

経理の実務でまず整理したいのは、「発注」と「注文」は日常語としては似ていても、社内統制や証憑設計の文脈では“どの立場が、どの段階で、何を確定させたか”を示すラベルとして扱われる点です。発注書・注文書はいずれも「商品やサービスの購入・依頼を正式に申し込むための書類」で、法的な意味合いとしては契約の「申込み」を示すものとして整理されます(呼称の違いで効力が変わるわけではない、という理解が実務的です)。
一方で、現場では「発注=法人取引っぽい」「注文=物品購入っぽい」など慣習的な使い分けが残っていることがあり、部署間や取引先で言葉の指す範囲がズレます。例えば「発注はサービス、注文は物品」などの運用をしている企業もありますが、これは法律で決まっているというより、あくまで業界・社内ルールの差です。
したがって経理は、“単語の正解”よりも「発注者(買い手)が申込みを出し、受注者(売り手)が承諾した証跡が残るか」を優先して定義すると事故が減ります。特に月末の計上・未払計上・仕入計上の整合性は、言葉ではなく証憑チェーンの強さで決まります。
発注書と注文書は、呼び名が異なるだけで、役割や法的な位置づけに大きな違いはない、という整理が多くの実務解説で示されています。どちらも「購入の意思を示す(申込み)」の書類で、書式が法律で定められているわけではありません。
ただし、経理目線で差が出るのは「社内の管理単位」です。たとえば購買部が“発注書”で統一して発行し、営業部は対外的に“注文書”と言っていると、同じ書類が二つ存在するように見えて監査・税務調査時の説明が難しくなります。名称の統一が難しい場合でも、「発注番号」「取引日」「取引先」「明細」「税区分」を揃えて、同一取引だと誰でも追跡できるようにしておくのが現実的な落としどころです。
また、口頭・メールだけの“注文”が現場で発生する場合は、少なくとも後追いで発注書(注文書)に転記して証憑化する運用を設けると、聞き間違い・数量違い・単価違いが会計トラブルに直結するリスクを下げられます(内容の明確化・認識相違の防止という目的がある、と整理されています)。
「発注書(注文書)を出した=契約が成立した」と思い込むのが、経理・総務で起きやすい誤解です。発注書(注文書)は申込みであり、受注者の承諾(口頭でも成立し得ますが、証拠としては請書などが重要)があって契約が成立する、という整理が基本になります。
ここで重要なのが、契約書との“証明力の差”です。発注書は発注者側の一方的な意思表示で、双方合意の証明としては弱くなり得ますが、契約書は双方の署名・押印などにより合意内容を強力に証明できます。
実務では「発注書+請書」で契約の合意を固める運用がよく用いられます。見積書→発注書(注文書)→請書→納品書→検収書→請求書→領収書、という流れで書類がつながっていれば、経理処理・支払・監査対応の説明が一気に楽になります。
参考(注文書と注文請負書/請書の違い、書類の流れの根拠)
https://biz.moneyforward.com/invoice/basic/62194/
経理が「発注/注文」の言葉の違い以上に気を付けたいのは、取引類型によって“書面交付”や“保存”の重要度が跳ね上がる点です。下請法が適用される取引では、発注書の交付が義務付けられる(親事業者側に書面交付義務などがある)という整理があり、口頭発注のまま走らせるのは危険です。
保存についても、発注書は税務上の帳票として一定期間の保存が前提になります。実務解説では「法人は7年、個人は5年」という目安が示され、欠損金の扱い等で長期保存が必要になるケースにも触れられています。
さらに、電子で受け渡しした発注書(注文書)は、電子帳簿保存法上の電子取引として“電子のまま保存”が必要になる点も、紙文化の会社ほど落とし穴になります(PDFで送ったのに紙でしか残っていない、など)。
参考(下請法が適用される場合の発注書交付、保存期間の目安)
https://www.onamae.com/business/article/35294/
検索上位の記事は「意味の違い」や「書類の流れ」までは丁寧でも、経理が本当に困る“事故パターン”の話は薄くなりがちです。そこで独自視点として、発注と注文を「内部統制のトリガー」として再定義すると、運用が安定します。具体的には、発注(注文)が発生した瞬間に、会計ではなく統制上のイベントとして以下を必ず発火させます。
✅ 内部統制として最低限やりたいこと(入れ子にしない)
- 🧑💼 承認:金額・取引先・勘定科目ごとに承認者を固定し、例外は必ず理由を残す。
- 🔢 採番:発注番号を一意にし、見積書・請書・納品書・請求書に同じ番号を載せる(載せられない取引は“例外管理台帳”に寄せる)。
- 🧾 明細粒度:一式計上を避け、数量・単価・税区分(課税/不課税等)を突合できる粒度にする。
- 🧑🤝🧑 職務分掌:発注(依頼)・検収(確認)・支払(実行)を同一人物に寄せない。
この設計にすると、「発注」と「注文」の呼び方が部署ごとに揺れても、経理が見るべきものは“番号で連結された証憑チェーン”になり、月次の突合作業が属人化しにくくなります。さらに、不正発注(私的購入、架空発注)を早期に検知しやすくなる、という実務的なメリットも指摘されています(発注プロセスの確立が不正リスクを下げるという趣旨)。
最後に、現場の会話で混乱しやすい言い回しを、社内向けに短文化しておくと効果的です。例えば「注文=申込み(発注書/注文書)」「受注=承諾(請書)」「検収=OKの証跡(検収書)」のように、単語を“書類の役割”に紐づけて説明すると、新人・兼務者でも運用が崩れにくくなります。