
銀行預金の相続手続きには、相続放棄や相続税申告のような法的な期限が設定されていません。これは、預金の相続が債権者と債務者の間の民事的な関係に基づくものであり、国が強制的に期限を設けるべき性質のものではないからです。
実際に、口座名義人が亡くなってから何年経過した後でも、相続手続きを行うことは可能です。銀行側も、適切な書類が揃えば相続手続きに応じてくれるのが一般的です。
ただし、預金債権の消滅時効は民法上5年と定められています。しかし、現実的には金融機関が時効を援用(時効を主張)することはほとんどなく、休眠口座にならない限り払戻しに応じてくれるケースが大半です。
「相続手続きをしないまま預金を放置すると、時効によって国のものになってしまう」という都市伝説のような話がありますが、一定期間の経過で自動的に国のものになることはありません。
銀行預金の相続手続き自体に期限はありませんが、相続に関連する他の手続きには厳格な期限が設定されています。
相続税関連の期限
その他の重要な期限
これらの期限を過ぎると、延滞税が課されたり、税金の軽減制度が利用できないなどのデメリットが生じます。
特に相続税の申告期限である10ヶ月以内は重要です。相続税の納付に必要な資金を確保するため、この期限までに預金の相続手続きを完了させることが望ましいとされています。
相続税申告が必要な場合の基準額は、基礎控除額3,000万円+600万円×法定相続人数です。この金額を超える遺産がある場合は、銀行預金の相続手続きを優先的に進める必要があります。
銀行預金の相続手続きは、以下の4つのステップで進行します。
手続きの基本的な流れ
合計で最低でも3週間〜1ヶ月程度の期間が必要です。書類に不備があるとさらに時間がかかる場合があります。
必要書類は相続の状況によって異なります
遺言書がある場合
遺言書がなく、遺産分割協議書がある場合
家庭裁判所による調停調書・審判書がある場合
上記の書類がない場合
銀行によって細かな要件が異なる場合があるため、事前に各金融機関に確認することが重要です。
銀行預金の相続手続きを放置することには、以下のようなリスクがあります。
主要なリスク
口座が凍結されていない場合、他の相続人が無断で預金を引き出すリスクがあります。
時間が経過すると、相続人が亡くなって数次相続が発生し、手続きが複雑になる可能性があります。
古い戸籍謄本などの書類が取得困難になる場合があります。
長期間取引がない口座は休眠口座となり、最終的に預金保険機構に移管される可能性があります。
対策方法
遺産分割前でも、生活費や葬儀費用のために一定額を引き出せる相続預金の払戻し制度があります。この制度を活用することで、当面の資金需要に対応できます。
銀行預金の相続において、あまり知られていない重要な問題が「休眠口座」の存在です。
休眠口座とは
10年以上取引がない預金口座のことで、2018年に施行された「休眠預金等活用法」により、これらの預金は預金保険機構に移管され、公益活動に活用されることになりました。
休眠口座の基準
移管後も預金者の権利は消滅しませんが、引き出しには預金保険機構への申請が必要となり、手続きが複雑になります。
時効援用の実態
預金債権の消滅時効は5年ですが、実際に銀行が時効を援用するケースは極めて稀です。これは、顧客との信頼関係を重視する銀行の姿勢によるものです。
少額預金の取り扱い
銀行によっては、預金額が少額な場合に代表相続人だけで簡易的に手続きができる制度を設けているところもあります。ただし、この場合でも正式な相続手続きを行うことが推奨されます。
対策のポイント
銀行預金の相続は法的期限がないからといって放置せず、適切な時期に手続きを行うことが重要です。特に相続税申告が必要な場合は、10ヶ月以内の期限を意識して計画的に進めることが求められます。