

「離職率が高くても、助成金は受け取れます。」
人材確保等支援助成金は、厚生労働省が2018年4月から運用を開始した助成金制度で、魅力ある職場づくりを通じて人材の確保・定着を図る事業主を幅広く支援するものです。介護業界は、2025年時点で人材需要が約253万人に対し供給が215.2万人と、約40万人近い人材ギャップが生じている深刻な業種です。この助成金は、そうした介護現場の慢性的な人手不足に対応するため、雇用環境の整備に本気で取り組む介護事業主の後押しをしています。
令和7年(2025年)4月1日より、一時停止されていた「雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」の整備計画受付が再開されました。これは介護事業所にとって大きなチャンスです。
以前は「介護・保育労働者雇用管理制度助成コース」や「介護福祉機器助成コース」など、介護専用のコースが存在していました。しかし現在はこれらが統廃合・廃止されており、現行で活用できる主なコースは「雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」です。過去の情報のまま申請しようとすると制度が違う、という落とし穴があるので注意が必要です。
令和7年度時点での人材確保等支援助成金の全体構成は以下の7コースとなっています。
| コース名 | 主な対象 | 最大助成額 |
|---|---|---|
| 雇用管理制度・雇用環境整備助成コース | 全業種(介護含む) | 287.5万円 |
| 中小企業団体助成コース | 事業協同組合等 | 1,000万円 |
| 建設キャリアアップシステム等活用促進コース | 建設業 | — |
| 若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野) | 建設業 | — |
| 作業員宿舎等設置助成コース(建設分野) | 建設業 | — |
| 外国人労働者就労環境整備助成コース | 外国人雇用事業主 | 72万円 |
| テレワークコース | 中小企業事業主 | 30万円 |
介護事業所が直接活用できるメインコースは「雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」です。つまり全体の制度を正しく把握することが第一歩となります。
参考リンク(厚生労働省:人材確保等支援助成金の全コース案内・令和7年度版):
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07843.html
雇用管理制度・雇用環境整備助成コースで助成対象となる取り組みは、大きく「A:雇用管理制度の導入」と「B:業務負担軽減機器等の導入」の2種類に分かれます。これは介護事業所にとってどちらも現実的に活用しやすい内容です。
A:雇用管理制度(5種類)の助成額
| 制度の種類 | 通常助成額 | 賃金要件達成時 | 上限額(通常) |
|---|---|---|---|
| ①賃金規定制度(中小企業のみ) | 40万円 | 50万円 | 80万円 |
| ②諸手当等制度 | 40万円 | 50万円 | 80万円 |
| ③人事評価制度 | 40万円 | 50万円 | 80万円 |
| ④職場活性化制度 | 20万円 | 25万円 | 80万円 |
| ⑤健康づくり制度 | 20万円 | 25万円 | 80万円 |
賃金要件とは、制度導入と併せて対象労働者(雇用保険被保険者)の毎月決まって支払われる賃金を5%以上引き上げることです。この要件を達成すると、各助成額が割増になります。
B:業務負担軽減機器等の導入の助成額
機器・設備等の対象経費の1/2(賃金要件達成時は62.5/100)が助成され、上限は150万円(賃金要件達成時は187.5万円)です。介護事業所で対象となりうる機器の例としては、車いす昇降リフト・介護ソフト・電子記録システムなどが挙げられます。
これら複数の制度や機器をまとめて導入した場合の上限額は、A・Bを合算して雇用管理制度で最大100万円(賃金要件達成時は125万円)、業務負担軽減機器等で最大187.5万円となっています。実際にある介護施設では、電子記録システムの導入と評価制度の改定をセットで行い、離職率を18%から8%に改善して助成金を満額受給したという事例もあります。これは使えそうです。
なお「賃金規定制度」は中小企業事業主のみが対象です。中小企業以外の法人格の介護事業所は対象外になるため、この点だけは注意が必要です。
参考リンク(雇用管理制度・雇用環境整備助成コースの詳細:厚生労働省):
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000199292_00005.html
助成金を受給するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。まず確認すべき大前提として、雇用保険の適用事業所であることが求められます。雇用保険に加入していない事業所は申請自体ができません。
主な受給要件
- 🏢 雇用保険の適用事業の事業主であること
- 📋 「雇用管理制度等整備計画」を提出し、認定を受けること
- 👥 認定日から計画期間末日まで、同一の労働者を最低1名継続して雇用していること
- ✅ 導入した制度・機器を対象労働者の1/2以上に実施・利用していること
- 📊 離職率の低下目標を達成すること
- 👤 「雇用管理責任者」を選任・周知していること
中でも最重要なのが「離職率の低下目標の達成」です。雇用保険一般被保険者が9人以下の小規模事業所は現状維持(増加しないこと)が条件で、10人以上の場合は計画時の離職率から1ポイント以上低下させることが求められます。
離職率は次の計算式で算出します。
離職率(%)= 所定の期間内の離職者数 ÷ 所定の期間の初日における雇用保険一般被保険者数 × 100
「評価時離職率算定期間」は、雇用管理制度等整備計画の末日の翌日から12ヶ月経過する日までの期間です。たとえば被保険者が15人の事業所で計画時の離職率が10.0%だった場合、評価時の離職率を9.0%以下にする必要があります。なお、評価時離職率が30%を超えると、目標値を下回っていても受給できません。これが条件です。
また、計画開始日の6ヶ月前から申請日までの間に、雇用保険被保険者を事業主都合で解雇等していないことも求められます。解雇が1件でもあると受給要件を外れる場合があるため、雇用管理の状況を事前に整理しておく必要があります。
参考リンク(MSC社会保険労務士法人による令和7年度コース解説):
https://msc-sr.or.jp/advisor/employment-management-subsidy-2025/
申請は決して難しくありません。ただし、手順を間違えると「受け取れない」という結末になります。制度や機器を先に導入してしまうと、計画書の認定が先という要件を満たせず不支給になるのが最も多い失敗パターンです。順番が命です。
申請の5ステップ
申請書類の中でも「賃金台帳」「出勤簿」「労働条件通知書」の3点は対象期間全てのものを揃えることが必須とされており、添付書類の漏れによる差し戻しが最も多いミスとして報告されています。書類の整備を日頃から習慣化しておくことが重要です。
なお、厚生労働省の助成金申請の代行は社会保険労務士の独占業務に当たります。申請手続きに不安を感じる場合は、介護専門の社労士に計画段階から相談するのが確実です。
この助成金を活用しようとする介護事業主が気づかずに踏んでしまう落とし穴がいくつかあります。知っておくだけで大きな損失を防げます。
落とし穴① パートタイマーも離職率の計算対象に含まれる
離職率の計算には「雇用保険一般被保険者」全員が含まれます。正社員だけでなく、週20時間以上勤務のパートやアルバイトも含まれるため、短時間労働者が多い介護現場では思った以上に離職率が高く計算されるケースがあります。「正社員だけで考えていた」という思い込みに注意が必要です。
落とし穴② 中古機器は業務負担軽減機器等の助成対象外
業務負担軽減機器等の助成を受けるには、新品の機器・設備を購入することが条件となっています。コスト削減のつもりで中古の介護ソフトや機器を購入しても、助成の対象外となります。また1件あたりの導入費用が10万円未満のものも対象外です。購入計画の段階でこの要件を確認するのが基本です。
落とし穴③ 「離職率が高いから申請できない」は誤解
多くの介護事業主が「うちは離職率が高いから無理だろう」と申請を諦めています。しかし、この助成金の条件は「現状の離職率が低いこと」ではなく「計画前より低下させること」です。離職率が20%台の事業所でも、一定の目標値(例:10人以上なら1ポイント以上の低下)を達成すれば受給できます。むしろ高い離職率からの改善幅が大きいほど達成しやすい側面もあります。
落とし穴④ 令和6年度まで受付停止だったことを知らない事業主が多い
実は令和6年度(2024年度)は「雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」の整備計画の新規受付が一時停止されていました。令和7年4月1日から受付が再開された制度です。「以前申請しようとしたができなかった」という介護事業所はぜひ令和7年度の再開タイミングを見逃さないようにしましょう。
独自の活用戦略:介護ソフト導入と評価制度の「2本柱」作戦
業務負担軽減機器等(介護ソフト・電子記録システムなど)の導入と、人事評価制度の整備を同時に計画するのが、費用対効果として最も高い活用パターンです。ある介護施設の事例では、電子記録システムの導入で1日あたりの記録業務を50%削減し、評価制度の改定で職員の定着意欲を高めた結果、離職率を前年比で大幅に改善して満額受給に成功しました。
介護ソフトの導入費用が仮に300万円だとすると、助成率1/2で最大150万円(賃金要件達成なら187.5万円)の助成を受けられる計算になります。これだけでも投資回収の大きな後押しになります。ただし、空調機などの不快感軽減を目的とした設備や一般乗用車などは対象外です。業務の直接的な負担軽減に関係するかどうかを判断基準にしてください。
助成金を申請する前に離職率の現状数値を算出しておくことも大切です。計画書提出時に「計画時離職率」を正確に記載する必要があり、この数字が後の評価基準になります。計画時の数字が高めに算出されれば、それだけ目標達成のハードルが下がる側面もあります。
参考リンク(補助金ポータル:雇用管理制度・雇用環境整備助成コース最新解説):
https://hojyokin-portal.jp/columns/jinzaikakuho_koyokanri
人材確保等支援助成金だけが介護業界の人材定着を支援する制度ではありません。組み合わせて活用することで、トータルの支援効果を高めることが可能です。
外国人労働者就労環境整備助成コース(同じ制度の別コース)
外国人介護職員を雇用している、または今後受け入れを検討している介護事業所は、「外国人労働者就労環境整備助成コース」も同時に視野に入れましょう。就業規則等の多言語化や苦情・相談体制の整備などの就労環境整備措置を導入し、外国人労働者の離職率が10%以下となった場合に、支給対象経費の1/2(上限57万円)、生産性要件達成時は2/3(上限72万円)の助成が受けられます。現在、介護業界での外国人採用は急拡大しており、特定技能・EPA・技能実習など複数の在留資格での受け入れが進んでいます。
介護人材確保・職場環境改善等事業(自治体補助金)
厚生労働省の助成金とは別に、都道府県が実施する「介護人材確保・職場環境改善等事業補助金」もあります。処遇改善加算(Ⅰ〜Ⅳ)を取得し職場環境改善に取り組む事業所に対し、常勤介護職員1人あたり5万4,000円相当の一時金が支給される制度です(2024年度補正予算)。申請期限は自治体によって異なるため、都道府県の窓口に早めに確認することを勧めます。
人事評価改善等助成コース(廃止コースの後継的役割)
以前は人材確保等支援助成金の中に「人事評価改善等助成コース」が独立したコースとして存在し、80万円の助成金が受けられていました。現在はこれが雇用管理制度・雇用環境整備助成コースの「人事評価制度」として統合されています。個別コースとして申請するのではなく、複数の制度を同時に整備して上限額まで活用する戦略が現実的です。
制度の選択と組み合わせを最適化するには、助成金専門の社会保険労務士に相談するのが近道です。社労士は助成金申請の法的な代行が認められている唯一の専門家であり、計画段階からの伴走支援を受けることで不支給リスクを大幅に下げることができます。申請に向けての最初の行動としては、まず自事業所の現在の離職率と被保険者数を確認することから始めると整理しやすいでしょう。
参考リンク(ekaigo転職:介護福祉業界向け人材確保等支援助成金コース解説):
https://www.ekaigotenshoku.com/ekaigowith/2022/03/22/jinzaikakuhoshienjoseikin/