

答弁書に「認める」と1文書くだけで、100万円超の借金が撤回不可になります。
金融トラブルや借金問題で訴訟を起こされた場合、被告として最初に提出しなければならないのが「答弁書」です。答弁書は単なる返答書類ではなく、裁判官がおおよその心証を形成する根拠にもなると言われる非常に重要な書面です。つまり、これが裁判の流れを決めると言っても過言ではありません。
答弁書の基本構成は以下の8つの項目で成り立っています。
| 項目番号 | 記載内容 | 記載例 |
|---|---|---|
| ① | 事件番号・事件名・当事者名 | 令和●年(ワ)第●号 貸金返還請求事件 原告 ○○○○/被告 ○○○○ |
| ② | 作成日 | 令和●年●月●日(提出日) |
| ③ | 宛先(裁判所) | ●●地方裁判所 民事第●部 御中 |
| ④ | 作成者(被告) | 被告 ○○○○ 印 |
| ⑤ | 送達場所 | 〒●●●−●●●● ●●市●●町●−●(TEL/FAX) |
| ⑥ | 請求の趣旨に対する答弁 | 1. 原告の請求を棄却する 2. 訴訟費用は原告の負担とする との判決を求める。 |
| ⑦ | 請求の原因に対する認否 | 第1項について、〜の事実は認め、その余は否認する。 |
| ⑧ | 被告の主張 | 被告は令和●年●月●日に原告に対し、●●万円を返済した。 |
①〜⑤は形式的な記載事項です。訴状と一緒に届く「第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」に事件番号や裁判所の担当部が明記されているので、そこから書き写すだけで対応できます。
重要なのは⑥〜⑧のブロックです。ここが答弁書の実質的な内容になります。
特に⑥「請求の趣旨に対する答弁」では、争う意思を示す際に「原告の請求を棄却する」「訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めると書くのが定型です。これは、いわば「魔法の言葉」のようなもので、争う意思があるならまずこれを書くのが鉄則です。
⑦の認否では「認める」「否認する」「不知(知らない)」の3種類があります。どれを選ぶかが後の裁判展開を大きく左右します。ここが最もリスクを含む部分なので、次のH3セクションで詳しく解説します。
参考リンク(答弁書の基本書式と記載例について、裁判所公式の説明書き)。
裁判所公式:答弁書の記載例(地裁・PDF)
答弁書で最も注意すべき部分は、⑦の「請求の原因に対する認否」です。知らずに書いてしまうと、取り返しのつかない結果につながることがあります。
「認める」と書いた事実は「裁判上の自白」として法的効力を持ちます。これが原則です。
裁判上の自白が成立すると、後から「やはり認めない」と撤回することは原則として認められません。たとえば、消費者金融から「100万円の借入があった」と訴えられた訴訟で、答弁書に「借入の事実は認める」と書いてしまうと、その後に「実際には80万円しか借りていない」と主張しようとしても、裁判所から認めてもらえない可能性が高くなります。
痛いですね。
しかも、自白した部分については原告が証拠を提出しなくても、その事実が認定されてしまう場合があります。証拠がないのに自分が「認める」と書いたことで負けてしまう、これが自白の恐ろしさです。
では、どうすればよいのでしょうか?
迷ったときの安全策は「否認する」か「不知」と書くことです。「不知」とは「その事実を知らない」という意味で、認めない姿勢を示しつつ断言を避けられる表現です。特に遅延損害金の計算根拠や、原告が主張する細かい数字については、むやみに「認める」とせず「不知」としておく方が安全なケースが多いです。
また、答弁書で誤った認否をしてしまった場合でも、裁判期日前であれば訂正書面を提出することは可能です。ただし、一度口頭弁論期日で陳述されたものを訂正するには相応の理由が必要になります。「誤記に気づいたらすぐに訂正書面を裁判所に送る」という初動が重要です。
参考リンク(認否の種類と自白リスクについて詳しい解説)。
弁護士コンパス:答弁書の書き方・記載例とテンプレート書式
金融トラブルで訴状が届いた方の多くは、「借金があることは事実だが、一括では払えない」という状況です。このケースは非常に多く、答弁書での対応方法も確立されています。
まず重要なのは、分割払いを希望する場合でも「請求を棄却する」と書くのが形式的なルールだということです。「棄却」と書くと強く争っているように見えますが、これは裁判の手続き上の定型文であり、分割払いの交渉と矛盾するわけではありません。つまり分割払い希望でも棄却を求める形が基本です。
その上で、答弁書の末尾に和解意向を記載するのが実務上の定石です。具体的には以下のような文章を加えます。
| 記載箇所 | 記載例 |
|---|---|
| 被告の主張(末尾) | 被告は、原告に対し、令和●年●月から毎月●万円ずつの分割払い(●回払い)による和解を希望する。なお、遅延損害金については免除をお願いしたい。 |
月々の支払可能額と開始時期を具体的に書くのがポイントです。「毎月3万円ずつ、令和●年●月から支払い開始」のように数字を明記すれば、裁判官が和解の話し合いを始めるきっかけになりやすくなります。これは使えそうです。
ただし、注意が必要な点もあります。答弁書に分割払いの意向を書いても、それが相手方(原告側の金融機関や債権回収会社)に認められるかどうかは別問題です。債権者側が和解に応じなければ、最終的に一括払いの判決が出るリスクが残ります。
もし借金の総額が大きく、分割でも返済が困難な状況であれば、任意整理や自己破産といった債務整理の手続きを検討することも有効です。その場合は、答弁書提出前に弁護士や司法書士に相談してから対応方針を決めるのが、損失を最小化する近道になります。
参考リンク(借金訴訟での分割払い希望時の答弁書の書き方と具体的記載例)。
日本リーガルサポート:借金の訴状が届き分割払いを希望するときの答弁書の書き方と例文
訴状が届いてから答弁書の提出期限まで、実質的に与えられる時間は約1ヶ月程度です。書類の確認、事実関係の整理、証拠の収集と、やることは思いのほか多く、特に仕事をしながら自分一人で対応しようとすると期限ギリギリになることも珍しくありません。
答弁書の提出期限は通常、第1回口頭弁論期日の1週間前とされています。
では期限に間に合わなかった場合はどうなるのでしょうか?
重要なのは「期限が過ぎても、裁判期日前であれば答弁書は受け付けてもらえる」という点です。ただし、裁判期日当日に何も出さずに欠席すると、欠席判決(原告全面勝訴)になるリスクが高いので、それだけは避けなければなりません。
時間がない場合の現実的な対処法は、まず最低限の内容だけ書いた答弁書を先に提出することです。具体的には以下の内容を書くだけでも効果があります。
「おって主張する」が条件です。
この答弁書を提出することで「被告は争う意思がある」と裁判所に伝わります。その後、裁判官からいつまでに詳細な認否や主張が用意できるか確認され、第2回期日が設定される流れになります。実務上もこの対応は珍しくなく、決して不誠実な対応とは見なされません。
また、もし提出期限を過ぎてしまいそうな場合は、事前に裁判所(呼出状に記載の電話番号)に「少し遅れる可能性がある」と連絡しておくと、より丁寧な対応ができます。
参考リンク(「おって主張する」の意味と期限超過時の対処についての弁護士解説)。
所沢りぼん法律事務所:「追って認否する」とはどういう意味か
消費者金融やカード会社、あるいは債権回収会社(サービサー)から訴訟を起こされるケースは、金融に関心のある方にとって決して他人事ではありません。2010年の地方裁判所民事第一審通常訴訟のデータでは、被告本人が対応した事件202件のうち123件(約60.9%)で答弁書の補正や書証の説明が必要になったという記録があります。これは、専門知識なしに答弁書を書くことがいかに難しいかを示しています。
金融系の訴訟では特に次の3点に注意が必要です。
感情論はダメが原則です。
また、答弁書の書式についても確認しておく価値があります。A4用紙、文字サイズ12ポイント、1行37文字・1ページ26行、左端30mm(綴じ代)の余白、ページ番号は下部中央といったフォーマットが裁判所の推奨仕様です。複数ページになる場合はホッチキスで左端を綴じましょう。
提出部数は「裁判所に正本1通、原告に副本1通、自分の控えが1通」の合計3部です。原告へは裁判所経由ではなく、被告が直接送る点にも注意が必要です。FAX送信後は到着確認の電話を入れる一手間が、後のトラブルを防ぎます。
参考リンク(消費者金融から裁判を起こされた場合の答弁書対応の手順)。
債務整理プロ:消費者金融から裁判を起こされたら?訴状や支払督促が届いた場合の対応