
生命保険金は民法上、相続財産として扱われません。これは保険契約において、被保険者の死亡時に保険金を受け取る権利が、あらかじめ指定された受取人に直接発生するためです。
受取人にとって生命保険金は「相続人固有の財産」となり、遺産分割協議を経ずに保険金を入手することができます。この特性により、相続が発生した場合でも、被相続人の銀行預金などが凍結されている状況下で、確実に現金を確保できるメリットがあります。
具体的には、相続が発生すると被相続人の銀行預金は一定額を除いて相続人の合意がなければ引き出すことができません。しかし生命保険を活用すれば、被相続人は渡したい相続人を受取人にして、お金を確実に渡すことができます。これを専門家は「お金に名前を付ける」と表現することもあります。
生命保険金は相続財産ではありませんが、税法上は「みなし相続財産」として相続税の対象となります。ただし、重要な優遇措置として非課税枠が設けられています。
非課税限度額の計算方法
例えば、配偶者と子ども2人が相続人の場合、500万円×3人=1,500万円まで相続税がかかりません。この非課税枠は相続税対策として非常に有効で、預金や不動産などの他の相続財産と比較して大きな税制上のメリットがあります。
さらに、生命保険金は現金で受け取れるため、相続税の納税資金として活用することも可能です。不動産など換金性の低い財産が多い場合、相続税の支払いに困ることがありますが、生命保険金があれば納税資金を確保できます。
受取人の指定方法によって、生命保険金の分割方法が変わります。最も注意が必要なのは、受取人を「相続人」としている場合です。
受取人指定のパターン別対応
受取人が「相続人」となっている場合、法定相続分に従って死亡保険金を分けることになります。主なケースの法定相続分は以下の通りです。
ただし、指定された受取人が他の相続人と保険金を分け合う場合、それは遺産分割ではなく受取人から他の相続人への贈与とみなされ、贈与税の対象となる可能性があります。
原則として生命保険金は遺産分割の対象外ですが、例外的に相続財産として扱われる場合があります。
特別受益として扱われる可能性があるケース
このような場合、他の相続人から不公平だとして争いになり、裁判所が特別受益として相続財産に持ち戻すことを認める可能性があります。
通常の契約、つまり被保険者が自分の死後の家族の生活を考慮してかけた保険金であれば問題ありませんが、明らかな相続税逃れや特定の相続人への優遇が目的の場合は注意が必要です。
生命保険を相続対策として活用する具体例を見てみましょう。
ケーススタディ:親孝行な娘に財産を残したい母親の事例
対策前の状況
何も対策をしなかった場合、法定相続により長男Cが預金の全て(1,500万円)を相続し、長女Bが自宅を確保するために代償金500万円を自分の預金から渡すことになる可能性がありました。
生命保険活用後の結果
母親Aが1,000万円の生命保険に加入し、長女Bを受取人に指定することで。
この事例では、生命保険の「お金に名前を付ける」機能を活用して、親孝行な長女に確実に財産を残すことができました。
現代の高齢化社会では、介護などで貢献した家族により多くの財産を残したいと考える方が増えており、生命保険はそのニーズに応える有効な手段となっています。