に対する税率の軽減措置や課税免除の制度が設けられています。これらの措置は、有害鳥獣の捕獲対策という社会的課題に対応するために導入されたものです。
まず、放鳥獣猟区(もっぱら放鳥獣された狩猟鳥獣の捕獲を目的とする猟区)だけを対象とする狩猟者の登録については、狩猟税は通常の4分の1に軽減されます。また、放鳥獣猟区だけを対象とする狩猟者の登録を受けている方が、放鳥獣猟区または放鳥獣猟区以外を対象とする狩猟者の登録を追加で受ける場合、その追加登録に係る狩猟税は通常の4分の3に軽減されます。
次に、課税免除の対象となるのは以下の2つのケースです。
さらに、狩猟者登録の申請前1年以内に、都道府県の区域を対象として鳥獣保護管理法の規定による鳥獣の捕獲等の許可を受けて、この許可捕獲等を行った方、または許可捕獲等に従事した方(従事者証の交付を受けた方)については、狩猟税が2分の1に軽減されます。
これらの特例措置は、当初は2024年(令和6年)3月31日までの時限措置でしたが、多くの都道府県では2029年(令和11年)3月31日まで延長されています。この延長は、深刻化する有害鳥獣被害対策の一環として、捕獲従事者の確保を支援するためのものです。
狩猟税(旧狩猟者登録税)の運用は、基本的な枠組みは全国共通ですが、細部については各都道府県によって若干の違いがあります。これは、各地域の狩猟環境や有害鳥獣の状況、行政ニーズなどが異なるためです。
例えば、大分県では狩猟税の軽減措置として、対象鳥獣捕獲員や認定鳥獣捕獲等事業者の従事者に対する課税免除に加え、狩猟者登録の申請前1年以内に有害鳥獣の捕獲に従事した実績がある方について、税率を通常の2分の1とする措置を講じています。これは、シカやイノシシなどの有害鳥獣による農林業被害が深刻な地域特有の対応と言えるでしょう。
一方、新潟県では、狩猟税の申告と納税について、狩猟税申告書に税額に相当する県の証紙を貼って納める方法と、申告書提出後に県税事務所から送付される納付書で納める方法の両方を用意しており、納税者の利便性を考慮した運用を行っています。
今後の課題としては、狩猟者の高齢化と減少が挙げられます。狩猟者の減少は、有害鳥獣対策の担い手不足につながるため、多くの自治体では新規狩猟者の確保・育成に力を入れています。狩猟税の軽減措置や免除制度も、こうした取り組みの一環として位置づけられていますが、さらなる対策が必要とされています。
また、デジタル化の進展に伴い、狩猟者登録や狩猟税の申告・納付手続きのオンライン化も課題となっています。マイナンバーの活用はその一歩ですが、さらに手続きの簡素化・効率化が求められています。
狩猟税は単なる税収確保の手段ではなく、鳥獣保護と有害鳥獣対策という二つの側面を持つ重要な制度です。今後も社会環境の変化に応じて、制度の見直しや改善が継続的に行われることが期待されます。
狩猟者登録税と入猟税が統合されて狩猟税になった背景には、税制の簡素化という行政改革の流れがありますが、それだけではなく、日本の狩猟を取り巻く社会環境の変化も大きく影響しています。
かつて狩猟は、食料の確保や毛皮の採取など、生活の糧を得るための活動でした。しかし、現代では趣味やスポーツとしての側面と、有害鳥獣の駆除という公益的な側面が主となっています。特に近年は、シカやイノシシなどの野生動物による農林業被害が深刻化しており、その対策としての狩猟の役割が注目されています。
2004年の税制改正による狩猟者登録税と入猟税の統合は、こうした狩猟の役割の変化を反映したものと言えます。統合前は、狩猟免許を取得する際の「狩猟者登録税」と、実際に狩猟を行う際の「入猟税」という二段階の課税体系でしたが、統合後は狩猟者登録時に一括して「狩猟税」を納付する仕組みになりました。これにより、狩猟者の手続き負担が軽減されるとともに、行政側の徴税コストも削減されました。
また、狩猟税の税収は鳥獣保護や狩猟に関する行政施策の実施に要する費用に充てられる目的税であり、その使途は明確です。これは、狩猟が単なる個人の趣味・嗜好ではなく、生態系の保全や農林業被害の防止という公益的な役割を担っていることの表れでもあります。
さらに、狩猟税には「免許税的な性格」と「受益者負担金的な側面」の両方があるとされています。これは、狩猟免許を受けることで狩猟行為をする権利を得たことに対する課税と、実際に狩猟を行って利益を受けることに対する課税という二つの側面を持つということです。この二面性は、統合前の狩猟者登録税と入猟税がそれぞれ担っていた役割を、統合後の狩猟税が引き継いでいることを示しています。
狩猟税の制度は、単なる税収確保の手段ではなく、野生動物と人間の共存という難しい課題に対する社会的な取り組みの一環として位置づけられています。特に、有害鳥獣捕獲に従事する人に対する税の軽減・免除措置は、公益的な活動を支援するという社会的意義を持っています。
今後も、狩猟者の高齢化や減少、野生動物による被害の拡大など、様々な課題に対応するために、狩猟税制度は継続的に見直されていくことでしょう。その際には、単なる税制の問題ではなく、自然環境の保全と人間社会の調和という大きな視点からの検討が必要とされています。