

経理実務で最初に押さえるべきは、「その書類が何を確定させるのか」です。納品書は、売り手が商品・サービスを提供した事実と内容(品名、数量、納品日など)を示し、買い手が発注どおりに受け取ったか確認するために使われます。つまり納品書は“納品内容の証明”に強い書類です。
一方、請求書は代金の支払いを求める書類で、支払期限・振込先・請求金額など、支払い処理のための情報を集約します。買い手側の経理では、請求書があることで「債務(支払うべき金額)がいつ確定したか」を管理しやすくなるため、発行日や締め日運用とセットで重要になります。請求書の発行日が「実際に作成した日」ではなく、締め日や納品完了日に合わせるケースが一般的とされる点は、伝票日付の統一に影響します。
また、両者は“似た書式”になりがちですが、似ているほど運用ミスが起きます。たとえば、納品書しかない取引で「支払期限がどこにも書かれていない」、請求書しかない取引で「検収(納品の確認)をいつしたか証憑で追えない」といった監査・調査対応上の弱点が出ます。書類の役割を分けて理解すると、どの情報が欠けたら危険かが見えてきます。
納品書は、原則として「納品の都度、納品と同時」に発行される運用が一般的です。現場では商品に同梱されていたり、役務提供なら作業完了時にメール添付で送られたりします。ここで重要なのは、納品書は“取引の発生(納品)”に寄り添って出てくる点で、締め処理の都合とは別に動くことがある、ということです。
請求書の発行タイミングは、単発取引なら納品ごと、継続取引なら締め日にまとめて請求、という二系統が混在しやすい領域です。掛売方式(締め請求)の場合は「決められた締め日」、都度方式の場合は「納品完了日」に発行日を合わせるケースが多いとされ、社内の売上計上・買掛計上の基準(いつ計上するか)と齟齬が出ないように運用設計が必要です。
さらに現場で起きがちな落とし穴が「請求書の再発行」です。紛失や未着で再発行する場合、日付を変えると二重計上や二重支払いのリスクが増え、改ざん疑念にもつながり得るため、日付変更は慎重に扱うべきとされています。経理としては、再発行フロー(再発行番号、再発行印、PDFファイル名規則)まで決めておくと事故が減ります。
「記載項目」は、単なる書き方の話ではなく、仕入税額控除や税務調査耐性に直結します。納品書は厳密な統一ルールがないと言われがちですが、税務上の要請(帳簿+請求書等の保存)を満たす観点で、発行者名、宛名、取引年月日、取引内容、税率ごとの金額など、最低限外せない情報があります。
インボイス制度下では、納品書や請求書といった「請求書等」に該当する書類が、要件を満たせば適格請求書として扱われます。適格請求書に求められる代表的な記載事項は、登録番号、取引年月日、取引内容(軽減税率対象の明示を含む)、税率ごとの対価と適用税率、税率ごとの消費税額、相手方の氏名または名称などです。これらは国税庁の整理が最も一次情報として強く、社内規程・チェックリストの根拠にできます。
ここで実務的に「意外と効く」論点が、複数書類で要件を満たす設計です。納品書と請求書の両方を発行している場合、インボイス要件をどちらか片方で完璧に満たす、または双方で不足を補完する、といった組み方が現場では起こります。補完する場合は、相互の関連性(同一取引であること)が第三者に追える管理(番号の突合、発注番号の共通化、電子保存時のリンク)を必ずセットにしてください。
参考:適格請求書(インボイス)に必要な記載事項(チェックリストの根拠に使える)
国税庁:No.6625 適格請求書等の記載事項
経理の現場では「発行より保存」が長期戦です。適格請求書等(インボイス)に該当する請求書・納品書等は、原則として一定期間の保存が仕入税額控除の要件になります。保存期間の起算についても、単に「7年」と覚えるのではなく、「課税期間の末日の翌日から一定期間経過後に起算」といった独特の数え方があり、社内の保存期限設定(廃棄ルール)に影響します。
電子帳簿保存法まわりでは、特に「電子取引」で受け取ったデータの扱いが重要です。メール添付PDF、クラウド請求書のダウンロード、EDIでの授受など、電子的に授受した請求書・納品書は、紙に印刷して終わりではなく、データで保存する運用が基本線になります。2024年以降、電子取引データの電子保存が原則として求められる方向が明確になり、検索要件・真実性の担保(改ざん防止)とあわせて、経理の運用負荷が増えやすい領域です。
また、インボイスと電子保存が絡むと「どのファイルがインボイス要件を満たしているのか」が監査で問われます。おすすめは、①ファイル名に取引先+日付+伝票番号、②納品書と請求書を同一フォルダ(または同一取引ID)に紐づけ、③税率別金額・登録番号の有無を受領時点でチェック、の3点を最低限の標準化として決めることです。
参考:電子帳簿保存制度の全体像(電子取引データ保存の考え方を確認できる)
国税庁:電子帳簿等保存制度 特設サイト
検索上位の記事は「役割・タイミング・記載項目」で整理するものが多い一方、経理の品質を左右するのは“番号設計”です。納品書番号・請求書番号・発注番号・検収番号がバラバラだと、月末の突合で時間が溶け、ミスが増えます。逆に、番号の付け方を「誰が見ても追跡できる」形に統一すると、書類の違いが原因の混乱が減ります。
具体的には、次のようなルールが効きます(システム導入なしでも開始可能です)。
✅ 推奨ルール(例)
この設計は、二重請求・架空請求・差し替えといった不正対策にも直結します。請求書だけ見て承認すると、納品がないのに支払う事故が起き得ますが、請求書→納品書→検収(または受領)→発注、のチェーンが番号で追えれば、承認者が一瞬で違和感に気づけます。特に外注費・広告費・業務委託など「形が残りにくい取引」ほど、納品(成果物)をどう証憑化するかが争点になりやすいので、納品書を“成果物の特定に強い書類”として育てるのが有効です。
最後に、納品書と請求書を「兼用(納品書兼請求書)」にする運用もありますが、兼用するほど記載漏れのリスクは上がります。兼用するなら、インボイス要件(登録番号・税率別・消費税額等)と、支払条件(支払期限・振込先)と、納品事実(納品日・品目・数量)が1枚で完結しているかを、テンプレート段階で固定化してください。テンプレートが固まれば、担当者のスキル差に左右されにくくなり、属人化も抑えられます。