決済用預金を個人・法人が使いこなす全知識

決済用預金を個人・法人が使いこなす全知識

決済用預金を個人と法人が正しく活用するための基礎知識と注意点

楽天銀行や住信SBIネット銀行には、決済用預金の取り扱いが一切ありません。


この記事でわかること
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決済用預金の3つの要件とは?

「無利息・要求払い・決済サービス」の3条件を満たす預金だけが全額保護の対象。当座預金と無利息型普通預金が代表例です。

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総合口座の定期預金は全額保護の対象外

普通預金部分だけが決済用預金になります。同じ総合口座の定期預金は別扱いで、元本1,000万円までの一般保護にしかなりません。

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個人事業主の屋号付き口座は個人口座と合算される

法人と違い、個人事業主は屋号付き口座と個人口座が合算されます。2つに分けても保護枠は合計1,000万円のままです。


決済用預金の基本と3要件:個人・法人が知っておくべき定義

決済用預金とは、預金保険法第51条の2が定める「①無利息・②要求払い・③決済サービスを提供できること」の3要件をすべて満たす預金のことです。この3要件を満たす預金に限り、預金保険制度によって残高の全額が保護されます。


「無利息」とはどういうことでしょうか? 文字通り、預け入れても利息がまったく付かないということです。「要求払い」とは、預金者がいつでも払い戻しを請求できる状態のことを指します。「決済サービスを提供できること」とは、振込や口座振替など、日常的な支払い手段として利用できることです。


この3つの条件を満たす預金の代表例は、「当座預金」と「無利息型普通預金(決済用普通預金)」です。銀行によって呼び名は異なりますが、三菱UFJ銀行では「普通預金〔決済専用無利息型〕」、みずほ銀行では「普通預金(無利息型)」、三井住友銀行では「決済用普通預金口座」という名称で提供されています。


決済用預金が基本です。なぜ全額保護になるのかというと、支払いのために常に引き出せる状態に置かれている資金を、金融機関の破綻によって失わせてしまうと、社会の決済インフラそのものが機能不全に陥るという政策的な判断からです。2005年4月のペイオフ全面解禁に合わせて整備されたルールで、以来20年以上にわたって運用されています。


個人・法人の双方が利用できます。マンション管理組合や任意団体、地方公共団体も対象です。「商売をしていない個人でも利用できる」と預金保険機構のFAQに明示されており、特別な資格や条件は必要ありません。


預金保険機構公式FAQ「決済用預金とはどのような預金か」(預金保険法の条文付き解説)


決済用預金の全額保護のしくみ:ペイオフとの関係を個人・法人別に整理

預金保険制度(ペイオフ)の基本的なルールは、「1金融機関・預金者1人あたり、元本1,000万円+破綻日までの利息等」を保護するというものです。これが「定額保護」です。


一方、決済用預金は「全額保護」です。残高が5,000万円でも1億円でも、金融機関が破綻した場合に全額が保護されます。これは定額保護とは完全に別枠で計算されるため、決済用預金に2,000万円、利息付き普通預金に800万円を同じ銀行に預けていた場合、決済用預金の2,000万円は全額保護、利息付き普通預金の800万円は1,000万円枠に収まるので全額保護、という扱いになります。


つまり、別枠なので安心です。ただし、これは「同一金融機関内」での話です。


法人の場合の注意点は、個人口座と法人口座は完全に別の預金者として扱われる点です。同じオーナー経営者が個人名義で1,000万円、会社名義で1,000万円を同じ銀行に預けていても、それぞれ1,000万円ずつ保護されます。これは使えそうです。


個人事業主の場合は、扱いが異なります。 個人事業主が屋号付き口座(例:「山田商店」名義)を持っていても、法的には「山田太郎」個人と同一人物として扱われます。そのため、個人用口座の残高と屋号付き口座の残高が合算されて、合計で元本1,000万円までの保護となります。屋号を付けて2つ口座を持っても、保護枠は1つ分のままという点に注意が必要です。


ペイオフが実際に発動したのは、日本の歴史上1度だけです。2010年9月に日本振興銀行が経営破綻し、初めてペイオフが発動されました。当時の預金者は約11万人。そのうち1,000万円を超える預金を持っていた預金者は全体の約3%にあたる3,423人でした。保護対象外となった1,000万円超の部分への弁済率は累計で約58%(1人平均約180万円)にとどまり、一部の預金者は大きな損失を被りました。


金融庁「預金保険制度」公式ページ(全額保護と定額保護の仕組みを図解)


決済用預金の開設方法と対応銀行:個人・法人別の手続きの流れ

個人・法人ともに、既存の普通預金口座を決済用預金(無利息型)に切り替えるのが最も一般的な方法です。口座番号は切り替えても変わらないため、既存の引き落とし設定や振込先の変更は原則として不要です。これが条件です。


手続きは銀行の窓口、またはインターネットバンキングから行えます。三菱UFJ銀行や三井住友銀行ではネットから手続きが完結できますが、みずほ銀行の法人口座は取引店への問い合わせが必要です。


重要な注意点として、一部の銀行では決済用預金から普通預金への「戻し切り替え」ができません。 例えば、GMOあおぞらネット銀行では「決済用預金への切替は一度限り」と明示されており、切り替え後は有利息の普通預金に戻せない仕組みになっています。将来的に普通預金の金利が大幅に上昇した場合などに、利息を受け取れなくなるリスクがある点は知っておくべきでしょう。


下記は主な銀行の対応状況の一覧です。


金融機関 商品名 個人 法人
三菱UFJ銀行 普通預金〔決済専用無利息型〕
三井住友銀行 決済用普通預金口座
みずほ銀行 普通預金(無利息型)
りそな銀行 りそな普通預金(決済用)
ゆうちょ銀行 振替口座
GMOあおぞらネット銀行 普通預金(決済用)
楽天銀行 —(取扱なし)
住信SBIネット銀行 —(取扱なし)
ソニー銀行 —(取扱なし)
イオン銀行(個人向け) —(法人・個人事業主のみ)


ネット銀行に1,000万円超を預けている場合、決済用預金への切り替えという選択肢がそもそも存在しないということですね。楽天銀行・住信SBIネット銀行・ソニー銀行・オリックス銀行は決済用預金を取り扱っていないため、ペイオフ対策をしたい場合はメガバンクや地方銀行の口座を利用するか、複数の金融機関に分散させる方法を検討する必要があります。


なお、当座預金も決済用預金の一種ですが、個人で開設できるケースはほとんどありません。当座預金は手形・小切手による決済を前提とした口座であり、個人のペイオフ対策には「無利息型普通預金」の利用が現実的です。


三井住友銀行「決済用普通預金口座」公式ページ(個人・法人の申込方法と機能詳細)


総合口座の定期預金は全額保護の対象外:見落とされやすい落とし穴

「普通預金を決済用預金に切り替えたから大丈夫」と思っていても、見落としがちなポイントがあります。それが、総合口座に紐づいている定期預金の扱いです。


総合口座とは、普通預金と定期預金を1冊の通帳にまとめて管理できる口座形態のことです。多くの銀行では、普通預金部分だけを決済用預金(無利息型)に切り替えることができますが、同じ総合口座内の定期預金部分は決済用預金にはなりません。


つまり全額保護されるのは、切り替えた普通預金部分だけです。定期預金は「一般預金等」として扱われ、他の利息付き預金と合算して元本1,000万円までの定額保護になります。


例えば、総合口座の普通預金部分を無利息型に切り替えて2,000万円預けていたとしても、同じ口座の定期預金が1,200万円あれば、その定期預金については1,000万円しか保護されません。残り200万円は保護対象外となり、銀行が破綻した場合に一部が戻らない可能性があります。これは痛いですね。


西日本シティ銀行や山梨中央銀行など多くの銀行が、商品説明の中で「総合口座の定期預金は全額保護の対象外」と明記しています。普通預金だけを切り替えて「万全の保護ができた」と早合点するのは避けましょう。


定期預金もあわせて保護したい場合の対応は以下の通りです。


  • 🏦 定期預金を別の金融機関に移す(1金融機関1,000万円の上限を分散させる)
  • 📋 定期預金の残高を各金融機関で1,000万円以下に収める
  • 🔍 その金融機関が「定期預金の決済用預金への切り替え」を提供していないか確認する(一部の金融機関が別段預金として対応している場合あり)


定期預金の分散管理という手間はかかりますが、1,000万円超の定期預金を1行にまとめたままにしておくリスクと比較すれば、検討する価値は十分あります。


西日本シティ銀行「決済用普通預金」(総合口座の定期預金は全額保護対象外と明記)


決済用預金を個人・法人が活用するメリット・デメリットの比較と現実的な判断基準

決済用預金は「全額保護」という強力なメリットを持つ一方で、利息がゼロという明確なデメリットがあります。どのような人・法人に向いているのかを整理して考えてみましょう。


メリット①:1,000万円を超えた金額でも全額保護される


普通預金に1億円を預けていても、利息付きのままでは破綻時に元本1,000万円超の部分は保護されません。決済用預金なら、同じ1億円でも全額が保護されます。事業の決済資金や、まとまった売上代金が口座にある法人にとって、実務上のリスクヘッジとして有効です。


メリット②:口座番号が変わらず利便性が維持される


切り替えても口座番号は同じです。既存の振込先や口座振替の設定を変える必要がないため、手間なく移行できます。これは使えそうです。


デメリット①:利息がゼロ


金額や期間にかかわらず、利息は一切つきません。2026年現在、大手銀行の普通預金金利は年0.1%前後まで上昇してきているため、以前よりも「無利息」のデメリットが目立つ状況になっています。1,000万円を1年間預けた場合、年0.1%なら約1万円(税引き前)の利息が得られますが、決済用預金に切り替えるとこれがゼロになります。


デメリット②:一部銀行では元に戻せない


GMOあおぞらネット銀行のように、切り替えを「一度限り」としている銀行があります。将来的に金利が大幅に上昇したとき、有利息の普通預金に戻せない可能性があります。


現実的な判断基準として、以下の目安が参考になります。


  • 💰 1金融機関への預金が1,000万円を大きく超える場合→ 決済用預金への切り替えを積極的に検討する価値があります。
  • 🏢 法人で運転資金・決済資金が口座に集中している場合→ 当座預金か決済用普通預金の利用が有効なリスク管理になります。
  • 📊 1,000万円以下しか預けていない場合→ 通常の普通預金で十分です。利息を受け取れる有利息の口座を維持する方が合理的です。
  • 🌐 楽天銀行・住信SBIネット銀行をメインで使っている場合→ 決済用預金は提供されていないため、1,000万円を超えないよう管理するか、別の金融機関に分散するしかありません。


金融庁も「預金が1,000万円以上になる場合には、決済用預金の活用または複数の金融機関への分散を検討することが望ましい」と情報提供しています。ペイオフ対策は「大企業だけの話」ではなく、個人でも1,000万円超の資金を1行に集中させているケースでは、実際のリスク管理として意味を持ちます。


金融庁「アクセスFSA 第26号」(決済用預金の3要件を金融庁が詳細解説)