

JCRが「A」と評価しているソフトバンクの劣後債を、S&Pは「B+」と3段階以上も低く評価している。
劣後債(劣後社債)とは、企業が倒産・清算した際に、一般の社債(普通社債)よりも元利金の弁済順位が低く設定された債券のことです。普通株式よりは上ですが、普通社債より確実に後回しにされるという位置づけです。
ソフトバンクグループ(SBG)は、この劣後債を国内外で継続的に発行している国内有数の発行体です。個人投資家向けに発行される「福岡ソフトバンクホークスボンド」の愛称で知られる無担保普通社債とは別に、機関投資家向けの劣後特約付き社債や、米ドル建て・ユーロ建ての劣後社債も複数発行されています。
劣後債が通常の社債と異なる点は大きく3つあります。第1に、弁済順位が低い点です。破綻時、普通社債の投資家が返済を受けた後にしか劣後債の投資家は弁済を受けられません。第2に、利払繰延条項が付いているケースがある点です。発行体の財務状況が悪化した場合、利息の支払いを一定期間延期できる仕組みが盛り込まれることがあります。第3に、期限前償還条項が設定されることが多い点です。これにより、満期より大幅に早く発行体の都合で償還されることがあります。
これらのリスクに対する見返りが「高い利率」です。つまり高利回りですね。
ソフトバンクグループが2025年8月に発行した国内機関投資家向けの劣後債(実質5年物)は、利率4.556%で、同年の国内企業による円建て社債では最高水準でした。また2025年10月発行の米ドル建て劣後社債は利率8.25%と、円建てよりさらに高い設定です。
ソフトバンクグループの社債情報(劣後債を含む発行一覧)は以下で確認できます。
ソフトバンクグループ公式 社債情報ページ(劣後債含む発行一覧・利率・償還日を確認できる)
https://group.softbank/ir/stock/bond
ソフトバンクグループの劣後債への評価で、投資家が最も混乱するのが「格付けの二重基準」です。これは重要な話です。
国内格付け機関JCR(日本格付研究所)は、SBGの劣後債に対して「BBB+」という投資適格水準の評価を与えています。一方、世界的な格付け機関S&P(スタンダード&プアーズ)は、劣後債に「B+」という格付けを付与しています。長期発行体格付け(BB+)から3ノッチも低い評価です。
S&Pがここまで低く見る理由は主に2つです。まず、劣後性に基づく2ノッチの引き下げがあります。劣後債は破綻時に回収可能性が低いため、構造的なリスクとして2段階引き下げるのがS&Pの基準です。次に、利払い繰延の裁量性に基づく1ノッチの追加引き下げがあります。発行体が任意で利払いを止められる条項を「デフォルトに近いリスク」と判断し、さらに1段階下げます。
JCRが相対的に高い評価を付けているのは、SBGの日本国内での存在感や、アーム社・ソフトバンク株式会社などの保有資産価値を重視しているためとされています。対して国際基準を適用するS&Pは、持株会社型の事業構造(子会社の配当・売却に依存する収益モデル)や有利子負債規模(約18兆円)に対してより厳しく評価する傾向があります。
| 格付け機関 | 長期発行体格付け | 劣後債格付け | 評価の視点 |
|---|---|---|---|
| JCR(国内) | A | BBB+ | 国内資産・事業安定性を重視 |
| S&P(海外) | BB+ | B+ | 負債構造・持株会社リスクを重視 |
| Moody's(海外) | Ba2 | — | 投機的水準と評価 |
つまり、「どの格付け機関を参考にするか」で投資判断が変わるということですね。
日本経済新聞の2025年9月の記事では、「ソフトバンクグループはJCRの格付けがA、S&PがBB+と差が大きく、低い格付けに引っ張られて利率が高くなっているが、信用リスクは実態より低い可能性もある」と専門家が指摘しています。しかし一方で、国際基準で「ジャンク(投機的)」とされる評価を軽視するのも危険です。
S&Pの統計によれば、BB格付けの企業の10年後デフォルト率は約11%です。10社に1社以上が破綻するという計算は、無視できない数字です。
格付けの詳細はS&Pの公式レポートで確認できます(日本語版)。
S&Pグローバル:ソフトバンクグループの劣後債格付けレポート(2025年10月20日付、B+格付けの根拠を解説)
高利回りに目が行きがちですが、劣後債には「利払繰延条項」と「期限前償還条項」というリスクが隠れています。厳しいところですね。
利払繰延条項とは、発行体の財務状況が悪化した場合などに、利息の支払いを一定期間延期できる権利を発行体が持つ条項です。ソフトバンクグループが発行した第4回・第5回・第6回の劣後特約付き無担保社債(いずれも利払繰延条項・期限前償還条項付き)にはこの条項が盛り込まれています。
例えば第6回劣後債(2023年4月発行)の利率は4.75%と高水準ですが、この条項により「財務悪化時には利息がゼロになる」シナリオが現実にあります。年間4.75万円/100万円の利息を期待して購入していても、受け取れない年が生まれる可能性があるということです。
期限前償還条項も見逃せません。ソフトバンクグループの劣後債の多くは「初回の期限前償還可能日」が設定されており、その日以降は発行体が任意に一括償還できます。
実際に何が起きているかというと、2016年に発行されたSBGの劣後債3銘柄は、満期は30〜40年に設定されていましたが、すべて発行から5〜7年で繰り上げ償還されています。また、第4回劣後債は2025年11月に繰り上げ償還が発表され、2026年2月4日に全額償還となりました。
これが投資家に何をもたらすかというと、「35年物の高利回りを期待して資産計画を立てていたのに、7年で資金が戻ってきてしまい、その後の再投資先の利率が低い」というシナリオです。長期間の高利回りを前提にした資産計画が狂うリスクですね。
このリスクを把握するには、目論見書の「期限前償還」「利払繰延」の項目を必ず確認することが条件です。
ソフトバンクグループの劣後債を正しく評価するには、財務の実態を直視する必要があります。数字を見ていきましょう。
2025年3月期決算短信によれば、SBGの有利子負債は約18兆630億円です。これは国内企業の中でも突出した規模で、東京ドームの建設費(約2000億円)に換算すると約90個分に相当します。一般的な感覚でいえば、中堅国家の年間予算規模に匹敵します。
ただし、SBGが独自に開示している「LTV(ローン・トゥ・バリュー)」指標も合わせて見ることが重要です。LTVとはグループの保有資産の時価に対する純負債の割合で、2025年9月末時点で16.5%です。SBGは「LTV25%未満を維持する」という財務規律を自社基準として設けており、この数値は現時点ではその範囲内です。
| 財務指標 | 数値(2025年3月期) | 評価コメント |
|---|---|---|
| 有利子負債 | 約18兆630億円 | 国内企業トップクラスの規模 |
| 総資産 | 約45兆1,376億円 | 保有資産の多様性あり |
| 自己資本比率 | 25.7% | やや低め |
| LTV(純負債/保有資産) | 16.5%(2025年9月末) | 自社基準25%以内を維持 |
また、業績のボラティリティも見逃せません。SBGは投資会社としての性質上、業績が投資先の株価に大きく左右されます。2019年度は約9,616億円の最終赤字、2020年度は約4兆9,879億円の黒字、2021年度は再び約1兆7,080億円の赤字という乱高下を繰り返してきました。2024年度は4年ぶりに黒字転換(約1兆1,533億円)、2025年度上半期はOpenAIへの出資評価益などで約2兆9,240億円の過去最高益を記録しています。
この業績の波が「劣後債の安全性評価」に直結する点を理解しておく必要があります。黒字の今は問題ありませんが、赤字局面では格付けが引き下げられ、社債市場での調達コストが上昇し、借り換えが難しくなるという連鎖が起こりえます。SBGが継続的に社債を発行することで既存債務を借り換えている構造は、市場環境の悪化時に脆弱性を露呈しやすい点です。
「では結局、買ってよいのか」という問いに対して、答えは「条件次第」です。これが原則です。
まず、劣後債を前向きに検討できる条件を整理します。
逆に、以下に当てはまる場合は再検討を推奨します。
一方でメリットも明確です。2025年の最新データを見ると、国内劣後債(機関投資家向け、実質5年)は利率4.556%、個人向け第67回無担保普通社債(7年)は3.98%でした。銀行預金(大手行0.1〜0.2%)と比較すると、リスクを取った場合のリターン差は明確です。100万円を7年間保有した場合の利息収入(第67回・税引前)は約27.86万円になります。
これを使えそうな観点として、「一定のリスクを許容しながら、インフレ率(2〜3%)を上回る利回りを確保したい」という投資家には選択肢になり得ます。ただし、インフレ率2.5%を差し引いた「実質利回り」は3.98%-2.5%=約1.48%です。劣後債リスクに対してこの実質リターンが見合うかは個人の判断になります。
購入前に必ずチェックすべきことは、証券会社で配布される目論見書の「社債の特徴」欄です。「劣後特約」「利払繰延条項」「期限前償還条項」の記載の有無と条件を確認してから申し込むことが、最低限のリスク管理です。
個人向け社債の利回りランキングや比較情報を知りたい場合、日本経済新聞社の社債特集記事も参考になります。
日経新聞:個人向け社債 年率2%超の選び方(格付けと利率のバランスを専門家目線で解説、2025年9月)
最後に一言添えておきます。ソフトバンクの劣後債は「危険だから絶対ダメ」でも「大企業だから安心」でもありません。リスクの中身を把握した上で、分散投資の一環として活用するかどうかを判断する商品です。格付け機関の評価の差、財務の構造的リスク、特約条件のすべてを把握してから決断する、それが投資家としての正しいアプローチです。