
連結納税制度は、企業グループの一体性に着目し、親会社とその完全支配下にある子会社(100%子会社)を一つの納税単位として扱い、法人税を計算・納付する制度です。この制度では、グループ全体を一つの法人のように捉え、グループ内各社の所得と欠損を通算して課税所得を計算します。
具体的には、親会社とその親会社が直接または間接的に100%の株式を保有するすべての子会社(外国法人を除く)が対象となります。この制度を適用すると、親会社がグループ全体の連結所得金額を一つの申告書(連結確定申告書)に記載して、法人税の申告・納付を行います。
連結納税制度の最大の特徴は、グループ内の各法人の損益を通算できることです。例えば、あるグループ会社が黒字で、別のグループ会社が赤字の場合、単独申告では赤字会社の欠損金は当該会社でしか使えませんが、連結納税制度を適用すれば、グループ全体で損益通算が可能となります。
この制度は平成14年に創設され、平成15年3月31日以後に終了する事業年度から適用可能となりました。なお、令和4年4月1日以後に開始する事業年度からは、連結納税制度はグループ通算制度に移行されています。
連結納税制度の最も大きなメリットは、グループ全体での税負担の軽減です。この節税効果について、具体的な数字で見てみましょう。
例えば、A社(親会社)、B社(子会社)、C社(子会社)というグループ会社があり、それぞれの所得金額が以下のようになっているとします。
単独申告の場合、各社が個別に法人税を計算・納付するため、グループ全体の納税額は以下のようになります(税率30%と仮定)。
一方、連結納税制度を適用した場合は、グループ全体の所得金額を合算して法人税を計算します。
この例では、連結納税制度を適用することで、90万円(510万円 - 420万円)の税負担軽減効果があります。
さらに、連結納税制度には以下のようなメリットもあります。
これらのメリットにより、企業グループ全体の資金効率が向上し、グループ経営の柔軟性が高まります。
連結納税制度を適用するためには、いくつかの条件を満たす必要があります。まず、適用対象となる法人について確認しましょう。
【適用対象法人】
ここで重要なのは、「完全支配関係」という概念です。これは、親会社が直接または間接的に子会社の発行済株式または出資の全部(100%)を保有している関係を指します。外国法人は連結納税制度の対象外となります。
また、連結納税制度はグループ内のすべての100%子会社を対象としなければならず、一部の子会社だけを選択的に適用対象とすることはできません。これを「全部適用」といいます。
【申請手続きの流れ】
承認申請書には、連結親法人および連結子法人の基本情報、100%支配関係の状況、連結納税の開始事業年度などを記載します。申請書の提出後、税務当局による審査を経て承認されます。
なお、帳簿書類の不適正な記録・保存や取引の隠ぺい・仮装があった場合には、国税庁長官は連結納税の承認を取り消すことができるため、適正な税務処理が求められます。
連結納税制度を適用する場合、申告・納付の実務には特有のポイントがあります。ここでは、実務担当者が押さえておくべき重要事項を解説します。
【申告・納付の基本】
連結納税グループの法人税申告は、連結親会社が行います。連結事業年度の終了日の翌日から2か月以内(申告期限の延長申請が認められた場合は4か月以内)に、連結確定申告書を提出し、納税を行う必要があります。
申告期限の延長が認められた場合でも、納付については延長期間について利子税がかかるため、一般的には2か月以内に見込み納付を行うことが多いです。
【連結法人税額の計算と個別帰属額】
連結法人税額の計算は以下の手順で行います。
連結法人税額を求めた後、各会社の個別帰属額を計算し、それぞれの会社に債権債務を帰属させます。親会社が企業グループ全体の法人税を一旦納付しますが、最終的には親子会社間で各子会社が負担すべき納税額を精算するため、この個別帰属額の計算が重要です。
【子会社の連帯納付責任】
連結納税制度では、子会社も連帯納付責任を負います。つまり、親会社が納税を怠った場合、子会社に納税義務が発生する可能性があります。また、子会社は個別帰属額等を記載した書類を税務署に提出する必要があります。
【実務上の留意点】
特に、連結納税制度は通常の法人税申告と比較して複雑であるため、専門的な知識を持つ税理士や税務担当者の関与が重要です。また、グループ内での情報共有や連携体制の構築も実務上のポイントとなります。
連結納税制度には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットや注意点も存在します。企業がこの制度の導入を検討する際には、以下の点に留意する必要があります。
【主なデメリット】
連結納税制度は従来の法人税法と比較して制度が複雑であり、申告書類の作成や連結調整項目の計算など、事務作業が増加します。特に初年度は移行に伴う追加作業が発生するため、人的・時間的コストを考慮する必要があります。
連結グループ内に中小企業がある場合、連結納税を適用すると中小企業向けの税制優遇措置(交際費の損金算入特例など)が受けられなくなることがあります。これは、連結納税では親会社の資本金等の額によって特例の適用可否が決まるためです。
法人税は連結納税が可能ですが、事業税や住民税、消費税には連結納税制度がないため、これらの税金については引き続き個別申告が必要です。このため、税務申告の一元化というメリットが限定的になります。
子会社は連帯納付責任を負うため、グループ内の他の法人の税務リスクが自社にも及ぶ可能性があります。特に、財務基盤の弱い子会社にとっては大きなリスクとなり得ます。
連結納税は一度選択すると原則として継続適用が必要であり、簡単に取りやめることができません。事業環境の変化に柔軟に対応できない面があります。
【導入前の検討事項】
連結納税制度の導入を検討する際には、以下の点を総合的に評価することが重要です。
特に、連結納税制度の導入は単なる税務戦略にとどまらず、グループ経営戦略の一環として位置づけるべきです。短期的な税負担軽減だけでなく、中長期的な視点でのメリット・デメリットを検討することが重要です。
また、令和4年4月1日以後に開始する事業年度からは連結納税制度がグループ通算制度に移行されたことも念頭に置く必要があります。新制度では申告方法などに変更点があるため、最新の税制改正情報を確認することも欠かせません。
連結納税制度の概要(国税庁)- 制度の基本的な仕組みについて詳しく解説されています
令和2年度の税制改正により、連結納税制度は令和4年4月1日以後に開始する事業年度からグループ通算制度へと移行しました。この制度変更は、連結納税制度の基本的な枠組みを維持しつつ、いくつかの重要な変更点を含んでいます。
【グループ通算制度の主な特徴】
連結納税制度では親会社がグループ全体の申告・納付を一括して行っていましたが、グループ通算制度では各法人が個別に申告・納付を行います。これにより、グループ全体での一体申告から個別申告方式へと変わりました。
グループ内の各法人の所得と欠損を通算する基本的な仕組みは維持されていますが、通算の方法が変更されています。各法人は自社の所得から他の法人の欠損金を控除した後の金額に基づいて申告を行います。
連結納税制度では、一つの法人の修正申告や更正がグループ全体に影響していましたが、グループ通算制度では原則として当該法人のみに影響が限定されます。これにより、税務調査等による影響範囲が縮小されます。
グループ通算制度を適用する法人は、原則として電子申告(e-Tax)を利用することが義務付けられています。これにより、申告手続きのデジタル化が進められています。
【移行に伴う実務上の対応】
グループ通算制度への移行に際しては、以下のような実務上の対応が必要となります。
【今後の展望】
グループ通算制度への移行は、企業グループの税務戦略にも影響を与えることが予想されます。特に以下のような点が今後の展望として考えられます。
各法人が個別に申告を行う方式になることで、各社の税務コンプライアンス意識が高まり、グループ全体のガバナンス強化につながる可能性があります。
グループ通算制度の下でも損益通算のメリットは維持されるため、赤字会社の買収による税務メリットを狙ったM&A戦略は引き続き有効です。ただし、制度の詳細な違いを踏まえた戦略立案が必要になります。
グループ通算制度は、国際的な税制の動向も踏まえた改正となっています。今後も国際的な税制の変化に合わせて、さらなる改正が行われる可能性があります。
電子申告の義務化により、税務申告プロセスのデジタル化が進むことが予想されます。これは、企業の税務業務全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進する要因となるでしょう。
グループ通算制度は連結納税制度の基本的な枠組みを維持しつつも、実務上の負担軽減や予測可能性の向上を図った制度です。企業グループは、この制度変更を単なる税務上の対応にとどめず、グループ経営の最適化につなげる機会として捉えることが重要です。