
自社株相続とは、会社経営者が保有する自社の株式を相続人に承継することを指します。多くの経営者が誤解しているのは、会社そのものを相続するのではなく、株式という財産権を相続するという点です。
自社株は相続財産として扱われるため、相続税の課税対象となります。株式の評価方法は会社の規模によって異なり、主に以下の方式が適用されます。
株式評価の基本方式
特に注意すべきは、相続税評価と時価評価の差です。遺留分の計算では時価評価が用いられるため、相続税評価で問題なくても、時価評価では遺留分を侵害している可能性があります。
業績の良い会社ほど株価が高くなり、相続税負担も重くなります。そのため、早期の対策が重要となります。株価の算定は複雑であり、専門的な知識が必要なため、税理士等の専門家に依頼することが一般的です。
自社株相続では、経営者の生前対策不足により様々なトラブルが発生します。最も深刻な問題は経営権の分散です。
よくあるトラブルパターン
🔸 兄弟間での株式分散
遺言がない場合、自社株も法定相続分に従って分割されます。例えば、後継者である長男と会社経営に関与しない次男・三男で株式を分け合うことになり、経営権が分散してしまいます。
🔸 遺留分侵害による争い
後継者に自社株を集中させると、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。特に株価が高い会社では、この問題が深刻化します。
🔸 相続税納税資金不足
自社株の評価額が高額でも、現金化が困難なため、相続税の納税資金を準備できないケースがあります。
🔸 名義株の問題
過去に家族や従業員の名義で株式を保有している場合、相続時に所有権を巡って争いが生じることがあります。
これらのトラブルを防ぐためには、事前の準備と家族間のコミュニケーションが欠かせません。経営者は自分の意思を明確にし、相続人全員の理解を得ることが重要です。
自社株相続における税負担軽減には、事業承継税制の活用が最も効果的です。2025年度税制改正により、特例措置の要件が一部緩和され、より利用しやすくなりました。
事業承継税制特例措置のメリット
ただし、2025年度改正前は後継者の3年以上の役員就任が必要でしたが、現在は株式承継直前の役員就任で足りるようになりました。
その他の税務対策手法
📊 生前贈与の活用
📋 株価引き下げ対策
注意すべきポイント
事業承継税制は手続きが複雑で、適用後も継続的な要件充足が必要です。また、相続時精算課税制度は「贈与時の価額」で相続財産に加算されるため、株価上昇が見込まれる場合に特に有効です。
事業承継において最も重要なのは、後継者への経営権の集中です。株式の保有割合により株主の権限が決まるため、分散した株式では重要な経営判断ができなくなります。
株主権限と必要保有割合
経営の安定には、後継者が最低でも過半数、理想的には3分の2以上の株式を保有することが望ましいとされています。
経営権確保の具体的方法
✅ 遺言書による株式承継先の明確化
遺言がない場合、遺産分割協議により株式が分散する可能性があります。経営者の意思を明確に示すことで、トラブルを回避できます。
✅ 生前贈与による段階的移転
長期間にわたって徐々に株式を移転することで、贈与税負担を抑えながら後継者への集約を図れます。
✅ 種類株式の活用
議決権制限株式や配当優先株式を発行し、経営権を維持しながら他の相続人の経済的利益を確保する方法もあります。
意外な盲点:名義株の整理
設立時の名義株や相続税対策で作った家族名義の株式が、後に問題となるケースが増えています。事業承継を検討する際は、まず株主構成の確認と名義株の整理が必要です。
自社株相続の手続きは一般的な相続よりも複雑で、専門的な知識と経験が不可欠です。手続きの流れと専門家選びのポイントを解説します。
自社株相続の手続きの流れ
1️⃣ 相続開始と株式取得
相続により株式を取得。非上場株式は譲渡制限があっても、相続では会社の承認決議は不要です。
2️⃣ 株主名簿の書き換え
会社に対して株主名簿の名義変更を請求。複数の相続人がいる場合は、代表者を決める必要があります。
3️⃣ 代表者としての地位取得
経営者の地位は相続されないため、株主総会での承認を経て新たに就任する必要があります。
4️⃣ 相続税申告
相続開始から10ヶ月以内に相続税の申告・納税が必要です。
専門家選びの重要なポイント
🎯 事業承継の実績と専門性
単なる相続税申告だけでなく、事業承継全体を見据えたアドバイスができる専門家を選ぶことが重要です。
🎯 チーム体制の充実
自社株相続では、税務だけでなく法務、会計、経営コンサルティングなど多角的な支援が必要です。ワンストップで対応できる事務所が理想的です。
🎯 継続的なサポート体制
事業承継税制の適用を受ける場合、継続的な要件充足の確認が必要です。長期的なサポートが可能な専門家を選びましょう。
費用対効果を考慮した判断
専門家への報酬は決して安くありませんが、適切な対策により数千万円から数億円の税負担軽減が可能です。初期投資として捉え、実績のある専門家に依頼することをお勧めします。
また、早期相談の重要性も忘れてはいけません。相続発生後では選択肢が限られるため、経営者が元気なうちから計画的に進めることが成功の鍵となります。