根保証契約の極度額と民法改正の重要な注意点

根保証契約の極度額と民法改正の重要な注意点

根保証契約の極度額:民法改正で変わった保証の仕組みと注意点

極度額が書面に書かれていないだけで、保証人への請求が1円もできなくなります。


この記事の3ポイントまとめ
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極度額なし=保証契約は無効

2020年4月以降、個人根保証契約は極度額を書面で定めないと法律上無効。保証人に1円も請求できなくなる。

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賃貸・身元保証どちらにも適用

賃貸借契約の連帯保証だけでなく、就職時の身元保証書も根保証に該当。極度額の記載が必須になった。

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法定更新には改正民法が適用されない落とし穴

借地借家法に基づく法定更新の場合、改正民法の極度額ルールが適用されないケースがある。契約更新時に要確認。


根保証契約とは何か:通常の保証契約との違い


保証契約には大きく分けて「特定の債務だけを保証する通常の保証」と、「一定の範囲に属する不特定の債務を保証する根保証契約」の2種類があります。通常の保証は、たとえば「AさんがBさんから100万円を借りた場合のその1回分の返済を保証する」という形で、保証する金額があらかじめ決まっています。


根保証契約はその点が大きく異なります。賃貸借契約における保証人を例に挙げると、賃料の滞納だけでなく、解約時の原状回復費用、残置物の処理費用など、将来どれだけの金額になるか契約時には分からない複数の債務をまとめて保証する形になります。これが「不特定の債務を保証する」ということです。


根保証が怖い理由はここにあります。昔は極度額(上限額)を設けない「包括根保証」が認められていたため、保証人が予想外に多額の弁済を求められ、財産を失うケースが相次ぎました。現在の民法は、その反省を踏まえた仕組みになっています。


根保証の主な適用場面は次のとおりです。


- 🏠 賃貸借契約の連帯保証:家賃滞納・原状回復・残置物費用など複数の債務が対象
- 💼 就職時の身元保証:従業員が会社に与えた損害を保証する契約
- 💴 継続的な売買・取引に伴う保証:継続的な商取引から発生する複数の債務を保証


つまり根保証は金融分野に限った話ではなく、日常生活のさまざまな場面に登場します。知らないままでいると、思わぬ損害を受ける可能性があります。


根保証契約の極度額とは:2020年民法改正で義務化された背景

極度額とは、根保証契約において保証人が負担する債務の上限額のことです。これが書面で定められていなければ、2020年4月1日以降に締結した個人根保証契約は法律上「無効」とみなされます(民法第465条の2第2項)。


民法改正以前の状況を振り返ると、2005年4月以前は「貸金等根保証」にしか極度額規制がありませんでした。賃貸借や身元保証は規制の対象外だったのです。2020年の改正でその範囲が「全ての個人根保証契約」に拡大されました。これは保証人保護の大きな転換点と言えます。




















改正前(2020年3月まで) 改正後(2020年4月以降)
貸金等根保証のみ極度額が必要 全ての個人根保証契約に極度額が必要
賃貸・身元保証は極度額なしでも有効 賃貸・身元保証も極度額なしは無効
口頭合意でも有効なケースがあった 書面または電磁的記録が必須


改正民法の根拠条文は民法第465条の2です。これが個人根保証全般の極度額義務化を定めています。また、民法第446条第2項は保証契約全体について「書面でしなければ効力を生じない」と定めており、極度額を口頭で合意しただけでは無効になります。


改正は保証人を守るための規定ですが、債権者側(貸主・雇用主)にとっても注意が必要です。極度額を書面に記載し忘れると、万一の際に保証人に一切請求できなくなるリスクがあります。


国土交通省・法務省の公式情報が参考になります。


法務省が発行する保証に関する民法改正の概要(2020年4月1日施行分)について、公式PDFに詳細な説明があります。


法務省|2020年4月1日から保証に関する民法のルールが大きく変わります(PDF)


根保証契約の極度額の目安と設定の考え方

極度額はいくらに設定すればよいのか。これは債権者(貸主)が自由に決められますが、現実には相場があります。高すぎると保証人のなり手がなくなり、低すぎると保証の意味が薄れます。


賃貸借契約の場合、国土交通省が示した参考資料によると次のような目安があります。


| 月額賃料 | 極度額の目安 |
|--------|------------|
| 4万円未満 | 約18万円 |
| 4万円〜8万円未満 | 約28万円 |
| 8万円〜12万円未満 | 約50万円 |
| 12万円〜16万円未満 | 約70万円 |


実際の不動産実務では、家賃の12ヶ月分〜24ヶ月分の範囲で設定するケースが多く見られます。たとえば月額賃料が10万円なら120万円〜200万円程度が相場です。これはカレンダーの2年間に相当するイメージです。


なぜ24ヶ月分かというと、家賃の滞納から裁判・強制執行・明け渡し完了までに相当の時間と費用がかかるためです。長期滞納分+原状回復費+訴訟費用を合算すると、それなりの金額になります。


一方、就職時の身元保証書における極度額の相場は、100万円〜1,000万円の範囲とされています。ただし高額すぎると公序良俗違反(民法90条)を理由に保証契約が無効になる可能性もあります。職位や業務内容に見合った金額設定が求められます。


これが原則です。債権者・保証人の双方が合意したうえで、書面に明記することが必須条件となります。


賃貸借契約の極度額の設定方法については、不動産実務の観点から詳しい解説があります。


LIFULL HOME'S|賃貸借契約の極度額とは?金額の決め方や連帯保証人への伝え方


根保証契約の極度額で見落としがちな「法定更新」の落とし穴

ここが多くの人が見落とす重要ポイントです。2020年4月以降に締結した契約には改正民法が当然適用されますが、「法定更新」の場合は話が変わります。


借地借家法第26条第1項では、賃貸借契約の期間満了の1年前〜6ヶ月前までに更新しない旨の通知がなければ、従前と同じ条件で契約が更新されたとみなされます。これが法定更新です。


法定更新の場合、改正前に極度額なしで締結された保証契約は、法定更新後も「従前と同一の条件」として継続されるとされています。つまり極度額なしの保証契約が法定更新を経ても有効なまま存続する可能性があります。


意外ですね。多くの人は「2020年以降に更新されたなら改正民法が適用される」と思いがちですが、法定更新のケースは例外的な扱いを受ける場合があります。


ただしこの点については裁判例でも見解が分かれており、法定更新後の保証の効力は一律に決まっているわけではありません。不動産賃貸の実務においては、更新のタイミングで保証人から改めて書面に極度額を明記した保証契約書に署名してもらう対応が確実です。


賃貸経営に関わる方が取るべき対策として、次の確認を行うことが有効です。


- 📄 既存の保証契約書の確認:極度額が書面に明記されているかを確認する
- 🔄 更新時の保証契約の取り直し:合意更新の際は新たな保証契約書を作成し、極度額を明記する
- 📝 法定更新のリスク管理:法定更新に頼らず、期間満了時に明示的な保証更新を求める


改正民法と法定更新の関係は法律の専門家でも解釈が分かれる領域です。自己判断で放置せず、弁護士や司法書士に確認することを強くおすすめします。


法定更新と連帯保証契約の適用関係について実務的な解説があります。


大阪府宅地建物取引業協会|改正民法後の法定更新と連帯保証契約について


根保証契約の元本確定事由:保証人が死亡した場合の相続への影響

根保証には「元本確定事由」という重要なルールがあります。これは一定の事由が発生した時点で、保証の対象となる元本の金額が確定するという仕組みです。元本が確定した後に発生した新たな債務は、保証の対象になりません。


個人根保証契約における元本確定事由(民法第465条の4)は次のとおりです。


- ⚖️ 債権者が保証人の財産に強制執行・担保権実行の申立てをしたとき
- 💥 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき
- 💀 主たる債務者または保証人が死亡したとき


特に注目すべきなのは「保証人の死亡」です。たとえば賃貸借契約で親が連帯保証人になっていた場合、その親が死亡したとき点で保証の元本が確定します。確定後に発生した家賃の滞納などについては、相続人(子どもなど)は保証責任を引き継ぎません。


これは相続の観点から大きな意味を持ちます。確定した元本の範囲内(つまり死亡時点までの滞納額等)は相続人が引き継ぐ可能性がありますが、死亡後に新たに発生した債務については相続人は一切責任を負いません。


つまり根保証の元本確定は重要です。保証人が亡くなった後も保証が無限に続くわけではなく、死亡時点で責任範囲がはっきり区切られます。これを知っているかどうかで、相続時の対応が大きく変わります。


また、個人貸金等根保証契約(貸金や手形割引が主債務の場合)には、さらに厳しいルールとして元本確定期日の制限もあります(民法第465条の3)。元本確定期日を契約締結から5年超で設定した場合その定めは無効となり、定めがない場合は3年後に自動で元本が確定します。


保証債務の相続と元本確定の関係については専門家によるくわしい解説があります。


橘法律事務所|保証債務の相続はどうなる?基本から具体的対策まで徹底解説


根保証契約と極度額:身元保証書への実務的な対応策

金融の話と思われがちな根保証契約ですが、もっとも身近に関わるのが「就職時の身元保証書」です。入社の際に親や親族に身元保証人になってもらうケースはよくあります。しかし2020年4月以降、この身元保証書も根保証契約に該当し、極度額の記載が義務となっています。


極度額の記載がない身元保証書は無効です。会社側(債権者)にとっては、損害が発生しても保証人に請求できないというリスクがあります。一方、保証人(親など)にとっては、身元保証書に極度額が記載されているかを必ず確認することが自分の身を守る手段になります。


身元保証書に関して実務上のポイントをまとめると次のとおりです。


- ✅ 極度額の記載は必須:法律上の義務。金額の記載がなければ無効
- 📅 身元保証の有効期間:「身元保証ニ関スル法律」により原則3年、商工業見習いは5年が上限(自動延長不可)
- 💡 高額すぎる極度額は無効リスクあり:公序良俗違反(民法90条)で無効になる可能性がある
- 📌 保証範囲は「故意または重大な過失」が原則:軽微なミスは保証の対象外


転職サイトなどに「身元保証書に3,000万円と記載されていてびっくりした」という声が見られます。これが厳しいところですね。ただし、あまりにも高額な極度額は公序良俗違反で無効になる可能性があるため、法的に争う余地があります。


身元保証書を求められた場合のチェックリストとして、「極度額が書かれているか」「金額は職位・業務内容と見合った水準か」「保証期間の記載があるか」という3点を確認することが有効です。これだけ覚えておけばOKです。


法的なリスクが不安な場合は、弁護士ドットコムや各都道府県の法テラス(無料法律相談)で事前確認する方法もあります。


身元保証に関する民法改正の詳細については次の記事が参考になります。


名古屋の弁護士事務所|身元保証契約には極度額の定めが必須!民法改正への対応




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