
揮発油税は、特定の炭化水素油に対して課される国税です。具体的には、温度15℃において比重が0.8017を超えない炭化水素油(一般的にガソリンと呼ばれるもの)が課税対象となります。この税金は揮発油税法に基づいて課税され、国の財源となります。
揮発油税の課税対象となる「揮発油」とは、化学的には特定の比重と性質を持つ炭化水素油を指します。これは一般消費者が自動車などに給油するガソリンだけでなく、工業用途や特殊用途に使用される同様の性質を持つ炭化水素油も含まれます。
課税対象を明確にするために、揮発油税法では温度と比重という物理的な特性を用いて定義しています。この定義により、軽油やジェット燃料などの他の石油製品とは区別され、それぞれ異なる税制が適用されています。
揮発油税の計算は、課税標準数量に税率を乗じることで行われます。課税標準数量とは、製造者が製油所から移出した数量、または保税地域からの引取者が引き取った数量から、貯蔵・輸送による減少分(欠減控除率100分の1.35)を差し引いた数量です。
揮発油税の本則税率は1キロリットル(kL)あたり24,300円ですが、租税特別措置法による暫定税率が適用されており、1979年(昭和54年)6月1日以降は1kLあたり48,600円となっています。これをリットル単位に換算すると、1リットルあたり48.6円の税率となります。
計算例として、製油所から100kLの揮発油を移出した場合、欠減控除率1.35%を適用すると、課税標準数量は98.65kL(100kL×(1-0.0135))となります。これに税率48,600円/kLを乗じると、納税額は4,794,390円となります。ただし、端数処理のルールにより、最終的な納税額は4,794,300円(100円未満切り捨て)となります。
揮発油税と地方揮発油税は、同じガソリンに課される税金ですが、徴収主体と使途に違いがあります。揮発油税は国税であり、国の一般財源となります。一方、地方揮発油税は地方自治体の財源となる税金です。
地方揮発油税の税率は本則で1kLあたり4,400円(1リットルあたり4.4円)ですが、こちらも暫定税率が適用されており、1リットルあたり5.2円となっています。一般的に「ガソリン税」と呼ばれるものは、この揮発油税と地方揮発油税を合わせたものを指します。
両税の納税義務者は同じであり、揮発油の製造者や保税地域からの引取者が納税します。ただし、最終的には消費者が購入するガソリン価格に転嫁される形で負担することになります。
かつては道路整備の財源として使途が限定されていましたが、平成21年度より一般財源化され、使途の限定がなくなりました。これにより、道路整備以外の公共サービスにも活用されるようになっています。
揮発油税の納税義務者は、製油所から揮発油を移出した揮発油製造業者、または保税地域からの揮発油引取者です。これらの事業者は、揮発油を市場に供給する過程で課税対象となります。
揮発油製造業者は、毎月の移出数量について翌月末日までに申告・納付する義務があります。例えば、4月中に移出した揮発油については、5月末日までに申告書を提出し、税金を納付しなければなりません。
一方、保税地域からの引取者は、関税の輸入申告と同時に揮発油税の納税申告を行い、引き取り時までに納付することが義務付けられています。これは輸入手続きの一環として行われるため、通関業者を通じて手続きが行われることが一般的です。
申告書には、移出または引取りの数量、欠減控除後の課税標準数量、適用税率、納税額などを記載します。また、特定用途に使用される揮発油で免税対象となるものについては、その旨を申告書に記載し、必要な証明書類を添付する必要があります。
揮発油税の計算においては、いくつかの端数処理ルールが定められています。これらのルールは国税庁の通達によって明確に規定されており、納税額の確定に重要な役割を果たしています。
課税標準数量に対する揮発油税額に1円未満の端数がある場合、その端数金額は切り捨てられます。例えば、計算上の税額が123,456.78円となった場合、1円未満の0.78円を切り捨てて123,456円となります。
また、控除税額に1円未満の端数がある場合も、その端数金額は切り捨てられます。これは、免税用途に供された揮発油の税額控除などを計算する際に適用されるルールです。
さらに、揮発油税額の確定金額に100円未満の端数がある場合、またはその全額が100円未満である場合には、その端数金額またはその全額が切り捨てられます。例えば、計算上の納税額が4,794,350円となった場合、100円未満の50円を切り捨てて4,794,300円が最終的な納税額となります。
還付金の額に相当する揮発油税額に1円未満の端数がある場合も、その端数金額は切り捨てられます。これは、過誤納付や免税用途への使用による還付申請を行う際に適用されるルールです。
揮発油税には、特定の用途に使用される場合に適用される免税制度があります。租税特別措置法に基づく揮発油税の特定用途別免税として、以下のような用途が対象となっています。
これらの用途に使用される揮発油については、所定の手続きを経ることで揮発油税が免除されます。免税を受けるためには、事前に税務署長の承認を受け、免税証明書の交付を受ける必要があります。
免税制度を利用する場合、揮発油の製造者や輸入者は、免税用途に供される揮発油について、通常の課税対象の揮発油と区分して管理する必要があります。また、免税用途以外に転用された場合には、その時点で課税対象となり、納税義務が発生します。
この免税制度は、産業の国際競争力の維持や特定分野の発展を支援する目的で設けられています。特に石油化学産業においては、原料としての揮発油に課税されると最終製品のコスト上昇につながるため、この免税制度が重要な役割を果たしています。
ガソリン価格には、揮発油税以外にもさまざまな税金が含まれています。これらの税金が積み重なることで、消費者が支払う最終的なガソリン価格が形成されています。
ガソリンにかかる主な税金は以下の通りです。
これらを合計すると、例えばガソリン本体価格が100円/Lの場合、税金部分は以下のように計算されます。
つまり、ガソリン本体価格100円に対して、約72円の税金が上乗せされ、消費者は約172円/Lを支払うことになります。これは、ガソリン価格の約42%が税金であることを意味します。
揮発油税には「トリガー条項」と呼ばれる特別な規定があります。これは、ガソリン価格が一定水準を超えた場合に、暫定税率の適用を停止し、本則税率に戻すという仕組みです。
具体的には、揮発油の平均小売価格が連続3か月にわたり160円/Lを超えることとなった場合、特例税率(暫定税率)の適用が停止され、揮発油税等の本則税率(28.7円/L)が適用されることになります。その後、揮発油の平均小売価格が連続3か月にわたり130円/Lを下回ることとなった場合、特例税率の適用が再開されます。
このトリガー条項は、ガソリン価格の高騰が消費者や経済に与える影響を緩和するための安全弁として設けられています。しかし、実際には財政への影響を懸念して、過去にはトリガー条項の発動が凍結されたこともあります。
近年のガソリン価格高騰時には、トリガー条項の発動ではなく、別途の「燃料油価格激変緩和対策」として、元売り事業者に対する補助金制度が導入されました。これにより、トリガー条項を発動せずに、実質的にガソリン価格の上昇を抑制する政策が取られています。
揮発油税の課税標準を確定するためには、正確な数量測定が不可欠です。国税庁の通達では、揮発油の数量測定方法について詳細に規定されています。
取引等の数量を移出または引取りの容器(油槽船、油槽貨車、油槽自動車を含む)への収容量によって計量している場合には、当該計量された揮発油の容量または重量に基づいて測定します。これは、製油所から出荷される際や、輸入時に保税タンクから引き取られる際の測定方法です。
取引等の数量を貯蔵タンクにおける収容量の増減によって計量している場合には、当該貯蔵タンクから払い出される揮発油の容量に基づいて測定します。この場合、液面計を使用することが一般的であり、その液面計の要件等については別途通達で定められています。
また、取引等の数量を流量計によって計量している場合には、当該流量計を通過する揮発油の容量に基づいて測定します。流量計は、パイプラインを通じて移送される揮発油の数量を正確に測定するために使用されます。
これらの測定方法は、揮発油の物理的特性(温度による体積変化など)を考慮して、15℃における標準状態の容量に換算することが求められています。これにより、温度差による体積変化の影響を排除し、公平な課税を実現しています。
揮発油税は、日本の道路整備財源を確保するために導入された税金です。その歴史は戦後の道路整備の必要性と密接に関連しています。
揮発油税は1949年(昭和24年)に創設され、当初は道路整備の財源として使途が限定されていました。創設当初の税率は1kLあたり2,400円でしたが、道路整備の需要増加に伴い、段階的に引き上げられてきました。
1954年(昭和29年)には地方道路税(現在の地方揮発油税)が創設され、ガソリンに対する課税体系が整備されました。その後、1974年(昭和49年)に暫定税率が導入され、本則税率に上乗せする形で税率が引き上げられました。
1979年(昭和54年)6月1日からは、暫定税率が大幅に引き上げられ、揮発油税は1kLあたり45,600円(現在の48,600円の前身)となりました。この暫定税率は、当初は時限的な措置でしたが、その後も継続的に延長されてきました。
2009年(平成21年)には、道路特定財源制度が廃止され、揮発油税は一般財源化されました。これにより、道路整備に限定されていた使途の制限がなくなり、様々な公共サービスに活用できるようになりました。
現在の税率体系は、本則税率と暫定税率の二重構造となっており、この構造が長期間にわたって継続していることが特徴です。本来一時的な措置であった暫定税率が、実質的に恒久化している状況に対して、見直しを求める声も上がっています。
以上が揮発油税の計算方法と仕組みについての詳細な解説です。揮発油税は、ガソリン価格の形成に大きな影響を与える重要な税金であり、その理