

育休中の従業員がまだ職場に戻っていないのに、30万円の申請期限がすでに終わっていた——そんな状況になってもあなたの会社は助成金を1円も受け取れません。
両立支援等助成金(育児休業等支援コース)は、厚生労働省が運営する中小企業向けの助成制度です。育児休業の円滑な取得と職場復帰を促進する目的で設けられており、条件を満たした企業に対して返済不要の助成金が支給されます。
この制度の特徴は、「育休復帰支援プラン」を策定して実行したことが支給の前提になる点です。つまり、企業が計画的に育休支援の体制を整えることが求められています。支給は段階的に行われ、「育休取得時」と「職場復帰時」の2段階にわけて行われます。
支給対象は中小企業に限られています。金融機関などもサービス業に分類される場合があり、常時雇用する労働者数が100人以下であれば対象となります。まず自社の業種と規模を確認しておきましょう。
| 業種 | 資本金または出資金 | 常時雇用労働者数 |
|---|---|---|
| 小売業・飲食業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業(金融含む) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| その他(製造業等) | 3億円以下 | 300人以下 |
中小企業の定義に該当するかどうかが大前提です。資本金・出資金または労働者数のいずれかが基準以下であれば対象となります。
支給金額の全体像を把握しておくと、制度活用の計画が立てやすくなります。
| 区分 | 支給額 | 申請上限 |
|---|---|---|
| 育休取得時 | 30万円 | 1事業主2回まで |
| 職場復帰時 | 30万円 | 1事業主2回まで |
| 情報公表加算 | 2万円 | 1事業主1回限り |
ここでいう「1事業主2回まで」とは、無期雇用労働者から1名、有期雇用労働者から1名の計2名を対象にできるという意味です。
これはよく誤解されるポイントです。
最大受給額の計算は次のようになります。
$$\text{最大受給額} = 30万円 \times 2 \times 2 + 2万円 = 122万円$$
つまり、上手く活用すれば1事業主につき最大122万円を受け取ることができます。
これは使えそうです。
ただし、職場復帰時の助成金は、同じ対象労働者の同じ育児休業について育休取得時の助成金をすでに受給していることが条件となります。育休取得時を申請していない場合、職場復帰時の申請はできません。
この点は必ず覚えておきましょう。
参考になる公式情報はこちらです。育休復帰支援プランの作成方法や提出書類の様式も確認できます。
厚生労働省による両立支援等助成金の公式案内ページ。手引きや各種様式のダウンロードもこちらから可能です。
育休取得時の申請期間は、起算日によって2パターンに分かれます。
具体的な日付で考えてみましょう。たとえば育児休業開始日が4月1日の場合、3か月後の7月1日の翌日(7月2日)から2か月以内、つまり9月1日までが申請期限となります。
「育休が終わってから申請すればいい」と考えていると大きなミスになります。育休期間が5か月以上に及ぶ場合、育休が終わる前に申請期限が来てしまいます。
たとえば育休開始が4月1日で12か月間取得する場合、申請期限は9月1日ですが、育休終了は翌年3月31日です。つまり育休終了の約6か月前に申請を済ませなければなりません。
注意が必要なところですね。
申請書類は、厚生労働省が運営する雇用関係助成金ポータルや各都道府県の労働局雇用環境・均等部(室)を通じて提出します。郵送の場合は消印ではなく労働局への「到達日」が期限内であることが条件です。
余裕をもって提出することが条件です。
職場復帰時の申請期限は、育休取得時とは異なる起算日が設けられています。
たとえば、育児休業終了日が1月31日の場合、6か月後の7月31日の翌日(8月1日)から2か月以内、すなわち9月30日が申請期限になります。
職場復帰後6か月が経過してから申請期間が開く仕組みです。これは、「復帰後6か月以上継続して雇用していること」という支給要件を確認するための期間でもあります。
復職後の6か月間に、雇用形態や給与形態の不合理な変更を行っていると支給対象外になる点も押さえておく必要があります。また、この6か月間は就業日数が所定就業日数の5割以上であることも必要です。一見細かい条件ですが、対象除外になる典型的なパターンです。
参考として、申請期限に関する詳細な解説を掲載しているページを紹介します。
申請のタイミングが図解でわかりやすく解説されています。育休取得時・職場復帰時のそれぞれの申請タイミングのイメージ図も確認できます。
補助金ポータル|両立支援等助成金「育児休業等支援コース」とは?詳しい要件と申請のタイミング
育休取得時に助成金を受けるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
上記の①支援方針の周知、②面談・プラン作成、③業務引き継ぎは、すべて「休業開始日の前日まで」に完了させる必要があります。妊娠の報告を受けてから急いで進める必要があるため、早めの準備が不可欠です。
育休中の就業については注意が必要です。労使合意による臨時就業であれば認められますが、育休開始日を起算としたすべての月において就業日数が10日(または就業時間80時間)以下でなければなりません。この基準を超えると助成金の対象から外れます。
就業規則に育児休業制度が明記されていない、または内容が旧法に基づくままになっている企業は対象外になるケースがあります。2024年以降の育児・介護休業法の改正に対応した規定になっているか、一度確認しておくことをおすすめします。
職場復帰時には、育休取得時の受給を前提として、以下の要件を満たす必要があります。
「原職等への復帰」という要件はしばしば誤解されます。基本的には育休前と同一の部署・職務への復帰が求められますが、本人の希望により別職務で復帰する場合も、面談シートでその希望が確認できれば対象になります。育児のための短時間勤務制度の利用は問題ありません。
復帰後に無期雇用から有期雇用に変更した場合や、職制上の地位が下がった場合は原則として支給対象外です。人事異動や雇用形態の変更が必要な場合は、申請への影響を事前に確認しておくことをおすすめします。
育休取得時の申請に必要な主な書類を整理します。書類の不備や添付漏れは不支給の原因になります。
これは必須です。
| No. | 書類名 | 備考 |
|---|---|---|
| 1 | 支給申請書(【育】様式第1号①②) | 最新版を厚労省HPからダウンロード |
| 2 | 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号) | – |
| 3 | 面談シート(【育】様式第2号) | 休業開始日前日までに作成 |
| 4 | 育休復帰支援プラン(【育】様式第3号) | 休業開始日前日までに作成 |
| 5 | 支援方針の周知を確認できる書類 | 社内報・就業規則・掲示記録など |
| 6 | 労働協約または就業規則(育児休業・短時間勤務制度の部分) | – |
| 7 | 対象労働者の雇用契約書・労働条件通知書 | プラン策定日時点のもの |
| 8 | 育児休業申出書(変更がある場合は変更申出書も) | – |
| 9 | 出勤簿・賃金台帳(休業前1か月+育休3か月分) | – |
| 10 | 母子手帳(出生欄)・住民票等 | 子の存在・出生日が確認できるもの |
| 11 | 次世代法の一般事業主行動計画策定届 | プラチナくるみん認定企業は不要 |
2回目以降の申請(2人目)で内容に変更がない場合は、様式第6号(提出省略確認書)を提出することで書類の一部を省略できます。初めて雇用関係助成金を申請する場合は、支払方法・受取人住所届と通帳の写しも必要です。
申請書類はすべて最新版を使用する必要があります。古い様式を使用していると受理されない場合があります。厚生労働省の公式ページから必ずダウンロードして使用してください。
職場復帰時の申請に必要な書類は以下のとおりです。育休取得時と重複する書類については内容に変更がなければ省略できます。
| No. | 書類名 | 備考 |
|---|---|---|
| 1 | 支給申請書(【育】様式第4号①②) | 最新版を使用 |
| 2 | 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号) | – |
| 3 | 面談シート(【育】様式第2号) | 育休取得時のものに復帰前面談を追記 |
| 4 | 休業中に提供した業務関連資料(日付入り) | メール送信記録・書面受領署名など |
| 5 | 出勤簿・賃金台帳(育休終了前3か月+復帰後6か月分) | 在宅勤務の場合は業務日報も添付 |
| 6 | 労働協約または就業規則(育休制度・短時間勤務制度の部分) | 育休取得時から変更がなければ省略可 |
| 7 | 次世代法の一般事業主行動計画策定届 | プラチナくるみん認定企業は不要 |
復帰後に育児短時間勤務を利用している場合は、育児短時間勤務の申出書と賃金計算方法が確認できる書類(申立書など)の追加提出が必要です。在宅勤務者の場合は業務日報等も合わせて添付します。
郵送で申請する場合は、配達記録が残る方法(簡易書留など)を選ぶことが重要です。労働局への「到達日」が期限内であることが条件であり、消印日は考慮されません。
「育児休業等に関する情報公表加算」は、上記の育休取得時・職場復帰時のいずれかの申請に加えて申請できる追加支給です。
2万円が加算されます。
1事業主につき1回しか申請できない点に注意しましょう。
加算を受けるためには、厚生労働省が運営する「両立支援のひろば」の一般事業主行動計画公表サイトで以下の3項目をすべて公表していることが必要です。
注意点として、自社のウェブサイトやSNSでの公表は対象外です。必ず「両立支援のひろば」の指定ページに掲載する必要があります。また、この加算のみを単独で申請することはできません。
公表した情報は、支給申請日から支給決定日まで、さらに支給決定後も少なくとも申請事業年度が終了するまで継続して公表し続けることが求められます。情報を削除したり内容を変更したりする場合は事前に確認が必要です。
厚生労働省|両立支援のひろば(一般事業主行動計画公表サイト)
制度の全体的な流れを把握することで、どの時点でどの準備をすべきかが見えてきます。
申請書類を提出後、労働局による審査が行われます。支給決定から実際に着金するまでは数か月かかることが一般的です。キャッシュフローの計画には余裕を持たせておくことが賢明です。
電子申請も利用できます。令和5年6月26日から両立支援等助成金が電子申請の対象となりました。雇用関係助成金ポータルから手続きが可能で、紙の郵送と比べて書類の紛失リスクが低く、提出の確認もしやすいというメリットがあります。
助成金の不支給につながりやすい典型的なミスをまとめます。
知っておくだけで回避できる失点が多いです。
❌ ミス1:育休開始後に育休復帰支援プランを作成した
育休復帰支援プランは「育休開始日の前日まで」に作成が必須です。妊娠の報告後、できるだけ早く作成に着手してください。妊娠報告を受けた段階ですぐに動き始めることが基本です。
❌ ミス2:申請期限を「育休が終わったら」と思い込んでいた
育休取得時の申請期限は育休終了後ではなく、育休開始日から3か月後に始まります。長期育休を取得する従業員の場合、育休終了前に期限が到来するケースが多くあります。
❌ ミス3:育休中に月10日超の就業をさせてしまった
育休中の就業日数が月10日を超えた月がある場合(就業時間が月80時間超も同様)、助成金の対象外になります。本人の要望や繁忙期対応で呼び出すことが重なってしまうケースがあります。
厳しいところですね。
❌ ミス4:職場復帰時に雇用形態を変更した
復帰後の6か月間に無期→有期への変更、または給与形態の不合理な変更を行うと支給対象外になります。育児短時間勤務の利用は問題ありませんが、雇用契約上の地位の変更は注意が必要です。
❌ ミス5:情報公表加算を自社サイトで公表していた
情報公表加算は「両立支援のひろば」での公表が要件であり、自社サイト・SNS・求人サイトへの掲載は対象外です。
公表先を間違えると加算が受けられません。
これらの失敗を避けるには、育休が始まる前からチェックリストを使ったスケジュール管理が効果的です。社会保険労務士(社労士)に依頼する方法も、初回申請では特に安心感があります。
申請手順の詳細と注意点について社労士が解説しています。
佐藤グループ社労士事務所|両立支援等助成金(育児休業等支援コース)をわかりやすく解説
2023年6月26日から、両立支援等助成金は電子申請の対象になっています。紙の郵送申請と比較したメリットと注意点を整理します。
電子申請のメリットは3つあります。1つ目は書類の紛失・破損リスクがゼロである点、2つ目は提出の記録が自動で残る点、3つ目は郵送コスト(簡易書留代など)が不要になる点です。
いいことですね。
ただし、電子申請を行うためにはGビズIDプライムアカウントの取得が必要です。このアカウント発行には申請から審査・郵送まで2週間程度かかる場合があります。はじめて申請する場合は、GビズID取得から始めると良いでしょう。
電子申請で提出できない書類(原本が必要な場合など)がある場合は、別途郵送が必要です。提出前に「電子申請で対応できるか」を労働局に確認しておく対応をおすすめします。
育児休業等支援コースの電子申請に対応した雇用関係助成金ポータルの公式ページです。
育休に関連する両立支援等助成金には複数のコースがあります。なかでも「育児休業等支援コース」と「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」は似ているため混同されやすい点に注意が必要です。
「出生時両立支援コース(第1種・第2種)」は、男性労働者が出生時育児休業(産後パパ育休)を取得した場合に支給される制度です。一方、「育児休業等支援コース」は男女問わず、連続3か月以上の育児休業取得を支援した場合が対象です。
重要なのは、同一の労働者の同一の育児休業に対して、この2つのコースを重複して申請することはできないという点です。どちらのコースで申請するかを事前に整理しておく必要があります。
また、育休中等業務代替支援コースという別コースもあります。これは育休取得者の業務を代替する社員への手当支給または新規雇用を行った場合に最大47.5万円が支給される制度で、育児休業等支援コースと並行して活用できる可能性があります。
助成金が支給されないケースをあらかじめ知っておくことで、リスクを未然に回避できます。
以下のいずれかに該当する場合は不支給となります。
最後の「1日でも期限を過ぎると不支給」という点は多くの方が見落としがちです。郵送の場合は消印ではなく到達日が基準になるため、期限の2〜3日前には書類を発送するスケジュールを逆算して組みましょう。
申請期限の管理を一元化するには、育休開始日・産後休業開始日を起点にカレンダーへ期限を入力しておく方法が実用的です。手軽に申請期限をカレンダー登録する習慣をつけるだけで、期限切れリスクを大幅に下げられます。
金融や経営に関心の高い方向けに、この助成金を「資金繰り」の観点からも考えてみましょう。助成金は返済不要の現金ですが、受給タイミングが計画に影響することは見落とされがちです。
育休取得時の申請を育休開始3か月後に行い、審査・支給まで最長3〜5か月かかるとすると、最速でも育休開始から8か月程度後に着金する計算になります。一方、育休中は対象労働者の代替人員の確保コストや業務負担が生じます。
$$\text{着金までの最長目安} \approx \text{育休開始後} + 3\text{ヶ月} + 2\text{ヶ月(申請期間)} + 3\text{~5ヶ月(審査・振込)} = 8 \sim 10\text{ヶ月}$$
つまり、助成金を当て込んで早期に代替要員を採用・配置するのは、資金繰り上のリスクになり得ます。助成金は「後払いの補填」として計画するのが現実的です。
また、育休中等業務代替支援コースと組み合わせることで、代替要員の採用コストをさらに圧縮できます。育児休業等支援コースによる1人あたり最大60万円(取得時+復帰時)と、業務代替コースによる最大47.5万円を合算することで、育休期間中の総コスト管理が格段に楽になります。
いずれの助成金も、申請してから支給決定・振込までのラグがあることを前提に、年間の資金計画に組み込んでおくことが重要です。社労士と顧問契約を結んでいる場合は、申請タイミングと会計処理のタイミングを事前にすり合わせることをおすすめします。