
その他有価証券評価差額金とは、売買目的有価証券、満期保有目的債券、子会社株式・関連会社株式以外の有価証券を時価評価した際に発生する評価差額を計上する勘定科目です。具体的には、取得価額と期末時価との差額を表す項目として位置づけられています。
企業が保有する有価証券は会計上4つに分類されます。
このうち、その他有価証券は将来の資金需要に備えて保有する株式や債券などが該当し、短期的な売買を前提としない投資として位置づけられています。
期末決算時には時価評価を行い、例えば1万円で購入した株式の期末時価が1万1千円の場合、差額の1千円がその他有価証券評価差額金として計上されます。
その他有価証券評価差額金が純資産の部に表示される理由は、その他有価証券の性質にあります。売買目的有価証券とは異なり、その他有価証券は必ずしも売却するとは限らず、評価益を収益として計上することが適切ではないためです。
純資産の部への計上には以下の特徴があります。
このような背景から、評価差額は当期の損益ではなく純資産の部に計上され、「評価・換算差額等」の区分に表示されます。
その他有価証券評価差額金には税効果会計が適用され、純資産の部において他の剰余金と区分して記載されます。税効果会計とは、会計上の税金と実際の税金の間に生じる差異を調整する仕組みです。
税効果会計の適用プロセス。
決算整理仕訳の例
その他有価証券 100 | 繰延税金負債 30
| その他評価差額金 70
この仕訳により、時価評価100のうち税金部分30は繰延税金負債として計上し、税引後の70がその他有価証券評価差額金として純資産に表示されます。
税効果を適用する理由は、「売却したらどうなるか」を適切に表現するためです。仮に有価証券を売却した場合の税金負担を事前に認識することで、より実態を反映した財務状況を開示できます。
その他有価証券の評価差額には、全部純資産直入法と部分純資産直入法の2つの処理方法があります。
全部純資産直入法。
部分純資産直入法。
処理方法の選択は、株式・債券等の有価証券の種類ごとに両方法を区分して適用することも認められています。
洗替法の適用。
期末時の時価評価に基づいて計上したその他有価証券評価差額金は、翌期首において取得価額に洗い替える処理を行います。この洗替法により、毎期末に新たな評価差額を計算・計上することになります。
その他有価証券評価差額金の実務運用において、多くの企業が見落としがちな重要ポイントがあります。
連結財務諸表での特別な取扱い。
連結財務諸表においては、子会社等が計上したその他有価証券評価差額金について独特の処理が必要です。子会社の株式取得後に発生し連結貸借対照表の純資産の部に計上された金額は、資本連結手続上取得後剰余金に準じて取り扱われ、子会社への投資に係る一時差異を構成します。
時価下落時の特別ルール。
時価が著しく下落した場合の回復可能性の判断は、実務上最も複雑な論点の一つです。単に時価が下落しただけでなく、「著しく下落」の基準や回復可能性の合理的な根拠が求められます。
公益法人における新基準の影響。
令和7年(2025年)4月から施行される新公益法人会計基準では、旧基準で正味財産増減計算書に計上されていた評価差額が純資産の部に直接計上されるように変更されます。この変更により、公益法人の財務報告の透明性向上が期待されています。
評価差額金の投資判断への活用。
その他有価証券評価差額金が多ければ含み益が多く発生していることを示し、マイナスであれば含み損が発生していることを表します。これらの情報は投資家にとって重要な判断材料となりますが、個別銘柄毎ではなく手持ちの有価証券全体として評価される点に注意が必要です。
実務担当者は、これらの独自視点を理解することで、より適切な会計処理と財務報告の品質向上を図ることができます。特に税効果会計の適用や連結における取扱いについては、専門的な知識が要求されるため、継続的な学習と専門家への相談が重要です。