
緊急時流動性支援は、金融機関が通常の資金調達手段を利用できなくなった際の最後の手段として機能します。この制度の発動には、明確な要件が定められています。
主な発動要件。
日本銀行の場合、流動性不足に陥った金融機関に対して「最後の貸し手」として機能し、適格担保を徴求することを原則としています。ただし、コンピュータ・トラブル等の偶発的事由による一時的な資金不足の場合は、一定期間を限度に無担保での与信も可能とされています。
流動性支援制度の運用には、厳格な監督体制と明確な基準が設けられています。各国の中央銀行は、金融システムの安定維持の観点から、この制度を慎重に運用しています。
監督体制の主要ポイント。
英国FSAの例では、金融機関に対して緊急時における流動性不足への対処方針を明確に定めることを求めており、ストレス状況の各段階における対応方針と責任権限を明確化することが義務付けられています。
FX業界においても、流動性リスク管理は重要な課題となっています。特に2008年のリーマンショック以降、FX業者のリスク管理強化が進められており、緊急時の流動性確保に関する規制も強化されています。
FX業界での特徴的な要件。
2015年のスイスフランショックでは、FX業者に大きな未収金が発生し、業者のリスク管理の重要性が再認識されました。これを受けて、法人のFX取引についても過去の相場動向に基づく証拠金規制が導入され、より厳格な流動性管理が求められるようになっています。
日本の金融システムにおける緊急時流動性支援は、他国と比較していくつかの独自の特徴があります。特に、アジア金融危機や東日本大震災などの経験を踏まえた制度設計が行われています。
日本独自の特徴。
日本銀行の流動性モニタリングでは、①流動性リスク・プロファイルや管理体制、②バランスシート運営、③日々の資金繰り、④緊急時における対応の4項目を重点的にチェックしています。
また、信用秩序の維持に重大な支障が生じる恐れがあると認められる場合で、内閣総理大臣(金融庁長官に委任)および財務大臣からの要請がある場合には、無担保での貸付けを含む特別の条件による資金供給も可能とされています。
グローバル化が進む金融市場において、各国の緊急時流動性支援制度は相互に影響し合っています。特に複数の通貨を取引する金融機関では、流動性不足が複数の法域に同時に影響を及ぼす可能性が高まっています。
国際的な動向と要件の統一化。
欧州では、ECBが直接通貨取引(OMT)制度を設け、国債利回りの域内格差に対応する流動性支援を行っています。この制度は、対象国による適切な政策実施を条件として発動される仕組みとなっており、日本の制度設計にも影響を与えています。
今後は、デジタル通貨の普及やフィンテックの発展に伴い、従来の流動性管理では捉えきれないリスクが出現する可能性があります。このため、緊急時流動性支援の発動要件も、技術の進歩に合わせて継続的に見直されていくことが予想されます。
特にFX取引においては、アルゴリズム取引の普及により瞬間的な大量取引が発生するリスクが高まっており、従来の時間軸とは異なる流動性管理が求められています。金融機関には、これらの新しいリスクに対応した緊急時対応計画の策定が求められており、規制当局も発動要件の見直しを進めています。