
相続放棄の申述を行う際、申述人と被相続人の関係に関わらず必ず必要となる共通書類があります。これらの書類は相続放棄手続きの基本となるため、まず最初に準備すべきものです。
必ず必要な共通書類一覧
相続放棄申述書は裁判所のホームページからダウンロード可能で、18歳以上用と18歳未満用の2種類の様式があることは意外に知られていません。申述書には申述人の基本情報、被相続人との関係、相続放棄の理由などを詳細に記載する必要があります。
被相続人の住民票除票は死亡時の住民登録地の市区町村役場で、戸籍附票は本籍地の市区町村役場で取得できます。どちらか一方があれば十分ですが、取得しやすい方を選択することをお勧めします。
相続放棄の必要書類は、申述人が被相続人との関係において第何順位の相続人に該当するかによって大きく異なります。この続柄別の書類要件は相続法の基本構造に基づいており、理解が重要です。
配偶者の場合
配偶者は常に相続人となるため、比較的シンプルな書類構成となります。
第一順位相続人(子・孫など)の場合
子や代襲相続人である孫が申述する場合の必要書類です。
第二順位相続人(父母・祖父母など直系尊属)の場合
第一順位相続人が存在しない、または全員が相続放棄した場合に相続権が移る直系尊属の必要書類は最も複雑です。
第三順位相続人(兄弟姉妹・甥姪)の場合
兄弟姉妹や代襲相続人である甥姪の場合、上位順位者の状況確認が必要なため書類が最も多くなります。
相続放棄申述書は相続放棄手続きの中核となる書類であり、記入内容の正確性が申述の受理に直結します。不備があると手続きが遅延し、3か月の期限に影響する可能性があるため注意が必要です。
申述書記入の重要ポイント
申述人情報の記載では、本籍地・住所・氏名・生年月日・職業・被相続人との続柄を正確に記入します。特に本籍地は戸籍謄本で確認した正確な表記を使用することが重要です。
被相続人情報では、死亡年月日・本籍地・住所・氏名を記載しますが、これらも取得した戸籍や住民票除票の情報と完全に一致させる必要があります。
相続開始を知った日の記載注意点
「相続の開始を知った日」は被相続人の死亡日と必ずしも一致しません。死亡から3か月以上経過している場合、税金の滞納通知や債権者からの請求書など、相続開始を知ったことを裏付ける資料の写しを添付する必要があります。
相続財産の概略欄では、把握している範囲で資産と負債を記載します。「不明」と記載することも可能ですが、調査した範囲での情報は正確に記載することが求められます。
放棄の理由は「債務超過のため」「相続財産管理の負担回避のため」など、具体的かつ明確に記載することで、裁判所の理解を得やすくなります。
相続放棄の必要書類取得には一定の時間と費用がかかるため、効率的な取得方法を理解することが重要です。特に遠方の市区町村から書類を取得する場合、郵送手続きに時間を要することがあります。
戸籍謄本類の取得方法と費用
戸籍謄本は本籍地の市区町村役場で取得し、1通あたり450円程度の手数料がかかります。除籍謄本や改製原戸籍謄本は1通あたり750円程度と高額になります。
出生から死亡までの全戸籍謄本が必要な場合、転籍歴により複数の市区町村から取得が必要になることがあります。この場合、各市区町村に個別に申請する必要があり、取得に数週間を要することも珍しくありません。
住民票除票・戸籍附票の取得
住民票除票は死亡時の住民登録地で、戸籍附票は本籍地で取得します。どちらも1通300円程度の費用がかかります。被相続人の死亡から5年を経過すると住民票除票の取得ができなくなる場合があるため、早期の取得が推奨されます。
郵送による取得方法
遠方の市区町村から書類を取得する場合、郵送申請が便利です。申請書・本人確認書類のコピー・定額小為替・返信用封筒を同封して送付します。処理期間として1-2週間程度を見込んでおく必要があります。
複数の相続人が同時に相続放棄する場合、同じ書類は1通で済むことが多いため、事前に調整することで費用を抑えることができます。
相続放棄の3か月期限は絶対的なものと思われがちですが、実際には例外的な取り扱いがある場合があります。この期限の柔軟な運用について理解することで、困難な状況でも適切な対応が可能になります。
期限延長が認められる特別な事情
相続財産が複雑で調査に時間を要する場合、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることができます。この申立ては3か月の期限内に行う必要がありますが、認められれば期限を延長できます。
被相続人と疎遠だった場合や、相続債務の存在を後から知った場合など、「相続の開始を知った日」が死亡日と異なることを証明できれば、その日から3か月以内の申述が認められる可能性があります。
3か月経過後の相続放棄申述
既に3か月が経過している場合でも、諦める必要はありません。相続放棄申述書と併せて事情説明書(陳述書・上申書とも呼ばれる)を提出することで、裁判所が個別に判断します。
事情説明書には、なぜ3か月以内に申述できなかったのか、いつ相続の開始を知ったのか、相続財産に手を付けていないことなどを詳細に記載します。税金の滞納通知や債権者からの請求書など、客観的な証拠があると説得力が増します。
相続財産への関与と単純承認の回避
相続放棄を検討している場合、被相続人の財産に手を付けることは避けなければなりません。葬儀費用の支払いや遺品の処分なども、状況によっては単純承認とみなされる可能性があります。
ただし、生活に必要最小限の行為(家庭裁判所への書類提出のための調査など)は問題ないとされることが多く、個別の判断が必要です。
相続放棄が受理された後も、被相続人と同居していた場合などは相続財産の管理義務が継続する場合があります。この管理義務は次順位相続人が相続財産を引き継ぐか、相続財産管理人が選任されるまで続くため、長期間の負担となる可能性があります。
家庭裁判所での相続放棄手続きは複雑で専門性が高いため、不安がある場合は司法書士や弁護士などの専門家に相談することも重要な選択肢となります。適切な手続きを行うことで、確実に相続放棄を実現し、不要な債務を回避することが可能になります。