相続放棄固定資産税の支払義務が残るケースと対処方法を解説

相続放棄固定資産税の支払義務が残るケースと対処方法を解説

相続放棄固定資産税の支払義務と対処法

相続放棄固定資産税のポイント
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台帳課税主義

1月1日時点で課税台帳に登録されている人が納税義務者となる

タイミングが重要

年をまたいで相続放棄すると支払義務が残る可能性

💡
適切な対処法

役所への早めの連絡と相続放棄手続きの迅速な完了が必要

相続放棄固定資産税の基本的な仕組みと台帳課税主義

相続放棄をすれば、原則として被相続人の債務や税金の支払義務は引き継がれません。しかし、固定資産税については特殊な制度である「台帳課税主義」が採用されているため、相続放棄をしても支払義務が残る場合があります。

 

台帳課税主義とは
固定資産税は、1月1日(賦課期日)時点で固定資産課税台帳に所有者として登録されている人に課税される制度です。この制度により、以下の特徴があります。

  • 登記簿上の所有者ではなく、課税台帳上の所有者が納税義務者となる
  • 真の所有者でなくても、台帳に登録されていれば納税義務が発生する
  • 市区町村が所有者の調査を効率的に行うために採用されている制度

相続放棄の効力との関係
相続放棄は民法939条により、相続開始時(被相続人の死亡時)に遡って効力が発生し、初めから相続人ではなかったものとみなされます。しかし、固定資産税の台帳課税主義は地方税法343条に基づく独立した制度であるため、相続放棄の効力と台帳課税主義が競合することがあります。

 

相続放棄しても固定資産税が請求される理由と法的根拠

相続放棄をしても固定資産税の支払義務が残る理由は、地方税法343条2項の規定にあります。この条文では、「所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前に死亡しているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者」が納税義務者となると定められています。

 

最高裁判所の判例
最高裁平成26年9月25日の判決では、台帳課税主義の優先性が確認されています。この判例により、以下の原則が確立されました。

  • 課税台帳に登録されている者が優先的に納税義務者となる
  • 真の所有者でなくても、台帳登録者に納税義務が発生する
  • 相続放棄をしても、台帳課税主義が優先される場合がある

実務上の取り扱い
市区町村の固定資産税担当部署では、被相続人の死亡を把握すると、相続人調査を行い課税台帳を更新します。この調査は以下の流れで行われます。

  1. 被相続人の死亡届の情報を基に相続人を特定
  2. 相続人代表者指定届の提出を求める
  3. 課税台帳に相続人を登録
  4. 納税通知書を送付

相続放棄の手続きが完了していない段階で課税台帳への登録が行われると、相続放棄後も支払義務が残る可能性があります。

 

相続放棄固定資産税の支払義務が生じる具体的なケース

相続放棄をしても固定資産税の支払義務が生じるケースは、主に相続放棄の完了時期によって決まります。以下に具体的なケースを示します。
年をまたいで相続放棄が完了した場合
被相続人が令和6年11月に死亡し、相続放棄の申述を同年12月に行ったが、家庭裁判所での受理が令和7年1月になった場合。

  • 令和7年1月1日時点では、まだ相続放棄が完了していない
  • 課税台帳に相続人として登録される
  • 令和7年度の固定資産税の納税義務が発生する
  • その後相続放棄が受理されても、令和7年度分の支払義務は残る

年内に相続放棄が完了した場合
被相続人が令和6年3月に死亡し、相続放棄の申述を同年4月に行い、同年5月に受理された場合。

  • 令和7年1月1日より前に相続放棄が完了している
  • 課税台帳への登録を避けることができる
  • 固定資産税の納税義務は発生しない

相続放棄手続き中に納税通知書が届いた場合
被相続人が2月~6月に死亡し、相続放棄の手続きを行っている最中に固定資産税の納税通知書(4月~6月に送付)が届く場合があります。この場合。

  • 支払いをしてしまうと単純承認とみなされるリスクがある
  • 役所に相続放棄検討中であることを説明し、支払いを保留する必要がある
  • 相続放棄が認められれば支払義務はなくなる

滞納分がある場合の注意点
被相続人が固定資産税を滞納していた場合、以下の点に注意が必要です。

  • 滞納分も含めて相続債務となる
  • 延滞税や督促手数料も加算される可能性がある
  • 不動産の価値よりも滞納額が大きい場合は、相続放棄を検討すべき

相続放棄固定資産税の請求を避けるための対処法

相続放棄をする際に固定資産税の支払義務を避けるためには、適切なタイミングでの手続きと役所への連絡が重要です。

 

12月31日までの相続放棄完了
最も確実な方法は、被相続人が死亡した年の12月31日までに相続放棄を完了することです。

  • 家庭裁判所への申述は原則3ヶ月以内に行う
  • 申述から受理まで1ヶ月程度の時間が必要
  • 年末に近い時期の死亡の場合は、迅速な手続きが必要

役所への早期連絡
相続放棄を検討している場合は、市区町村の固定資産税担当部署に早めに連絡することが重要です。

  • 相続放棄を検討中であることを伝える
  • 納税通知書の送付停止を依頼する
  • 相続放棄受理証明書のコピーを後日提出する旨を連絡

相続放棄受理証明書の提出
相続放棄が受理された後は、速やかに市区町村に受理証明書のコピーを提出します。

  • 提出により翌年度以降の固定資産税が課税されなくなる
  • 提出が遅れると、翌年度分の納税通知書が送付される可能性がある
  • 複数の市区町村に不動産がある場合は、それぞれに提出が必要

代理人による手続き
専門家に依頼することで、適切なタイミングでの手続きが可能になります。

  • 司法書士や弁護士による相続放棄申述の代理
  • 役所への連絡や書類提出の代行
  • 相続財産の調査と相続放棄の判断支援

相続放棄固定資産税でよくある質問と意外な注意点

相続放棄と固定資産税に関する実務上よくある質問と、あまり知られていない注意点をまとめました。

 

Q: 相続放棄後に固定資産税を支払ってしまった場合はどうすればよいですか?
相続放棄後に誤って固定資産税を支払ってしまった場合、市区町村に対して還付請求を行うことができます。

  • 相続放棄受理証明書を添付して還付請求書を提出
  • 通常は地方税法の規定により5年間は還付請求が可能
  • ただし、自治体によって手続きが異なる場合があるため事前確認が必要

Q: 共有名義の不動産の場合はどうなりますか?
被相続人が他の人と共有で不動産を所有していた場合の固定資産税の取り扱い。

  • 共有者全員が連帯して納税義務を負う(地方税法10条の2)
  • 相続放棄をしても、他の共有者への影響は基本的にない
  • ただし、持分割合に応じた按分計算が行われる場合がある

意外な注意点:空き家特例の取り消し
相続放棄により所有者不明となった空き家について、以下の問題が生じる可能性があります。

  • 空き家対策特別措置法による「特定空家」への指定リスク
  • 固定資産税の住宅用地特例(6分の1軽減)の適用除外
  • 行政による略式代執行の費用請求(相続放棄しても管理責任が残る場合)

家庭裁判所の3ヶ月経過後の相続放棄
通常は相続開始から3ヶ月以内に申述が必要ですが、以下の場合は例外的に認められることがあります。

  • 相続財産の存在を知らなかった合理的理由がある場合
  • 固定資産税の納税通知書により初めて不動産の存在を知った場合
  • 被相続人との関係が疎遠で、死亡の事実を知るのが遅れた場合

相続放棄と管理責任
相続放棄をしても、以下の管理責任が残る場合があります(民法940条)。

  • 次順位相続人が相続財産の管理を始めるまでの間の管理義務
  • 建物の倒壊や土地からの越境問題への対応責任
  • 相続財産管理人の選任申立てが必要な場合の費用負担

これらの管理責任は固定資産税とは別の問題ですが、実務上混同されやすいため注意が必要です。特に、近隣への損害が発生した場合の賠償責任については、相続放棄後も一定期間残る可能性があるため、専門家への相談が推奨されます。