雇用契約書とは何か正社員が知るべき全知識

雇用契約書とは何か正社員が知るべき全知識

雇用契約書とは正社員が必ず押さえるべき基礎と実務知識

雇用契約書がなくても、口頭だけで正社員として働かせることは法的に有効です。


この記事の3つのポイント
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雇用契約書は法的義務ではない

正社員であっても、企業に雇用契約書を作成・交付する法的義務はありません。ただし、労働条件通知書の交付は義務付けられており、違反すると30万円以下の罰金が科されます。

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記載の不備が数百万円の損害につながる

固定残業代の時間数が明記されていないだけで、裁判で約180万円の未払い残業代支払い命令が出た事例があります。内容の確認が非常に重要です。

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就業規則と内容が食い違う場合の優先ルール

原則として就業規則が優先されますが、雇用契約書の内容が労働者にとって有利な場合は例外的に雇用契約書が優先されます。この違いを知っておくだけで損得が変わります。


雇用契約書とは何かを正社員向けにわかりやすく解説

雇用契約書とは、企業(雇用主)と労働者(被雇用者)の間で交わされる、労働条件に関する合意を書面化した文書です。民法第623条に基づく雇用契約の内容を、双方が署名・捺印する形で確認し合うことが主な目的です。


就業規則や賃金規程が会社全体の労働条件を集団的に定めるのに対し、雇用契約書はあくまで個別の従業員一人ひとりの労働条件を確認するものです。つまり「会社との個別の約束事を書き留めた文書」というイメージが適切です。


ここで多くの人が見落としがちな事実があります。雇用契約は、口頭のやりとりだけでも法的に成立します。書面がなくても合意さえあれば契約は有効です。ただし、口頭だけでは後々「言った・言わない」のトラブルに発展しやすいため、書面で取り交わすことが一般的な実務慣行となっています。


正社員として入社する際、企業から受け取る書類として「雇用契約書」「労働条件通知書」の2種類が存在します。これらは名称が似ていますが、法的な位置づけが大きく異なります。この違いを理解しておくと、入社時の書類確認で迷わずに済みます。


雇用契約書は双方の合意を証明する書類であり、労働者と企業の両者が署名・捺印します。一方で労働条件通知書は、企業から労働者への「通知」が目的の書類であり、企業側が一方的に交付するものです。署名や押印は不要です。


正社員の雇用契約書に含まれる記載事項と絶対的明示事項14項目

雇用契約書に何を書くべきかについて、法律上の義務がある項目と任意で書く項目があります。正社員が確認すべきなのは「絶対的明示事項」と呼ばれる、書面での明示が労働基準法施行規則で義務付けられた14項目です。


義務のある14項目は次のとおりです。①労働契約の期間、②就業の場所、③従事する業務の内容、④始業時刻、⑤終業時刻、⑥所定労働時間を超える労働の有無、⑦交替制勤務の場合の交替期日・順序、⑧休憩時間、⑨休日、⑩休暇、⑪賃金の決定・計算方法、⑫賃金の支払方法、⑬賃金の締切・支払時期、⑭退職に関する事項(解雇事由を含む)です。


これが基本です。


加えて、企業が制度として設けている場合のみ記載義務が発生する「相対的明示事項」もあります。退職手当の計算方法・支払時期、賞与や精勤手当などの臨時賃金、最低賃金額、安全衛生に関する事項、職業訓練制度、休職に関する事項などが該当します。


重要なのは「固定残業代(みなし残業代)」の扱いです。これは多くの正社員が給与に含まれているにもかかわらず、詳細を把握していないケースが少なくありません。実際に「月給25万円 残業含む」とだけ記載して固定残業代の時間数を明記しなかったことが原因で、大阪高等裁判所(平成29年3月3日判決)において会社側に約180万円の未払い残業代支払いが命じられた事例があります。痛いですね。


固定残業代を給与に含める場合は、基本給と固定残業代の金額・時間数を明確に分けて記載することが条件です。この点を曖昧にしたまま署名すると、後日トラブルの元になるリスクがあります。


雇用契約書を受け取った際には、賃金欄の内訳(基本給・各種手当・固定残業代の時間数と金額)を必ず一つひとつ照合する習慣をつけるとよいでしょう。


参考:労働基準法における労働条件明示義務の詳細(e-GOV法令検索)
e-GOV|労働基準法(法令全文・第15条 労働条件の明示)


労働条件通知書との違いと正社員が知っておくべき優先ルール

雇用契約書と労働条件通知書はしばしば混同されます。実務では「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として1枚の書類にまとめている企業も多く、区別が難しいこともあります。整理しておきましょう。


最大の違いは「法的義務の有無」です。雇用契約書の作成・交付に法的義務はありません。しかし労働条件通知書の交付は、労働基準法第15条により義務付けられています。これを守らない企業には、同法第120条に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。


| 比較項目 | 雇用契約書 | 労働条件通知書 |
|---|---|---|
| 法的な交付義務 | なし | あり(労基法第15条) |
| 署名・捺印 | 双方が行う | 不要(企業側のみ) |
| 記載事項の決まり | 特になし | 絶対的明示事項あり |
| 交付タイミング | 内定日・入社日が多い | 労働契約締結時 |
| 送付方法 | 書面が一般的 | メール・SNSも可(2019年4月〜) |


なお、2019年4月からは労働者が了承した場合に限り、労働条件通知書をメールやSNSなどの電子媒体で交付することが認められています。


もう一つ重要なのが、就業規則と雇用契約書の優先関係です。原則として就業規則のほうが強い効力を持ちます(労働契約法第12条)。しかし例外があります。雇用契約書の内容が就業規則よりも労働者に有利な場合は、雇用契約書の内容が優先されます。


たとえば、就業規則では時給1,200円と定められているのに、雇用契約書には1,350円と記載されていた場合、有利な雇用契約書の内容が適用されます。これは使えそうです。逆に、就業規則で試用期間1カ月とあるのに雇用契約書で3カ月と書かれていれば、就業規則の1カ月が有効です(徳島地方裁判所昭和45年3月31日判決)。


つまり「就業規則を下回る雇用契約書は無効、上回る場合は有効」というルールです。


参考:就業規則と雇用契約書の優先関係(労働契約法第12条の解説)
厚生労働省|労働契約法(条文・第12条 契約内容の最低基準効)


雇用契約書がない・もらえない場合に正社員が取るべき対処法

転職や就職の際に「雇用契約書がもらえない」という状況は、実は珍しくありません。法的義務がないだけに、交付しない企業も存在します。ただし、労働条件通知書は別の話です。


雇用契約書がもらえなかった場合でも、それ自体はただちに違法ではありません。しかし労働条件通知書まで交付されない場合は、労働基準法違反です。まずは会社の人事・総務担当者に対し、「労働条件通知書の交付をお願いしたい」と書面で申し出ることが最初の一手です。


申し出の際は、メールで依頼するのが記録に残るうえで有効です。以下のような文面が実用的です。


💬 依頼メール例文:
「正式な内定承諾をお返しする前に、労働条件を確認させていただきたく、労働条件通知書を書面(またはメール)でいただくことは可能でしょうか。就業開始前に内容を確認させていただけると幸いです。」


それでも交付されない場合は、労働基準監督署に相談する方法があります。監督署から企業への指導・是正勧告が行われ、それでも対応がなければ30万円以下の罰金という強制力が発動します。


また、入社後に雇用契約書や労働条件通知書の内容と実態が違うと気づいた場合も、即時対応が必要です。労働基準法第15条2項では、「明示された条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できる」と定めています。これは知っておくだけでかなり心強い条文です。


📌 なお、雇用契約書と実態が異なる場合は労働基準法違反にもなりえます。是正勧告の対象となり、社員が申告すれば会社全体に対する臨検調査が行われることもあります。こうした法的リスクを事前に知っておくことは、金融に携わる人が法令遵守意識を高める上でも直結する知識です。


正社員の雇用契約書で見落としやすい条項と金融視点でのリスク確認術

雇用契約書には、給与や勤務時間といった基本的な記載のほかに、見落とされがちな条項が複数あります。特に金融業・IT業・コンサルティング業などに就職・転職する正社員が注意すべき3つの条項を紹介します。


① 競業避止義務条項
退職後に競合他社へ転職すること、あるいは同業で独立することを制限する条項です。「退職後1年間は競合他社への転職を禁じる」などの文言が記載されていることがあります。ただし、この条項が法的に有効かどうかは、制限の地理的範囲・期間・代償措置(退職金の加算など)の有無によって判断されます。一律に有効とはなりません。


② 守秘義務条項(秘密保持義務)
在職中および退職後の情報漏洩を禁止する条項です。営業秘密・顧客情報・技術情報の取り扱いが規定されます。金融業界では特に顧客情報の取り扱いが厳しく、違反した場合は損害賠償請求の対象になります。


③ 試用期間条項
「試用期間3カ月間は本採用前」という記載がある場合、その期間中でも一定の解雇制限が適用されます。就業規則で試用期間2カ月と定めているにもかかわらず雇用契約書に3カ月と記載した場合、就業規則が優先されます(前述の判例)。試用期間の長さが就業規則と一致しているかを確認するのが原則です。


これらの条項は、金融機関や証券会社・保険会社で働く正社員にとって特に重要です。業界内での転職が多いため、競業避止義務条項の射程が広いと転職先の選択肢が大幅に狭まる可能性があります。


⬇️ 転職前に雇用契約書の競業避止・守秘義務条項の有効性を専門家に確認したい場合は、法律相談窓口や社会保険労務士への相談が選択肢の一つです。弁護士への相談は30分5,000円程度から対応している事務所も多く、リスク確認の費用対効果は高いといえます。


参考:個別の雇用契約書に関する法的判断が必要な場合の相談先について(厚生労働省)
厚生労働省公式サイト|労働相談・労働条件に関する情報