相続放棄遺族年金受給可能な理由と手続き

相続放棄遺族年金受給可能な理由と手続き

相続放棄と遺族年金の関係

相続放棄をしても受け取れる年金の概要
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遺族年金は受給者固有の権利

相続財産ではないため相続放棄の影響を受けません

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未支給年金も受給可能

亡くなった方がまだ受け取っていない年金も対象

⚖️
最高裁判例で確定

法的根拠が明確で安心して受給できます

相続放棄しても遺族年金受給が可能な理由

相続放棄をした場合でも、遺族年金を受け取ることができるのは、遺族年金が相続財産ではなく受給者固有の権利として法律で定められているためです。

 

遺族年金には以下の2種類があります。

  • 遺族基礎年金国民年金の被保険者が亡くなった時に支給
  • 遺族厚生年金:厚生年金の被保険者が亡くなった時に支給

これらの年金は、亡くなった方によって生計が維持されていた遺族に対して支給されるものであり、相続によって受け取る財産とは性質が異なります。

 

法的根拠について
最高裁判所の平成7年11月7日判決において、未支給年金は相続財産ではないという見解が明確に示されています。この判例により、相続放棄をした場合でも年金受給に影響がないことが法的に確定しています。

 

年金法では相続とは関係なく、独自の立場で遺族年金の受給権を定めているため、相続放棄の手続きを行っても、要件を満たす限り遺族年金を受給することが可能です。

 

相続放棄における未支給年金の取り扱い

未支給年金とは何か
未支給年金とは、亡くなった年金受給者がまだ受け取っていない年金のことを指します。年金の支給は基本的に毎年偶数月(2月、4月、6月、8月、10月、12月)に前月と前々月分が支給されるため、亡くなったタイミングによっては受け取れていない年金が発生します。

 

例えば。

  • 9月20日に亡くなった場合
  • 8月分と9月分の年金は10月に支給予定
  • 本人は受け取れないため未支給年金となる

未支給年金の受給権者
未支給年金を受給できる権利がある人は、亡くなった年金受給者とともに生計を立てていた人です。受給順位は以下の通りです。

  1. 配偶者
  2. 父母
  3. 祖父母
  4. 兄弟姉妹
  5. その他の3親等内の親族

未支給年金も遺族年金と同様に、相続財産には該当しないため、相続放棄をしても受給することが可能です。

 

相続放棄後の遺族年金受給手続きと注意点

遺族年金の受給要件
遺族基礎年金の受給には以下の要件を満たす必要があります。

  • 亡くなった方が国民年金の被保険者であったこと
  • 一定の保険料納付要件を満たしていること
  • 受給者が亡くなった方によって生計が維持されていたこと
  • 受給者が子どものいる配偶者、または子どもであること

遺族厚生年金の場合は、受給対象者の範囲が遺族基礎年金よりも広く設定されています。

 

受給手続きの流れ

  1. 死亡届の提出:年金事務所への死亡届提出
  2. 年金受給権の停止手続き
  3. 遺族年金の申請:必要書類を準備して申請
  4. 未支給年金の請求:該当する場合は同時に手続き

重要な注意事項

  • 申請の時効は5年:期限を過ぎると過去分を受給できない可能性
  • 自動支給ではない:申請手続きをしないと受け取れません
  • 相続放棄との順序:遺族年金受給後でも相続放棄は可能

民法921条1項では「相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき、相続を承認したとみなす」と規定されていますが、遺族年金は相続財産に該当しないため、受給していても相続放棄に影響しません。

 

相続放棄前に知っておくべき遺族年金の種類

国民年金関連の給付
遺族基礎年金以外にも、国民年金制度には以下の給付があります。

  • 寡婦年金:夫が国民年金第1号被保険者として25年以上保険料を納付し、何も年金を受給せずに亡くなった場合に妻に支給
  • 死亡一時金:国民年金第1号被保険者として36ヶ月以上保険料を納付し、老齢基礎年金や障害基礎年金を受給せずに亡くなった場合に遺族が受給

厚生年金・共済年金関連
厚生年金制度や共済年金制度からも遺族年金が支給されます。

  • 遺族厚生年金:厚生年金被保険者が亡くなった場合
  • 国家公務員等共済組合法による共済年金
  • 国民年金の遺族共済年金

これらすべての年金制度において、相続放棄をしても受給資格に影響はありません

 

受給額の計算方法
遺族基礎年金の年額(令和6年度)。

  • 基本額:816,000円
  • 子の加算額:1人目・2人目 各234,800円、3人目以降 各78,300円

遺族厚生年金の場合は、亡くなった方の厚生年金加入期間や平均標準報酬額に基づいて計算されます。

 

相続放棄と遺族年金受給のタイミング戦略

最適な手続きタイミング
相続放棄と遺族年金受給の手続きには、それぞれ異なる期限が設定されているため、戦略的なタイミング調整が重要です。
相続放棄の期限。

  • 原則3ヶ月以内:相続があったことを知った日から
  • 家庭裁判所への申述が必要

遺族年金の申請。

  • 時効5年:受給権発生から
  • できるだけ早期の申請が推奨

同時進行のメリット
遺族年金の受給手続きと相続放棄手続きを同時に進めることで、以下のメリットがあります。

  • 経済的な安定確保:遺族年金により当面の生活費を確保
  • 債務整理の時間確保:相続放棄により借金等を回避
  • 手続きの効率化:必要書類の重複を避けられる

専門家への相談タイミング
複雑な状況では専門家への早期相談が効果的です。

  • 相続財産と債務の調査が困難な場合
  • 複数の年金制度が関わる場合
  • 家族間で意見が分かれている場合

遺族年金に関する詳細な情報は日本年金機構の公式サイトで確認できます。

 

https://www.nenkin.go.jp/
税務上の取り扱い
遺族年金は所得税の課税対象外となるため、確定申告の必要はありません。一方で、相続税の計算には含まれないため、相続税対策としての効果はありません。

 

相続放棄を検討している場合でも、遺族年金は確実に受給できる貴重な収入源となります。手続きの順序や期限を正しく理解し、適切なタイミングで申請を行うことで、経済的な不安を軽減しながら相続問題に対処することが可能です。