事業承継相続の基本知識
事業承継相続の重要ポイント
📊
基本的な違い
事業承継は経営権・資産・知的資産の3要素、相続は財産の移転
💰
税制メリット
事業承継税制で相続税・贈与税が最大100%猶予・免除
⚖️
議決権対策
株式分散による経営権喪失リスクと事前の遺言対策
事業承継と相続の本質的な違いと対象範囲
事業承継と相続は混同されがちですが、その対象と目的には明確な違いがあります。
相続の対象となる財産:
- 動産(現預金、有価証券、自動車、家財など)
- 不動産(宅地、農地、建物、店舗など)
- 負債(借入金、未払金など)
- 未払税金等(所得税、住民税、固定資産税など)
- 未払費用(光熱費、電話代、医療費など)
事業承継の対象となる要素:
- 経営権(経営者が所有する自社株式)
- 事業資産(不動産、設備、運転資金、負債を含む)
- 知的資産(経営者の人脈、信用、経営理念、ノウハウ)
事業承継は単なる財産の移転ではなく、会社の継続的な経営を可能にする包括的な承継であることが重要なポイントです。
中小企業オーナーの多くが驚くのが、自社株式の評価額の高さです。300万円程度だと思っていた株式が、実際には3~4億円の価値を持つケースも珍しくありません。この認識の甘さが、後々の相続税負担につながる重大な問題となります。
事業承継相続の成功事例と失敗事例から学ぶ教訓
実際の事例から、事業承継相続の成功と失敗の分岐点を見てみましょう。
🔥 成功事例1:早期後継者育成による親族外承継
地方製造業のA社では、創業オーナーに子供がいなかったため、従業員の中から後継者候補を選定。5年間の歳月をかけて後継者教育を実施しました。
- 経営ノウハウの伝授
- 従業員との関係性構築
- 取引先との信頼関係づくり
時間をかけた関係構築により、従業員や取引先の理解を得てスムーズな事業承継を実現しています。
💡 成功事例2:事業承継税制の活用による親族内承継
金属製品製造業C社では、社長の体調悪化をきっかけに娘の夫への承継を決定。わずか1年で新社長が就任しましたが、事前に事業承継税制を申請・承認していたため、先代が急逝した際も相続税の全額猶予を受けることができました。
⚠️ 失敗事例:親族間トラブルによる廃業
D社では長男を後継者に選定したものの、先代の急逝により十分な準備ができないまま相続が発生。
失敗の要因:
- 遺産分割協議の難航(長女・次男の反発)
- 小規模宅地等の特例が適用できず
- 多額の相続税の発生
- 長男のうつ病発症
- 最終的な廃業
この事例では、事前の遺言書作成と家族間の合意形成が不十分だったことが致命的でした。
事業承継税制の仕組みと2027年までの特例メリット
事業承継税制は、後継者の税負担を大幅に軽減する強力な制度です。
📅 適用期間と手続き:
- 適用期間:2018年1月1日~2027年12月31日(10年間限定)
- 特例承継計画:2024年3月31日まで(※すでに締切済み)
- 実際の承継:2027年12月31日まで
💰 税制メリットの仕組み:
- 納税猶予段階
- 先代経営者の死亡により後継者が自社株式を相続
- 特例事業承継税制適用で相続税が納税猶予される
- 完全免除段階
- 後継者の死亡時に猶予税額が全額免除
- 次世代への特例適用贈与時も免除対象
⚠️ 納税が必要となるケース:
- 株式の売却(M&A)を行った場合
- 事業を廃業した場合(ただし、業績悪化による売却では一部免除あり)
事業実態要件での注意点:
資産管理会社と判定されると制度利用不可ですが、従業員5人以上などの事業実態があれば利用可能です。従業員数の計算では、後継者とその同居親族は除外されるため注意が必要です。
事業承継相続における議決権問題と経営権確保対策
株主の死亡時に発生する議決権問題は、会社経営に深刻な影響を与える可能性があります。
🚨 議決権問題の実例:
設定例:
- 会社オーナー(父):株式120株保有
- 相続人:母(配偶者)、長男(後継者)、次男
- 法定相続分:母1/2、長男1/4、次男1/4
危険なシナリオ:
相続手続きが完了せず株主総会を迎えた場合、株式は相続人の準共有となります。準共有者間の多数決で権利行使者を決定するため。
- 母が次男を支持した場合:母1/2 + 次男1/4 = 3/4 > 長男1/4
- 次男が全120株の議決権を行使
- 長男(後継者)の解任リスクが発生
🛡️ 対策方法:
- 遺言書の事前作成
- 後継者への株式相続を明記
- 家族間トラブルの予防
- 会社経営への影響を最小化
- 議決権確保の株式保有比率
- 全株式の取得:経営者の意志=株主の意志
- 2/3以上の取得:重要事項の単独決定が可能
- 過半数の確保:最低限の経営権維持
- 家族信託の活用
- 現経営者が財産管理を後継者に委託
- 議決権行使も後継者が担当
- 相続発生前からの円滑な経営権移転
事業承継相続計画の立案手順と見落としがちな落とし穴
効果的な事業承継相続計画を立てるには、段階的なアプローチが重要です。
📋 計画立案の5ステップ:
Step1:現状分析
- 自社株式の正確な評価
- 相続税額の試算
- 後継者候補の洗い出し
- 家族・従業員の意向確認
Step2:承継方法の選択
- 親族内承継:子・孫・配偶者への承継
- 親族外承継:従業員・第三者への承継
- M&A:会社売却による承継
Step3:税務対策の検討
- 事業承継税制の適用可否
- 生前贈与の活用
- 遺言書の作成
Step4:後継者育成
- 経営ノウハウの伝授
- 人脈・取引先との関係構築
- 実務経験の積み重ね
Step5:実行とフォロー
⚠️ 見落としがちな落とし穴:
- 株式評価の甘い見積もり
- 家族間のコミュニケーション不足
- 事業承継税制の要件変更
- 後継者の突然の辞退・病気
🔍 専門家との連携の重要性:
事業承継相続は、税務・法務・経営の複合的な知識が必要です。以下の専門家との早期連携が成功の鍵となります。
- 税理士:税務申告・事業承継税制申請
- 弁護士:遺言書作成・法的トラブル対応
- 公認会計士:株式評価・財務分析
- 中小企業診断士:経営戦略・後継者育成
事業承継相続は「時間」が最も重要な要素です。早期の準備開始により、選択肢が増え、税務メリットも最大化できます。現在の状況を正確に把握し、専門家と連携した計画的な取り組みを始めることが、会社と家族の未来を守る第一歩となるでしょう。