
同族会社の行為計算否認規定は、法人税法132条、所得税法157条、相続税法64条に規定されている。この規定は、少数の株主によって支配される同族会社が、税負担を不当に減少させる異常な取引を行うことを防ぐために設けられている。
適用要件は以下の3つです。
この規定の特徴は、個別的否認規定では対処できない様々な租税回避パターンに対応するため、「やや一般的な否認規定」として機能していることです。
租税回避行為の代表例として、タックスヘイブンを利用した手法があります。税率の極めて低い国や地域に子会社を設立し、親会社との取引を通じて所得を移転させることで、日本での法人税負担を大幅に軽減する方法です。
賃料に関する具体的な判例として、高松地裁平成24年11月7日判決があります。この事案では、個人が自分が代表者である会社に土地を賃貸し、会社が第三者に転貸していたケースで、会社が得ている賃料と比較して個人が受領している賃料が不当に低額であるとして、同族会社の行為計算否認が適用されました。
裁判所は「専ら経済的、実質的見地において、当該行為又は計算が通常の経済人の行為として不合理、不自然なものと認められる場合」に否認対象となると判断しています。
東京高裁平成27年3月25日判決は、同族会社の行為計算否認規定について従来よりも踏み込んだ判断基準を示しました。従来は「異常ないし変則的であり、かつ、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しない」ことの立証が必要とされていました。
しかし、控訴審では税務当局の主張を認め、「独立当事者間の通常の取引とは異なっていることを主張立証すればよい」という新たな基準を示しました。この判断により、税務当局が同族会社の行為計算否認規定を適用する際のハードルが下がることになりました。
この変化により、実務では移転価格の専門家との協働による検討が重要となっています。独立当事者間価格の分析を中心とするアプローチがより容易になったためです。
最高裁判所(第一小法廷)は令和4年4月21日、同族会社等の行為計算否認の適用について争われていた事件で国側の上告を棄却しました。この判決は、ユニバーサルミュージック事件として注目されており、同族会社の行為計算否認の適用範囲について重要な示唆を与えています。
増資先行型の擬似DES取引が租税回避行為として法人税法132条により否認された事例もあります。この事件では、額面株式制度下において、同族会社が高額な払込金額による子会社増資新株の引受けと関連会社への低額譲渡により有価証券売却損を計上し、法人税負担を減少させようとした行為が否認されました。
国税庁の研究においても、租税回避行為には「否認されるべき行為と否認されるべきではない行為」が存在し、その判断基準は「税負担の不当減少」の有無によるとされています。
FX取引で利益を上げている個人投資家が同族会社を設立して法人化する際、特に注意すべき租税回避リスクがあります。個人と法人間での取引において、適正な価格設定が行われていない場合、行為計算否認の対象となる可能性があります。
具体的なリスク要因として以下が挙げられます。
対策として重要なのは、常に独立当事者間取引を意識することです。第三者との契約条件と同等の条件設定を心がけ、経済的合理性のある取引構造を構築することが必要です。
また、税務調査に備えて取引の合理性を説明できる資料の整備も重要です。市場価格の調査資料や同業他社との比較データなど、客観的な根拠を準備しておくことで、行為計算否認のリスクを軽減できます。
武富士事件のように国税局が敗訴した事例もありますが、その後の税法改正により同様の手法は使えなくなっており、常に最新の税制動向を把握することが重要です。