
相続放棄をした場合、その人は最初から相続人ではなかったものとして扱われますが、被相続人の借金が消滅するわけではありません。借金の返済義務は、次の順位の相続人に自動的に移転します。
相続の順位は以下のように決まっています。
例えば、親が借金を残して亡くなり、長女、次女、三女の3人の子どもがいる場合を考えてみましょう。長女だけが相続放棄をすると、借金は次女と三女が2分の1ずつ負担することになります。重要なのは、借金の総額は変わらないため、残った相続人の負担が重くなることです。
さらに、子ども全員が相続放棄をした場合、相続権は第2順位の親や祖父母に移ります。親や祖父母がすでに亡くなっている場合は、第3順位の兄弟姉妹や甥・姪に相続権が移転します。このように、相続放棄は連鎖的に影響を与える可能性があります。
法定相続人全員が相続放棄をした場合でも、借金が自動的に消滅することはありません。この場合、相続財産清算人という専門家が家庭裁判所から選任され、被相続人の財産と借金の清算手続きを行います。
相続財産清算人の役割は以下の通りです。
相続財産清算人は、被相続人の財産の範囲内でのみ借金を返済します。つまり、プラスの財産が1000万円で借金が1500万円だった場合、1000万円のみが返済され、残りの500万円については債権者は回収できなくなります。
ただし、この制度にも重要な例外があります。被相続人に連帯保証人がいる場合、連帯保証人は引き続き借金の返済義務を負います。相続放棄によって連帯保証人としての責任が免除されることはありません。
相続放棄をする際に特に注意すべきなのは、連帯保証人としての責任は相続放棄では免れないという点です。これは多くの人が見落としがちな重要なポイントです。
具体的な例で説明すると、父親が事業資金として銀行から借入を行い、その際に息子が連帯保証人になっていたとします。父親が亡くなった後、息子が相続放棄をしても、連帯保証人としての責任は継続します。
連帯保証人の責任が残る理由。
この場合、全相続人が相続放棄をしても、連帯保証人は借金の全額について返済義務を負います。相続財産清算人が一部を返済したとしても、残額については連帯保証人に請求が行われます。
そのため、相続放棄を検討する際は、被相続人の借金について誰が連帯保証人になっているかを必ず確認する必要があります。親族間で連帯保証関係がある場合は、相続放棄だけでは根本的な解決にならない可能性があります。
相続放棄を行うためには、自分が相続人であることを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所での申立てが必要です。この期限を過ぎると、原則として相続放棄は認められず、借金も含めて相続することになります。
相続放棄の手続きに必要な書類。
費用は収入印紙800円と郵送料が基本ですが、弁護士に依頼する場合は10万円~20万円程度の費用がかかることが一般的です。
注意すべき点として、相続放棄の申立てが受理される前に被相続人の財産を処分したり使用したりすると、相続を承認したものとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。また、一度相続放棄が受理されると、原則として取り消すことはできません。
相続放棄を検討している場合は、次順位の相続人にも必ず連絡を取り、全体的な対応を協議することが重要です。突然相続人となった親族が戸惑わないよう、事前の相談と調整が必要です。
相続放棄を適切に判断するためには、被相続人の借金の全容を正確に把握することが不可欠です。多くの場合、家族でも被相続人の借金を完全に把握していないため、想定外の借金が後から発覚するリスクがあります。
効果的な借金調査の方法。
特に見落としやすいのは以下のような借金です。
プラスの財産と借金を比較して、プラスの財産が上回る場合は限定承認という選択肢もあります。限定承認では、プラスの財産の範囲内でのみ借金を返済し、それを超える部分については返済義務を負いません。
ただし、限定承認は相続人全員で行う必要があり、手続きも複雑です。また、限定承認を選択すると、被相続人の財産を時価で売却したものとみなされ、譲渡所得税が発生する可能性もあります。
相続放棄か限定承認かの判断基準。
専門家による財産調査を依頼する場合の費用は30万円~50万円程度ですが、見落としによる後々のトラブルを考えると、投資価値のある支出といえます。特に事業を営んでいた被相続人の場合は、複雑な債務関係があることが多いため、専門家の調査が重要になります。
相続に関する専門的な判断については、相続専門の弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。