

不当労働行為に刑事罰はなく、会社側は逮捕されません。
不当労働行為とは、労働組合法(以下「労組法」)第7条に列挙された、使用者が労働者・労働組合の権利を侵害する行為の総称です。日本国憲法第28条は、すべての勤労者に「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」の労働三権を保障しており、不当労働行為の禁止はその具体化といえます。
法律が使用者に禁じている行為は、大きく分けて次の6類型です。
| 類型 | 根拠条文 | 一言説明 |
|---|---|---|
| ①不利益取扱い | 労組法7条1号前段 | 組合加入を理由にした解雇・降格など |
| ②黄犬契約 | 労組法7条1号後段 | 組合不加入・脱退を雇用条件にすること |
| ③団体交渉拒否 | 労組法7条2号 | 正当な理由なく団体交渉を断ること |
| ④支配介入 | 労組法7条3号前段 | 組合の結成・運営への介入行為 |
| ⑤経費援助 | 労組法7条3号後段 | 組合の活動資金を会社が負担すること |
| ⑥報復的不利益取扱い | 労組法7条4号 | 労働委員会への申立てに対する報復 |
「不当労働行為」と聞くと、小規模な職場だけの問題と思われがちですが、実際には大企業でも頻繁に問題となります。金融機関・証券会社・保険会社など、労働組合が組織されている企業では特に注意が必要です。これが基本です。
不当労働行為の申立件数は毎年数百件に上ります。東京都労働委員会だけで2024年(令和6年)の取扱件数は393件に達しており、決して「他人事」の話ではありません。
参考:不当労働行為の申立件数や救済制度の仕組みについては厚生労働省が詳しく公開しています。
不当労働行為の中で最も多く問題になるのが「不利益取扱い」です。これは、労働者が組合に加入したこと・組合活動をしたことを理由として、使用者がその労働者に不利益な措置を講じることを指します。
不利益取扱いに該当する行為の代表例は次のとおりです。
実際の裁判例として、教員の組合活動が問題となった「福岡教育大学事件(東京高裁平成30年6月28日)」では、組合のビラ配布活動に参加したことを理由に、大学院研究科長の任命を拒否したことが不当労働行為と認定されています。
一方、「黄犬契約(こうけんけいやく)」は、採用時や雇用継続の条件として「組合に加入しないこと」「組合を脱退すること」を求める契約です。名前は耳慣れませんが、内容は明快です。典型例は採用面接で「当社では組合活動はしないという誓約書にサインをお願いしています」と求めるケースで、これは直ちに労組法7条1号に違反します。
黄犬契約が禁止される原則は、一言で整理できます。「組合への加入・脱退を取引の材料にするのはダメ」ということです。仮に労働者側が自ら同意していたとしても、その同意自体が無効となります。
参考:不利益取扱いの成立要件について詳しい解説は以下が参考になります。
団体交渉拒否は不当労働行為の中でも特に問題となりやすい類型です。「正当な理由なく」団体交渉の申入れを断ることが禁じられており、使用者は原則として交渉に応じなければなりません。
ここで多くの使用者が見落としがちなポイントがあります。それは、「交渉の場には出席したが、誠実に交渉しなかった」場合も不当労働行為とみなされるという点です。これを「不誠実団交(ふせいじつだんこう)」と呼びます。
不誠実団交として認定されるケースは次のとおりです。
ただし、「正当な理由がある」場合は拒否できます。これは知っておくと役立ちます。たとえば「交渉が完全に行き詰まり、労使間に譲歩の余地が一切ない状態」(寿建築研究所事件・東京高裁昭和52年6月29日)や、「組合側が暴力を振るい、謝罪・誓約なしに交渉に応じる必要はない」と判断されたケースがあります。
また、ゼンショーホールディングス(「すき家」などを展開)が2014年(平成26年)、アルバイト従業員からの残業代請求に関する団体交渉を拒否したことが不当労働行為として報道されています。大企業でも油断は禁物です。
参考:団体交渉に関する詳細な法律解説は以下が参考になります。
「支配介入」とは、使用者が労働組合の結成や運営に口を出したり、組合活動を委縮させる行為です。「経費援助」はその逆に見えますが、会社が組合の活動資金を出すことで組合の独立性を損なわせる行為であり、同様に禁止されています。この2つはセットで理解するのが基本です。
支配介入の具体的な例としてよく挙げられるのは以下のとおりです。
経費援助についても注意が必要です。「組合に事務所を貸している」「組合員の会議のための出張を有給扱いにしている」「備品代・電話代を会社が負担している」といった行為が該当しえます。これは意外ですね。一見、会社が優しく労働者を支援しているように映りますが、法的には独立性を損なうリスクがある行為として禁止の対象となりえます。
ただし、法律には例外規定があります。「労働者が労働時間中に使用者と協議・交渉することを会社が許すこと」「最小限の広さの事務所の供与」「福利厚生基金への寄附」は不当労働行為から除外されています(労組法7条3号但書)。
支配介入が疑われるリスクを早期に把握するためには、自社の労使間コミュニケーション記録を定期的に確認しておくことが有効です。
多くの人が「不当労働行為をしたら逮捕される」と思い込んでいますが、実はそうではありません。不当労働行為それ自体に直接の刑事罰はなく、使用者が行為をした段階では逮捕や拘禁刑にはなりません(労組法に明文の刑事罰規定なし)。厳しいですね、と思うかもしれませんが、実際の制裁は「救済命令」への違反という間接的な形で発動します。
罰則の構造を整理します。
| 段階 | 内容 | 罰則 |
|---|---|---|
| ①不当労働行為の実行 | 解雇・団交拒否など | この時点では刑事罰なし |
| ②救済命令が確定(取消訴訟なし) | 命令に違反した場合 | 50万円以下の過料 |
| ③取消訴訟を経て命令確定 | さらに命令に違反した場合 | 1年以下の禁固 または 100万円以下の罰金刑 |
| ④民事上の責任 | 損害賠償・慰謝料 | 事案によっては数百万円以上 |
特に見落とされがちなのが民事上の損害賠償です。広島高裁平成14年1月24日の「サンデン交通貸切バス差別事件」では、不当労働行為を行った会社に対し、合計705万円の損害賠償が命じられています。また、教員に対する長年の業務外しや賃金差別が認定された事案では、慰謝料600万円が認められたケースもあります(2024年の判例)。
「解雇が不当労働行為と認定される」ことも大きなリスクです。解雇無効となれば、解雇期間中の未払い給与を全額バックペイ(遡及払い)しなければなりません。月収40万円の社員を1年間不当解雇していた場合、単純計算で480万円規模の支払いが発生します。損失は確実に大きいです。
なお、不当解雇の和解解決金については、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査(令和2年〜3年)によると、裁判による和解の中央値は300万円、労働審判の中央値は150万円となっています。
参考:罰則の詳細や救済命令の効力については以下が参考になります。
不当労働行為を受けた労働組合や組合員は、労働委員会に対して「救済申立」を行うことができます。これは費用のかからない公的手続きで、弁護士なしでも利用可能です。手続きの流れを押さえておきましょう。
ここで絶対に見落としてはいけない重要ポイントが申立期限です。不当労働行為の救済申立ができるのは、行為があった日から1年以内に限られます(労組法27条2項)。この期限は「除斥期間」と呼ばれ、時効のように中断・停止がありません。
つまり、組合員が「解雇された日から1年1か月後」に申立てをしても却下されてしまいます。期限には注意が必要です。
全労連の機関誌(2025年9月15日付)でも指摘されているとおり、民事請求権の時効が3年であることに対して、不当労働行為の救済申立期限はわずか1年です。この差は意外と知られておらず、期限を過ぎてしまい救済を受けられなかったケースも実際に存在します。
もし不当労働行為を受けたと感じたら、早期に都道府県の労働委員会や労働局の相談窓口に問い合わせることが大切です。申立準備には一定の時間がかかるため、「行為から半年以内」を目安に動き始めることが現実的な対応といえます。
参考:申立期限や手続きの流れについては厚生労働省の公式ページが詳しいです。