

勝率が高いからといって、ポジションサイズを大きくすると資産がゼロになる可能性があります。
クレジットスプレッドとは、ある権利行使価格のオプションを「売り」、それよりもアウト・オブ・ザ・マネー(OTM)側の権利行使価格のオプションを同時に「買う」ことで、差し引き「受け取り(クレジット)」になるスプレッド戦略です。つまり最初にプレミアムを受け取る側に立ちながら、損失には上限を設けるという設計になっています。
通常のオプション単体売りでは、理論上「損失が無限大」になるリスクがあります。コールの裸売りは原資産価格が青天井に上昇すれば損失も際限なく膨らみますし、プットの裸売りは原資産価格がゼロまで下落すれば損失もそこまで広がります。これが個人投資家にとって単体のオプション売りが危険とされてきた理由です。
クレジットスプレッドはこの問題を解消します。売ったオプションよりも「さらに外側(より不利な条件)」のオプションを買っておくことで、ヘッジとして機能するからです。これにより最大損失はスプレッド幅から受け取ったネットプレミアムを差し引いた金額に固定されます。損失が限定されるということですね。
- 売りポジション:プレミアム受け取りの主体。時間経過(タイムディケイ)で価値が減少していくのを利益として享受する
- 買いポジション:ヘッジとして機能。損失の上限を確定させる役割を担う
- ネットプレミアム:「売りで受け取ったプレミアム」から「買いで支払ったプレミアム」を差し引いた金額。これが最大利益となる
名称の「クレジット」はまさに「受け取り(Credit)」を意味します。対義語は「デビット(支払い)」であり、ポジション組成時に支払いが発生するスプレッドは「デビットスプレッド」と呼ばれます。この「受け取り」が出発点というのが、クレジットスプレッドの最大の特徴です。
参考:JPX北浜投資塾によるクレジットスプレッドとコンドルの詳細解説
クレジットスプレッドとコンドル|JPX北浜投資塾
クレジットスプレッドには大きく2種類あります。「プット・クレジット・スプレッド」と「コール・クレジット・スプレッド」です。どちらを使うかは、相場観によって決まります。
プット・クレジット・スプレッドは「強気〜横ばい」向け
原資産が大きく下落しないだろうと見ているときに使う戦略です。高い権利行使価格のプットを売り、低い権利行使価格のプットを買います。原資産価格が売ったプットの権利行使価格を下回らなければ、受け取ったネットプレミアムがそのまま利益になります。
具体例で見てみましょう。現在価格が500ドルのS&P500 ETFがあるとします。
| 操作 | 権利行使価格 | プレミアム |
|------|------------|---------|
| プットを売る | 480ドル | +1.5ドル受け取り |
| プットを買う | 450ドル | −0.5ドル支払い |
| ネット | — | +1.0ドル受け取り |
この場合、満期時に原資産が480ドル以上であれば最大利益の1.0ドル(×100株=100ドル)が確定します。450ドルを下回った場合の最大損失は「スプレッド幅30ドル−ネットプレミアム1ドル=29ドル(×100株=2,900ドル)」です。これが条件です。
コール・クレジット・スプレッドは「弱気〜横ばい」向け
原資産が大きく上昇しないだろうと見ているときに使う戦略です。低い権利行使価格のコールを売り、高い権利行使価格のコールを買います。原資産価格が売ったコールの権利行使価格を上回らなければ利益が確定します。
日経225オプションの例(JPX北浜投資塾の事例より)では、日経平均が22,500円前後の局面で、23,000円コールを130円で売り、23,250円コールを75円で買うことで差し引き55円(=55,000円)を受け取るポジションを組んでいます。SQ値が23,000円以下で収まれば、55,000円の利益となりました。意外ですね。
2つの戦略の使い分けをまとめると次のようになります。
| 戦略 | 相場観 | 売るオプション | 買うオプション |
|------|--------|--------------|--------------|
| プット・クレジット・スプレッド | 強気〜横ばい | 高い権利行使価格のプット | 低い権利行使価格のプット |
| コール・クレジット・スプレッド | 弱気〜横ばい | 低い権利行使価格のコール | 高い権利行使価格のコール |
どちらの戦略も「相場が大きく動かない局面」ほど有利です。タイムディケイ(時間価値の減少)が常に味方に働くからです。
参考:オプション道場によるクレジットスプレッドの損益グラフ付き解説
売りの損失を限定する(クレジットスプレッド)|オプション道場
クレジットスプレッドを正しく運用するには、損益構造の数値を正確に把握することが不可欠です。多くの初心者が「勝率が高い」という点だけに目を奪われ、リスクリワードの非対称性を見落としています。これは大きな落とし穴です。
損益の計算方法
基本的な計算式はシンプルです。
- 最大利益 = 受け取ったネットプレミアム
- 最大損失 = スプレッド幅 − ネットプレミアム
- 損益分岐点(プットの場合) = 売ったプットの権利行使価格 − ネットプレミアム
例として、スプレッド幅5ドル・ネットプレミアム1ドルの場合を見ます。最大利益は100ドル(1ドル×100株)、最大損失は400ドル(4ドル×100株)です。リスクリワードで言えば「4リスクで1リターンを狙う」構造になっています。痛いですね。
勝率が高い理由と落とし穴
なぜクレジットスプレッドの勝率が高くなりやすいのか。それは「価格がある範囲に収まれば利益」という構造のため、相場が想定の範囲内で動いている限り継続的に利益を積み重ねられるからです。アウト・オブ・ザ・マネーの権利行使価格を使えば、原資産価格がかなりの距離だけ動かなければ損失にならない設計ができます。
ただし、勝率だけを追いかけると破綻します。例えば「勝率90%」に見える設定でも、1回の負けで10回分以上の利益が吹き飛ぶようなリスクリワードになっていると、長期的に資産は増えません。これが「こつこつドカン」と呼ばれるパターンです。オプション売り単体の世界では、このパターンで退場した個人投資家が少なからず存在します。
クレジットスプレッドは損失を限定しているとはいえ、スプレッド幅分の損失は確実に発生しうる点は変わりません。1回のトレードで口座全体の1〜2%以内の損失に収まるようなポジションサイジングが原則です。
ボラティリティとの関係
オプションのプレミアムはインプライド・ボラティリティ(IV)に連動します。IVが高い局面では受け取れるプレミアムが増える一方、それは市場が大きな値動きを織り込んでいるサインでもあります。プレミアムが魅力的だからと飛びつくのはリスクが高いです。
逆にIVが極端に低い局面では受け取れるプレミアムが薄く、「最大損失4に対して最大利益1」という構造でわずかなプレミアムしか受け取れない状態になりがちです。IVの水準を確認してから戦略を組むのが基本です。
参考:信用スプレッド戦略の基礎と実践をまとめた専門記事
信用スプレッド戦略の基礎と実践|tradinghack
クレジットスプレッドを理解したら、次に知っておきたいのが「コンドル戦略」です。これはコールサイドとプットサイドの両方にクレジットスプレッドを設定する複合戦略であり、「上にも下にも大きく動かない」という相場観を利益に変えるものです。
コンドル(アイアンコンドル)の仕組み
コンドル(特にコールスプレッドとプットスプレッドを組み合わせた形は「アイアンコンドル」と呼ばれます)は以下の4本のオプションで構成されます。
- プット買い(最も下の権利行使価格)
- プット売り(下から2番目の権利行使価格)
- コール売り(上から2番目の権利行使価格)
- コール買い(最も上の権利行使価格)
JPXの事例では、上側にC23000売り+C23250買い(受け取り55円)、下側にP22000売り+P21750買い(受け取り55円)を組み合わせ、合計110円(=11万円)の受け取りを実現しています。SQ値が22,000円〜23,000円の範囲内で収まれば全額利益です。
コンドルの特徴とメリット
コンドルは「上がるか下がるかをピンポイントで予測しなくていい」代わりに、「どの範囲に収まるか(着地幅)を予想する」戦略です。株やFXのような単純な方向当て取引とはまったく異なる発想です。
コンドルならではのメリットとして注目したいのは、コールとプットの両側からプレミアムを受け取れる点です。単方向のクレジットスプレッドと比べてネットプレミアムの合計が大きくなるため、リスクリワードが改善される場面があります。
また、コンドルはポジション調整の柔軟性が高い点も特徴です。相場が上側の権利行使価格に近づいてきた場合、コール側のスプレッドをより外側の権利行使価格に「ロール(組み直し)」してリスクを逃がすことができます。これを「ロールアウト」と呼びます。
独自視点:コンドルとレンジ相場の親和性
相場がトレンドを失い、いわゆる「持ち合い」状態に入ると、方向売買の戦略は損失を繰り返しやすくなります。一方、コンドルはこの局面で最も力を発揮します。レンジの幅を把握してその外側に権利行使価格を設定することで、時間が経過するだけで利益が積み上がる仕組みを作れるからです。
日経225オプションの場合、SQまでの残存日数が多い時点でコンドルを組み、残存日数が少なくなってタイムディケイが加速する局面で恩恵を受けるという使い方が一般的です。これは使えそうです。
証拠金について補足しておくと、クレジットスプレッドやコンドルは損失が限定されているため、最大損失額を超えた証拠金は通常要求されません。相場が急落・急騰しても、証拠金が青天井で膨らむという事態を避けられます。
クレジットスプレッドは損失が限定されているとはいえ、設計を誤ったり管理を怠ったりすると、口座全体に大きなダメージを与えることがあります。以下で実践上の注意点と対策を整理します。
落とし穴①:プレミアムの大きさだけで判断する
「受け取れるプレミアムが多い=おいしい取引」と考えがちですが、これは危険な思い込みです。プレミアムが多いということは、市場がそれだけ大きなリスクを見込んでいるサインです。特に、決算発表前・重要指標発表前などのイベント前にプレミアムが急増するケースが多く、こうした局面では想定外の急騰・急落が起きやすいです。
具体的な行動として、ポジションを組む前にIV(インプライド・ボラティリティ)がヒストリカルボラティリティ(実際の価格変動率)と比べてどの水準にあるかを確認する習慣をつけましょう。IVランク(IVR)と呼ばれる指標を使えば、現在のIVが過去1年の高低に対してどの位置にあるかを一目で確認できます。
落とし穴②:含み損になっても「そのうち戻る」と放置する
クレジットスプレッドは時間が経てば価値が下がっていく(タイムディケイ)という特性があります。しかし、相場が大きく動いてしまうと、タイムディケイよりも価格変動の影響(デルタ・ガンマリスク)が大きくなり、含み損が急速に拡大することがあります。
「満期まで持てば戻るかも」という根拠なき楽観は、最大損失を何度も経験するパターンにつながります。あらかじめ「受け取ったネットプレミアムの2倍の含み損になったら撤退」など、数値で決めたルールを守ることが不可欠です。出口ルールが条件です。
落とし穴③:ポジションサイズが大きすぎる
クレジットスプレッドは1回の勝ちが小さく、1回の負けが比較的大きい(リスクリワードの非対称性)という特性を持ちます。口座全体の10〜20%をひとつのポジションに賭けた場合、数回の損失で資産が大きく減少します。
目安として、1ポジションの最大損失を口座全体の1〜2%以内に抑えるサイジングが推奨されています。例えば口座が100万円であれば、1ポジションで最大1〜2万円の損失で収まる枚数に抑えるということです。これだけ覚えておけばOKです。
ロールによるポジション調整
スプレッド戦略には「ロール」という重要なテクニックがあります。相場が権利行使価格に近づいてきた場合、現在のポジションをいったん決済し、より外側の権利行使価格・または次の限月でポジションを組み直す手法です。これにより、最大損失を実現させずに相場の動きに対応することができます。
ただし、ロールを繰り返すうちに「傷口を広げる」ケースもあります。ロールは手数料が発生することと、新しいポジションでも再びリスクを負うことを忘れてはなりません。ロールは万能ではないと理解しておく必要があります。
オプション取引全般のリスクや証拠金制度について確認したい場合、日本取引所グループ(JPX)の公式サイトに詳細な情報が掲載されています。
参考:JPX公式のオプション取引解説ページ
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