インプライド・ボラティリティ計算方法のブラック・ショールズ手法からモデルフリー手法まで

インプライド・ボラティリティ計算方法のブラック・ショールズ手法からモデルフリー手法まで

インプライド・ボラティリティ計算方法

インプライド・ボラティリティ計算方法の完全ガイド
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ブラック・ショールズによる計算

オプション理論価格から逆算する基本手法

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ニュートン・ラプソン法による数値計算

高精度な数値解析アルゴリズム

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モデルフリー計算手法

権利行使価格に依存しない最新の計算手法

インプライド・ボラティリティの基本概念と計算方法の理論的背景

インプライド・ボラティリティ(Implied Volatility、IV)は、実際の市場のオプション価格をもとに算出された原資産のボラティリティであり、将来の変動率を予測したものです。これは、オプション価格理論において原資産価格のボラティリティがオプション価格を決める重要な要素の1つであることから、市場が適正と考える原資産価格のボラティリティを、オプションの市場価格から逆算して求める手法です。
参考)インプライド・ボラティリティ

 

従来からブラック・ショールズの公式を用いてインプライド・ボラティリティが計算されてきましたが、この公式は原資産価格のボラティリティをオプションの満期まで一定であると仮定するため、ボラティリティが時間を通じて変動するなら正確ではありません。この制約を理解した上で、実務家は様々な計算手法を駆使してより精度の高いボラティリティ推定を行っています。
参考)https://www.jpx.co.jp/derivatives/market-report/futures-options-report/archives/tvdivq00000029ia-att/rerk1307.pdf

 

計算方法は主に解析法数値計算法の2つのアプローチに分類されます。解析法では、微分方程式を解くことで長期間のオプション価格を計算するモデルを導き出し、これがブラック・ショールズ・モデルの基盤となっています。一方、数値計算法では連立方程式を繰り返し解くことで、段階的に価格を算出します。
参考)オプション取引入門講座 第8回 オプション価格評価法

 

インプライド・ボラティリティ計算におけるブラック・ショールズ・モデルの実装

ブラック・ショールズ・モデルによるインプライド・ボラティリティの計算には、原資産価格、権利行使価格、金利、残存期間、原資産のボラティリティという構成要素からオプション価格(理論価格)を算出します。実際の市場オプション価格をもとに同方程式の構成要素である原資産のボラティリティを逆算するアプローチにより、インプライド・ボラティリティが求められます。
参考)インプライドボラティリティ|証券用語解説集|野村證券

 

計算プロセスでは、まず試しにσ=0.20のような初期値からスタートし、他のパラメーターの値とともにブラック・ショールズ式に代入します。理論価格と市場価格の差を確認し、繰り返し法によってインプライド・ボラティリティの近似解を見つけます。この手法は計算が早いという長所がある一方で、ボラティリティ・スマイルとして知られるように、イン・ザ・マネーやアウト・オブ・ザ・マネーになっているオプションでは、インプライド・ボラティリティが高くなる現象が観測されます。
参考)https://bunkyo.repo.nii.ac.jp/record/3054/files/BKS0000021.pdf

 

実際の金融機関では、95ドルの行使価格で、3か月で有効期限が切れるオプションを想定し、原株が100ドルで取引され、無リスク金利が年間1%である場合、6ドル~25ドルの範囲のオプション価格の関数としてインプライド・ボラティリティを求める実務が行われています。このような具体的なパラメータ設定により、市場参加者の予測や期待が反映されたボラティリティ値が算出されます。
参考)https://jp.mathworks.com/help/symbolic/the-black-scholes-formula-for-call-option-price.html

 

インプライド・ボラティリティ計算にニュートン・ラプソン法を用いる数値解析手法

ニュートン・ラプソン法は、連続かつ1階微分可能な任意の関数f(x)について、f(x)=0となるxの近似解を求める数値計算手法です。インプライド・ボラティリティ計算において、この手法は**ベガ(vega)**と呼ばれる値を活用します。
参考)Mathematical Finance

 

ベガは以下の式で表される、オプション価格をボラティリティで微分した値です:
参考)市場データからボラティリティ・スマイルを確認してみた #Py…

 

ν(K, σ) = ∂c/∂σ = S(0)√T × (1/√2π) × exp[-d+²/2] > 0
この値は明らかに正であり、オプション価格がボラティリティに対して単調増加することを示します。
ニュートン・ラプソン法による計算手順は、まず市場価格cと理論価格c(K, σ)の差を求め、c = c(K, σ)を満たすようなボラティリティσを反復的に計算します。各反復において、現在の推定値σnから次の推定値σn+1を以下の更新式で求めます:
σn+1 = σn - [c(K, σn) - c] / ν(K, σn)*
この手法の優位性は、極端なオプション価格に対しても高い収束性を示すことです。従来の単純なニュートン・ラプソン法では極端な価格での収束が遅かったのに対し、新しいアルゴリズムでは対数価格による下限値を初期推定値として使用することで、全価格範囲で急速に収束するようになりました。
参考)Redirecting...

 

インプライド・ボラティリティ計算のモデルフリー手法とその優位性

モデルフリー・インプライド・ボラティリティ(Model-Free Implied Volatility、MFIV)は、特定のモデルを前提としないノンパラメトリックな手法により推定される計算手法です。この手法では、権利行使価格に依存しないかたちでボラティリティを求めることができるため、インプライド・ボラティリティの変動や期間構造(ボラティリティ・カーブ)の分析が容易になるメリットがあります。
参考)https://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/kk29-2-3.pdf

 

従来のブラック=ショールズ式に基づいて算出されるインプライド・ボラティリティ(BSIV)は、ボラティリティ・スマイルとして知られるように、一般に権利行使価格ごとに異なる値として推計されます。これに対し、MFIVでは複数のOTMプット・コールを含む広い権利行使価格帯を加重して「無裁定の30日分散」を推定します。
参考)ヒストリカル・インプライドなどボラティリティの種類と特徴を詳…

 

アメリカのシカゴ・ボード・オプション取引所(CBOE)では、VIXオプション価格からMFIVと呼ばれる指標を計算しています。日本でも、大阪証券取引所で2010年11月19日より日経平均ボラティリティ・インデックス(日経VIX)の算出が開始されました。
MFIVの計算では、観測されたオプション価格をBS公式に代入することによりインプライド・ボラティリティを逆算し、このIVをスプラインによって補間・外挿します。これら補間・外挿されたIVの値を再びBS公式に戻し、実際には市場で観測されていない権利行使価格に対応するオプション価格を求めることで、被積分関数の近似誤差をより小さくし、より正確に計算する手法です。
参考)機関リポジトリ移転のお知らせ / Institutional…

 

インプライド・ボラティリティ計算における実務応用と市場での活用事例

実務におけるインプライド・ボラティリティの計算は、金融リスク管理投資戦略策定において重要な役割を果たしています。特に、日経225株価指数オプションの取引データから日次のMFIVを推定し、ボラティリティおよびカーブの変動を分析することで、以下の市場特性が判明しています:
参考)金融研究 第29巻第2号 要約 わが国株式市場のモデルフリー…

 

  • MFIVの水準が高い時期にはその変動も大きい
  • MFIVの水準が低い局面では順カーブ、高い局面では逆カーブになる傾向がある
  • MFIVの水準は、過去1週間の原資産価格の実現変動率や欧米市場の前日のボラティリティに依存している
  • 短期のMFIVは、先行き半年程度のボラティリティ変動に対する予測力がある

VIX指数の算出では、満期までの日数が23日以上、かつ37日未満のS&P 500のオプションを使用し、満期までの日数が23日から37日までの標準オプション及び週次オプションが適格となります。このような具体的な期間設定により、30日間の年率換算インプライド・ボラティリティを示す指標として機能しています。
金融機関の実務では、プレミアムからインプライド・ボラティリティへの逆算にニュートン・ラプソン法が広く採用されています。また、リスク・リバーサル取引などの複雑な戦略においても、インプライド・ボラティリティの計算が不可欠な要素となっています。
参考)https://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/kk15-2-6.pdf

 

特筆すべきは、GARCH型モデルによるボラティリティ指数の価格付けにおいても、モデルフリー・インプライド・ボラティリティの概念が理論価格計算の基盤として活用されていることです。これにより、従来の単一モデルに依存する計算手法から、より堅牢で市場実態に即した価格算出が可能になっています。
参考)https://www.jpx.co.jp/derivatives/market-report/futures-options-report/archives/nlsgeu00000653fx-att/rerk2206_01.pdf