
「生命保険はいらない」という意見の最も強力な根拠は、日本の充実した公的保険制度にあります。
日本では国民皆保険制度により、すべての国民が公的医療保険に加入しています。これにより、医療費の自己負担は最大でも3割に抑えられ、さらに高額療養費制度によって月額の医療費負担には上限が設けられています。
具体的な高額療養費制度の仕組み。
また、遺族年金制度も整備されており、配偶者が死亡した場合でも一定の保障を受けることができます。国民年金の遺族基礎年金に加え、厚生年金加入者であれば遺族厚生年金も支給されるため、民間の死亡保険の必要性は低いとする専門家も多いのです。
さらに、会社員であれば傷病手当金制度により、病気やケガで働けなくなった場合でも最大1年6か月間、給与の約3分の2が支給されます。これらの制度を総合すると、「民間の生命保険は不要」という結論に至る人が多いのも理解できます。
生命保険が本当に不要となる人には、明確な特徴があります。
独身の人は最も生命保険の必要性が低いグループです。扶養する家族がいないため、死亡保障は基本的に不要であり、医療費についても自分自身の問題に留まります。ただし、医療保険や就業不能保険については、収入が途絶えるリスクを考慮して検討する価値があります。
十分な貯蓄がある人も生命保険の必要性は低くなります。目安として以下の条件を満たす場合、保険よりも貯蓄で対応する方が合理的です。
共働き世帯で収入が安定している家庭では、片方の収入が途絶えても生活を維持できるため、高額な死亡保障は不要な場合があります。ただし、住宅ローンや教育費の負担が大きい場合は別途検討が必要です。
興味深いデータとして、金融庁の調査によると、生命保険の保険金請求率は死亡保険で約1.5%、医療保険で約5%程度という低い数値が報告されています。これは多くの人が保険料を支払っても、実際に保険金を受け取る機会が少ないことを示しています。
生命保険の必要性を判断するには、客観的なメリットとデメリットの比較が不可欠です。
生命保険のメリット。
生命保険のデメリット。
保険料の総額を計算すると、30歳男性が月額1万円の保険料を30年間支払った場合、総額は360万円になります。この金額を年利3%で運用できれば、30年後には約583万円になる計算です。
費用対効果の検証例。
月額保険料5,000円の医療保険の場合、30年間で支払う総額は180万円。一方、同額を積立投資した場合、年利4%運用で約346万円になります。医療保険から受け取る可能性のある給付金と比較すると、必ずしも保険が有利とは限りません。
生命保険に頼らずにリスクに備える方法として、効率的な貯蓄と資産形成があります。
緊急時資金の準備。
生活費の3~6か月分を普通預金や定期預金で確保します。これにより、病気やケガで一時的に収入が途絶えても生活を維持できます。年収400万円の人なら、月の生活費を25万円として、75万円~150万円が目安となります。
つみたてNISAの活用。
年額40万円まで非課税で投資できるつみたてNISAは、長期的な資産形成に最適です。20年間継続すれば、年利5%運用で元本800万円が約1,370万円になる計算です。これは多くの生命保険の死亡保障額に匹敵します。
iDeCo(個人型確定拠出年金)の併用。
年収400万円の会社員なら年額27.6万円まで拠出でき、全額所得控除の対象となります。所得税率20%の場合、年間約5.5万円の節税効果があり、実質的な負担は約22万円で済みます。
不動産投資による収益確保。
ワンルームマンション投資などで家賃収入を得ることで、働けなくなった際の収入源を確保できます。月額8万円の家賃収入があれば、年間96万円の安定収入となり、これは生命保険の年金給付に相当します。
高配当株投資。
配当利回り4%の高配当株に500万円投資すれば、年間20万円の配当収入が期待できます。これは月額約1.7万円の不労所得となり、医療保険の代替機能を果たします。
重要なのは、これらの方法を組み合わせて分散投資することです。一つの方法に依存せず、複数の資産クラスでリスクを分散することで、生命保険以上の安心感を得ることができます。
年金制度の理解は、生命保険の必要性を判断する上で重要な要素です。多くの人が見落としているのが、公的年金の遺族年金機能と生命保険の関係性です。
国民年金の遺族基礎年金は、子どものいる配偶者に年額約78万円(令和5年度)が支給されます。さらに厚生年金の遺族厚生年金では、亡くなった人の厚生年金額の4分の3が終身支給されます。
年収500万円の会社員が亡くなった場合の遺族年金シミュレーション。
この金額は、多くの生命保険の年金給付と同等かそれ以上です。特に注目すべきは、厚生年金基金や企業年金に加入している会社員の場合、さらに手厚い遺族給付を受けられる点です。
個人年金保険との比較も重要です。月額2万円の個人年金保険を30年間続けた場合の総額は720万円ですが、同額をiDeCoで運用すれば、年利4%で約1,370万円になります。さらにiDeCoの場合、全額所得控除となるため、実質的な負担はさらに軽減されます。
年金生活者の医療費リスクについては、75歳以上の後期高齢者医療制度により、自己負担は1割(現役並み所得者は3割)に軽減されます。また、年金からの特別徴収により保険料の未納リスクもありません。
これらの制度を総合的に考慮すると、公的年金制度が充実している日本では、民間の生命保険の必要性は従来より大幅に低下していると言えるでしょう。特に年金について詳しく調べている方であれば、公的保障の手厚さを理解し、より合理的な保険選択ができるはずです。