
逸失利益とは、本来得られるべきであったにもかかわらず、債務不履行や不法行為が生じたことによって得られなくなった利益を指します。「得べかりし利益」とも呼ばれ、交通事故や債務問題において重要な損害賠償項目となります。
逸失利益は、交通事故による後遺障害や死亡事故の場合に特に重要となります。事故がなければ将来得られたであろう収入を補償するもので、賠償項目の中でも最も高額になることが多い損害項目です。
債務整理を検討している方にとっても、逸失利益の知識は重要です。債務問題を抱える原因として交通事故やケガによる収入減少があることも少なくありません。このような場合、適切な逸失利益の請求ができれば、債務問題の解決に大きく寄与する可能性があります。
逸失利益は、法律的には「本来得られるべきであったにもかかわらず、債務不履行や不法行為によって得られなくなった利益」と定義されています。民法上の損害賠償の一種として認められており、不法行為(交通事故など)や債務不履行によって生じた損害を填補するものです。
逸失利益の法的根拠は民法709条(不法行為の一般規定)や民法416条(債務不履行による損害賠償)に基づいています。これらの規定により、加害者は被害者が本来得られたはずの利益についても賠償する義務を負うことになります。
裁判例においても、逸失利益は「事故と相当因果関係のある将来の収入減少」として広く認められています。ただし、その算定方法や範囲については個別の事案によって判断が異なることもあります。
逸失利益には「後遺障害逸失利益」と「死亡逸失利益」の2種類があり、それぞれ計算方法や考え方が異なります。
【後遺障害逸失利益】
事故によって後遺障害が残り、労働能力が低下したことによる将来の収入減少分を補償するものです。計算式は以下の通りです。
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
後遺障害逸失利益は、被害者本人が請求することができます。後遺障害等級に応じた労働能力喪失率が適用され、症状固定日から67歳(一般的な就労可能年齢の上限)までの期間が考慮されます。
【死亡逸失利益】
被害者が死亡した場合に、生存していれば得られたであろう将来の収入を補償するものです。計算式は以下の通りです。
基礎収入 ×(1 – 生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
死亡逸失利益の特徴は、被害者が自分自身のために使うはずだった生活費分を控除する点です。生活費控除率は、被害者の家族構成によって異なり、一般的に単身者で50%、配偶者がいる場合は40%、配偶者と子どもがいる場合は30%程度とされています。
死亡逸失利益は、被害者の相続人が請求することになります。
債務整理を検討している方にとって、逸失利益の問題は非常に重要です。交通事故などで後遺障害を負い、労働能力が低下すると収入が減少し、既存の債務の返済が困難になることがあります。
このような場合、適切な逸失利益の請求ができれば、債務問題の解決に役立つ可能性があります。例えば、逸失利益として受け取った賠償金を債務の返済に充てることで、債務整理の必要性が低くなることもあります。
また、債務整理の手続きにおいて、交通事故による後遺障害が債務を返済できなくなった「やむを得ない事情」として考慮されることもあります。特に自己破産の場合、このような事情があると免責が認められやすくなる傾向があります。
逸失利益の請求と債務整理を同時に検討する場合は、両方に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。債務整理の方法(任意整理、個人再生、自己破産など)によって、逸失利益として受け取った賠償金の取扱いが異なる場合があるためです。
逸失利益の算定は複雑ですが、基本的な計算式を理解しておくことで、おおよその金額を把握することができます。
【後遺障害逸失利益の計算例】
例えば、年収500万円の40歳の方が交通事故で後遺障害等級12級(労働能力喪失率14%)の認定を受けた場合。
基礎収入500万円 × 労働能力喪失率14% × 労働能力喪失期間(40歳から67歳までの27年間)のライプニッツ係数13.9954 = 約980万円
【死亡逸失利益の計算例】
例えば、年収500万円の40歳の方(配偶者と子ども1人あり)が交通事故で亡くなった場合。
基礎収入500万円 ×(1 – 生活費控除率30%)× 就労可能年数(40歳から67歳までの27年間)のライプニッツ係数13.9954 = 約4,900万円
実際の算定では、基礎収入の認定(直近の収入だけでなく、将来の昇給可能性なども考慮)や、ライプニッツ係数の適用方法など、細かな点で争いになることが多いです。
また、後遺障害の場合、痛みなどを理由とする後遺障害では、将来的に症状が改善する可能性を考慮して、労働能力喪失期間を5年程度に限定されることもあります。
「無職だから逸失利益は請求できない」と思われがちですが、実は無職の方でも逸失利益を請求できるケースがあります。これは債務問題を抱える方にとって特に重要な知識です。
【無職でも逸失利益が認められるケース】
将来、労働に従事する可能性があることから、逸失利益の賠償が認められます。この場合、同年代・同学歴の平均賃金などを基礎収入として算定されることが多いです。
転職活動中や就職内定後など、事故がなければ就労することが予定されていた場合は、逸失利益の請求が可能です。
家事労働も労働として評価され、逸失利益の対象となります。一般的には、女性または男性の平均賃金の一定割合(通常は全国平均賃金の約50%)が基礎収入として認められます。
病気療養や育児休業中など、一時的に休職していた場合でも、復職予定があれば逸失利益を請求できます。
実際の事例として、停車中に追突され頚椎捻挫と腰椎捻挫の傷害を負った転職活動中の無職の方が、弁護士の交渉により、同年代・同学歴の平均賃金を基に逸失利益を算定され、約290万円の賠償金を獲得したケースがあります。
無職の方が逸失利益を請求する際は、就労の意思や能力があったことを示す証拠(転職活動の記録、職歴、資格など)を集めておくことが重要です。また、弁護士に依頼することで、適切な基礎収入の認定や交渉が可能になります。
交通事故などで後遺障害を負い、収入が減少して債務問題を抱えるケースは少なくありません。このような状況では、逸失利益の請求と債務整理を適切に組み合わせることが重要です。
【逸失利益と債務整理の両立戦略】
逸失利益の賠償金を受け取ってから債務整理を行うか、債務整理を先に行うかは、状況によって判断が必要です。自己破産の場合、賠償金が財産として計上される可能性があるため、弁護士と相談して最適なタイミングを決めましょう。
逸失利益として受け取った賠償金は、将来の収入減少を補填するためのものです。債務の返済に充てる場合も、生活の維持に必要な分は確保することが重要です。
逸失利益の請求と債務整理は、それぞれ専門知識が必要な分野です。両方に詳しい弁護士に相談することで、最適な解決策を見つけることができます。
実際のケースでは、交通事故で後遺障害を負い、収入が減少して債務の返済が困難になった方が、まず逸失利益を含む適切な賠償金を受け取り、その後、残りの債務について個人再生手続きを行うことで、生活の立て直しに成功した例があります。
逸失利益の請求と債務整理は、どちらも法的な専門知識が必要な手続きです。一方だけを考えるのではなく、総合的な生活再建の視点から最適な方法を検討することが大切です。
逸失利益は常に認められるわけではありません。認められないケースとその対処法を知っておくことで、適切な対応が可能になります。
【逸失利益が認められにくいケース】
無職の高齢者など、事故前から労働による収入を得ておらず、将来も稼働予定がなかった場合は、逸失利益が認められにくいことがあります。
後遺障害と収入減少の因果関係が明確でない場合、逸失利益の請求が認められないことがあります。例えば、事故とは無関係の理由で退職した場合などです。
後遺障害が認められなければ、労働能力の喪失も認められず、逸失利益の請求は困難になります。
基礎収入を証明する資料(源泉徴収票、確定申告書など)が不十分だと、適切な逸失利益の算定が難しくなります。
【対処法】
後遺障害と労働能力の関係を証明するため、医師の診断書や意見書を取得しましょう。特に、具体的にどのような作業が制限されるかを明記してもらうことが重要です。
事故前の収入や就労状況を証明する資料(給与明細、源泉徴収票、確定申告書など)を保管しておきましょう。無職の場合でも、就労の意思や能力を示す資料(職歴、資格証明書、転職活動の記録など)が役立ちます。
逸失利益の請求が難しいケースでは、交通事故に詳しい弁護士に相談することが特に重要です。弁護士は、個別の状況に応じた証拠収集や交渉戦略を提案してくれます。
後遺障害等級に不服がある場合は、異議申立てを行うことも検討しましょう。上位等級が認められれば、逸失利益も増額される可能性があります。
実際の事例として、自転車乗車中に車に衝突された70代の専業主婦が、後遺障害の異議申立てを行い上位等級を獲得した結果、当初の260万円から692万円へと賠償金が大幅に増額したケースがあります。
逸失利益の請求は複雑で専門的な知識が必要なため、弁護士に依頼することで大きなメリットがあります。特に債務問題も抱えている場合は、適切な弁護士選びが重要です。
【弁護士に依頼するメリット】
弁護士は医学的知識も活用して、適切な後遺障害等級の認定を受けるためのサポートを行います。等級が上がれば逸失利益も増額します。
無職や収入が不安定な場合でも、弁護士は適切な基礎収入を主張し、交渉