
流動性リスク管理の体制整備において最も重要な要素は、経営陣による適切なガバナンス体制の構築です。金融機関は流動性リスクを経営上の重要な要素として位置付け、以下の7つの基本要素を整備する必要があります。
特に注目すべきは、資金繰り管理部署と流動性リスク管理部署を明確に区分し、相互に牽制する体制の重要性です。この分離により、リスクテイクと管理機能の独立性が確保され、より客観的なリスク評価が可能となります。
流動性リスクのプロファイルは、金融機関の業務内容、ビジネスモデル、調達手段の特性により大きく異なります。効果的な管理体制の構築には、以下の要素を的確に把握することが不可欠です。
主要な把握要素:
これらの要素について必要に応じて限度枠を設定し、継続的なモニタリングを実施することで、個別機関の特性に応じた管理体制を構築できます。
グローバルに活動する金融機関においては、外貨流動性リスク管理の高度化が重要な課題となっています。特にFX業務を行う金融機関では、以下の管理要素が重要視されています。
外貨流動性管理の要点:
外貨流動性リスクは円貨以上に市場環境の変化に敏感であり、特に新興国通貨については、市場流動性の急激な悪化が生じる可能性があります。そのため、通常時からの十分な流動性バッファーの確保と、危機時の対応手順の明確化が不可欠です。
近年、店頭FX取引の市場規模拡大に伴い、FX業者の決済リスクがシステミックリスクに発展する可能性が指摘されています。現在の日本の店頭FX取引市場規模を考慮すると、決済不能が発生した場合のシステミックな問題は無視できません。
FX業者向けの主要対応策:
特に興味深いのは、個人顧客のFX取引が金融市場への流動性提供機能を果たしているという側面です。顧客がネットで外貨買いの流動性を提供し、金融機関等の為替リスクを引き受ける構造となっており、この機能を維持しながらリスクを適切に管理することが重要な課題となっています。
投資ファンド業界では、2020年のCOVID-19パンデミックを受けて、流動性リスク管理の体制整備が大幅に強化されました。これらの取組みはFX業界にとっても参考になる革新的なアプローチを含んでいます。
投資ファンド業界の先進的取組み:
特に注目すべきは、「流動性リスク(投資家による解約がファンドにおける既存投資家の利益に著しい希薄化をもたらすリスク)」という定義の明確化です。この考え方をFX業界に応用すると、顧客の大量解約や取引停止が他の顧客や市場全体に与える影響を事前に評価・管理することの重要性が浮き彫りになります。
さらに、投資ファンド業界では流動性リスク管理担当者を任命し、取締役会レベルでの管理態勢の評価を実施することが求められています。この高度なガバナンス要件は、FX業者においても参考にすべき管理手法といえるでしょう。
これらの取組みは2022年1月から適用されており、FX業界においても類似の管理手法の導入が今後検討される可能性があります。特に、ストレス・シナリオの多様化と投資家行動の詳細分析は、FX業者の流動性リスク管理においても有効な手法となることが期待されます。