相続登記委任状の作成方法と必要ケース解説

相続登記委任状の作成方法と必要ケース解説

相続登記委任状の作成手続き

相続登記委任状の基本情報
📋
委任状の必要性

司法書士や親族に相続登記を依頼する際の必須書類

✍️
作成方法

不動産の詳細情報を含む正確な記載が必要

⚖️
法的要件

認印での押印可能だが自署での記名が推奨

相続登記委任状が必要なケースと法定代理人の例外

相続登記の委任状は、被相続人から不動産の名義を引き継ぐ際の手続きを、司法書士や親族などに委任したことを記した書類です。本人以外が相続登記の手続きを行う場合、原則として委任状が必要となります。

 

委任状が必要な主なケース:

  • 司法書士に相続登記を依頼する場合
  • 相続人の親族が代理で手続きを行う場合
  • 複数の相続人のうち代表者が手続きを行う場合(法定相続分以外)

ただし、法定代理人が登記するときは委任状が不要となる例外があります。
親権者による未成年者の代理:
親が未成年者の子の代わりに相続登記の申請をするときには、相続人である子本人の委任状は不要です。この場合には、親と子の関係を証明する戸籍謄本の提出が必要となります。

 

成年後見人による代理:
判断能力が衰えた方の財産管理や身上保護を支援する「成年後見人」にも代理権が認められるので、相続人である成年被後見人本人の委任状がなくても成年後見人が相続登記を申請できます。

 

遺言執行者による代理:
遺言書によって遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者が不動産を相続する相続人の代わりに相続登記をすることができます。この場合には、相続人本人から遺言執行者に対する委任状は不要で、遺言執行者であることがわかる遺言書を提出すれば十分です。

 

相続登記委任状の具体的な書き方と記載項目

相続登記の委任状には特に決まった書式がありませんが、委任者の記名と捺印があり、委任したことを証明できるように記載する必要があります。

 

委任状に記載すべき7つの項目:

  1. 委任する方の住所・氏名(委任状の前文)
    • 代理人となる人の住所と氏名を記載
  2. 委任する内容
    • 「登記申請に関する一切の権限を委任します」等
  3. 登記の目的
    • 一般的には「所有権移転」
    • 被相続人の名義が持分のときは「○○(被相続人の名前)持分全部移転」
  4. 原因
    • 「令和○年○月○日相続」のように記載
  5. 相続人の情報
    • 被相続人名と相続人の住所・氏名
  6. 不動産の表示
    • 登記事項証明書の「表題部」をそのまま書き写す
  7. 委任者の住所・氏名・押印

不動産情報の記載方法:
相続登記の委任状には、相続人から引き継ぐ不動産の情報を記入しなくてはいけません。そのため、相続した不動産の登記事項証明書を法務局で取得する必要があります。

 

一戸建てとマンションでは表記法が多少異なるため、登記事項証明書の「表題部」の内容をそのまま転記することが重要です。

 

司法書士への委任状作成時の注意点

司法書士に相続登記を依頼する場合、司法書士が委任状を作成してくれるので、依頼者は委任状を作成する必要はありません。司法書士が用意した委任状に依頼者が署名捺印するだけで済みます。

 

司法書士法による重要な制限:
司法書士法では、司法書士、弁護士以外による"業務"としての登記手続きの代理はできません。違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処せられます。

 

業務として、すなわち報酬をもらわず、親族などのために相続登記を申請することはできますが、報酬などの対価を伴う業務として継続的に相続登記を代理することは許されません。

 

相続登記サポートサービスの注意点:
最近では、相続登記のサポートを民間業者がウェブサービスで提供していますが、サービスはあくまで相続登記申請書の作成や戸籍収集のサポートにとどまり、相続登記申請手続きは自分で行う必要があります。

 

そのため、きちんと相続登記サポートを提供する会社や業者が司法書士であるかどうかを把握し、相続登記申請まで代行してくれるか確認する必要があります。

 

相続登記委任状の印鑑と認印使用の実務

相続登記の委任状における印鑑の取扱いについては、多くの方が実印が必要だと思われがちですが、実際は認印でも問題ありません

 

印鑑に関する実務上のポイント:

  • 認印の使用が可能:委任状に押印する印鑑は認印でも構いません
  • シヤチハタは不可:ただし、シヤチハタなどのゴム印は使用できません
  • 実印が必要な場合:法務局に印鑑証明書を提出する場合は実印を押すようにしてください

複数枚にわたる場合の契印:
委任状が複数枚にわたる場合は、ホッチキスで綴じて契印する必要があります。契印とは、2枚以上の文書が1つの連続した文書であると証明するために、両ページにまたがって押すハンコのことです。

 

契印に使う印鑑は、委任状の署名の隣に捺印した印鑑と同じものでなければなりません。できるだけ委任状は1枚にまとめ、ホッチキス綴じや契印などの作業をなくすることが推奨されます。

 

住所氏名欄の記載方法:
委任状は、すべてパソコンを使用して作成して問題ありません。住所氏名欄についても同様です。

 

しかし、可能であれば住所氏名欄、最低でも氏名欄だけは委任者本人が自署することをお勧めします。なぜなら、後日「相続登記を依頼した覚えはない。」などと言われ、登記申請を依頼した事実の存否について争われることがあるからです。

 

住所記載の注意点:
住所および氏名を記載する際は、住民票の記載を正確に書き写します。方書(アパートやマンション等の集合住宅の建物名、部屋番号)も漏れなく記入します。

 

名前には難しい漢字が使われている場合もあります。よくあるのは「高」の字で、「髙」(はしごだか)が使われている場合があります。「恵」→「惠」、「隆」→「隆」(生の上に一本線がある)なども人名によく使われる字です。

 

法定相続分による登記識別情報通知書の取扱い

相続登記における登記識別情報通知書の取扱いは、委任状の有無によって大きく変わってきます。これは多くの方が見落としがちな重要なポイントです。

 

法定相続分での相続登記の特殊性:
相続登記する不動産の割合が法律で定められた分割割合である「法定相続分」通りであれば、委任状がなくても登記が可能です。しかし、相続登記を申請した相続人のみ登記識別情報通知書が発行されますが、委任状を提出しない相続人は登記申請に関与していないため受領することはできません。

 

委任状提出による登記識別情報通知書の確保:
共同相続登記で申請する場合でも、司法書士や代表して相続登記をする相続人に相続登記を委任する委任状を提出できます。委任状を提出すれば、相続登記完了時に「登記識別情報通知書」が発行されます

 

「登記識別情報通知書」は、売却や贈与といった「所有権移転登記」や、住宅ローンなど抵当権の設定などで必要な書類です。登記識別情報通知がないと売却などの手続きで余分な費用がかかったり手続きが複雑になることがあります。

 

実務上の推奨事項:
不動産を相続する方全員に届けられるのが望ましいので、法定相続分通りであっても委任状を作成したほうがよいでしょう。

 

登記識別情報の重要性:
登記識別情報通知書は、従来の「権利証」に代わる重要な書類です。この書類がないと、将来の不動産取引において本人確認情報の作成などの追加手続きが必要となり、費用も時間もかかることになります。

 

特に、複数の相続人がいる場合で、将来それぞれが自分の持分を処分する可能性がある場合は、全員が登記識別情報通知書を受領できるよう委任状を作成することが実務上非常に重要です。

 

法務局での相続登記における登記識別情報通知書の取扱いに関する詳細情報
https://houmukyoku.moj.go.jp/