危険負担の民法条文を正しく読んで損失を防ぐ方法

危険負担の民法条文を正しく読んで損失を防ぐ方法

危険負担の民法条文と改正ポイントを正しく理解する方法

契約書に「危険負担は買主が負う」と書いてあっても、その条文は無効になる場合があります。


この記事の3つのポイント
⚖️
民法536条・567条が危険負担の核心

2020年改正により、債権者主義が廃止され債務者主義に統一。条文の読み方を知ると、自分が有利な立場かどうかが一目でわかります。

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「引渡し時」が危険移転の境界線

旧民法では移転時期が不明確でしたが、改正後は引渡し時が明文化。この1点を知るだけで不動産取引のリスク管理が大きく変わります。

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危険負担は任意規定なので契約書が最優先

民法の規定より契約書の特約が優先されます。署名前に危険負担条項を確認しないと、数百万円の損失リスクを抱えたまま契約してしまう恐れがあります。


危険負担とは何か:民法が定める条文の意味


危険負担とは、売買契約などの双務契約が成立した後に、売主・買主どちらにも責任のない理由で目的物が滅失・損傷してしまい、一方の債務が履行できなくなった場合に、そのリスク(損害)をどちらが負うかを決めるルールのことです。


たとえば、3,000万円の中古マンションを購入する売買契約を締結したとします。引渡し前日に大地震が発生し、マンションが倒壊してしまいました。売主にも買主にも責任はありません。このとき、買主はそのまま3,000万円を支払わなければならないのでしょうか?この問いに答えるのが危険負担のルールです。


「双務契約」という言葉がポイントです。双務契約とは、売主の「引渡し債務」と買主の「代金支払い債務」のように、両者の債務が対価関係にある契約を指します。売買契約、請負契約、賃貸借契約などが代表例です。


一方の債務が消滅したとき、もう一方の債務はどうなるか。これが危険負担の本質です。


金融の観点から言えば、危険負担は「誰がどのタイミングで損失リスクを引き受けるか」を定めるルールとも言えます。不動産投資家や事業者にとって、このルールを正確に理解することは、想定外の損失を防ぐ上で欠かせません。


危険負担の民法条文:536条と567条の違いを正確に知る

危険負担に関する主要な民法条文は2つあります。民法536条と民法567条です。この2つは役割が異なります。


民法第536条(債務者の危険負担等)は、引渡しが行われる前の段階における危険負担の原則を定めています。条文は以下の通りです。


第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。


2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。



1項が原則ルール、2項が例外ルールです。1項は「双方に責任がない場合、買主は代金支払いを拒める」という意味です。2項は「買主(債権者)の責任で引渡しができなくなった場合、買主は支払い拒絶ができない」という意味になります。


民法第567条(目的物の滅失等についての危険の移転)は、「引渡し」という基準時を設けた条文です。


第五百六十七条 売主が買主に目的物を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。



引渡し後に滅失・損傷が起きた場合は、買主が危険を負担する。つまり、代金支払い義務は残るというルールです。567条が規定する内容です。


2つの条文の使い分けを整理します。引渡し前の履行不能には536条が適用され、引渡し後の滅失・損傷には567条が適用されます。「引渡し」という瞬間が、危険負担ルールが切り替わる重要な境界線です。


参考:民法改正に対応した危険負担のレビューポイントをわかりやすく解説。特定物・不特定物の取扱いの違い、条文の新旧対照も掲載。


【民法改正(2020年4月施行)に対応】危険負担と条項のレビューポイント|契約ウォッチ


危険負担の民法改正3つのポイント:2020年に何が変わったか

2020年4月1日に施行された改正民法では、危険負担のルールが大きく見直されました。改正前との違いを正確に把握することが、実務上のリスク管理につながります。改正点は主に3つです。


改正点① 債権者主義を廃止し、債務者主義に統一


改正前の民法では、特定物(不動産や一点ものの美術品など、代替できない物)に関する売買契約では、「債権者主義」が適用されていました。債権者主義とは、引渡し前に目的物が滅失しても、買主(債権者)が代金を支払わなければならないというルールです。


これは非常に不合理なルールでした。まだ物を受け取っていないのに、物が消えた分の代金だけ払わなければならないからです。学説からも「不公平だ」という批判が多く、実務では契約書で特約を定めてこのルールを排除することが一般的でした。


2020年の改正でこの問題が解消されました。旧民法534条・535条が削除され、特定物の危険負担も含めて債務者主義に統一されたのです。


改正点② 危険負担の効果が「債務の消滅」から「履行拒絶権」に変更


改正前は「反対給付債務が当然に消滅する」とされていました。改正後は「債権者は反対給付の履行を拒むことができる(履行拒絶権)」に変わりました。


一見わかりにくい変更ですが、実務上の意味は大きいです。債務が「当然に消滅」した場合、相手方が代金を請求しても自動的に断れます。一方「履行拒絶権」の場合、積極的に拒絶の意思表示をしないと、支払い義務が残ったまま進行するリスクがあります。


代金支払い債務を完全に消滅させたい場合は、契約の解除をする必要があります。これが実務上の注意点です。


改正点③ 危険の移転時期が「引渡し時」として明文化


旧民法では、いつ危険が売主から買主に移転するかが条文上明確ではありませんでした。契約ごとに「契約締結時」「代金支払い時」など、取り決めがバラバラになるケースもありました。


改正後の民法567条では「引渡し時」が明文化されました。引渡し前は売主が危険を負担し、引渡し後は買主が危険を負担する、というシンプルかつ公平なルールです。


参考:2020年民法改正における危険負担の変更内容、債務者主義への統一と履行拒絶権の付与を具体例とともに解説。


危険負担とは?2020年の民法改正で見直された内容と注意点|freee


危険負担の民法条文が不動産投資に与える実務上の影響

不動産投資を行う人にとって、危険負担は極めて実践的なテーマです。売買契約後・引渡し前という時間帯は、特に注意が必要です。


不動産売買では、売買契約の締結から引渡しまで、一般的に1〜2か月程度の期間があります。この期間中に地震・台風・火災(もらい火など第三者の失火)が発生した場合、それが危険負担の問題になります。


改正民法のルールでは、この期間中に双方に責任のない事由で物件が損傷・滅失した場合、買主は代金支払いを拒絶できます(民法536条1項)。これは買主にとって有利なルールです。


ただし、注意すべき点があります。危険負担の規定は任意規定です。つまり、当事者が合意して特約を契約書に盛り込めば、民法とは異なるルールを適用できます。例えば「引渡し前でも買主が危険を負担する」という特約も、双方合意の上であれば有効になります。


実際の不動産取引の現場では、契約書の危険負担条項は以下のような記載になっていることがあります。
























タイミング 民法の原則(改正後) 実務でよくある特約例
契約締結前 危険負担は発生しない(契約自体が成立していない) 特約なし
契約締結後〜引渡し前 売主(債務者)が危険を負担。買主は支払い拒絶可 「検査合格時」を引渡し基準にする特約など
引渡し後 買主が危険を負担。代金支払い義務は残る 火災保険の加入を義務付けるケースが多い


このように、引渡し後の物件に関しては、不測の事態が起きても買主が全面的に責任を負います。不動産投資においては、引渡しと同時に火災保険・地震保険に加入することが強く推奨される理由はここにあります。


引渡し後の損害リスクを軽減するためには、火災保険と地震保険のセットでの加入が一つの対策になります。火災保険単体では地震による損害はカバーされません。地震保険は火災保険とのセット加入が義務付けられているため、まず火災保険の内容を確認するのが最初のステップです。


参考:不動産投資における危険負担のシーン別解説(売買契約前・契約後・引渡し後)を網羅。不動産投資特有のリスクと危険負担の接点を詳述。


危険負担とは?法改正の3つのポイントとシーン別の負担割合を解説|TSON


危険負担の条文と解除権の関係:金融取引で知っておくべき接続ルール

改正民法で最も見落とされやすいのが、危険負担と解除権の「つながり」です。つまり、危険負担の規定だけでは問題が解決しないケースがあることです。


改正後民法では、危険負担の効果は「履行拒絶権」にとどまります。代金支払い債務が「当然に消滅」するわけではありません。代金を完全にゼロにするためには、契約解除が必要です。これが実務上の落とし穴になることがあります。


改正前の民法では「危険負担=反対給付債務の消滅」と覚えていた人は要注意です。


改正後の流れを整理します。



  • ⓪ 売買契約が成立する

  • ① 引渡し前に双方の責任なく目的物が滅失する(履行不能)

  • ② 買主は民法536条1項に基づき、代金支払いを拒絶できる(履行拒絶権)

  • ③ ただし代金支払い債務は自動消滅しない

  • ④ 買主が代金支払い債務を消滅させたい場合は、契約解除権を行使する(民法541条・542条)

  • ⑤ 解除後は、既払い代金があれば返還請求が可能になる


この流れを知らないと、買主が「払わなくていいんだ」と思い込んで何もしないまま、相手方から代金の支払い催促を受けるという事態になりかねません。


また、改正後の解除ルール(民法541条・542条)では、売主に帰責性がなくても買主は契約解除ができるようになりました。これは旧民法からの大きな変更点です。旧民法では解除には「債務者の帰責性(責任)」が必要とされていました。改正後は帰責性がなくても解除できるため、危険負担と解除権が組み合わさって使われるシーンが増えています。


金融・投資の文脈で言えば、このルールの変更は投資契約や業務委託契約にも波及します。契約書が旧民法ベースで書かれている場合、想定していた効果が出ないリスクがあります。2020年3月31日以前の旧民法時代に締結された契約については、旧ルールが適用される点も忘れてはなりません。


参考:弁護士法人による危険負担と債務者の帰責性の解説。旧民法と改正後民法での解除権・危険負担の接続関係を詳しく説明。


民法改正対応!危険負担とはわかりやすく解説してみた【契約法】|forjurist


危険負担の民法条文と契約書:金融に関わる人が署名前にチェックすべき点

危険負担の規定は任意規定です。これが実務で最も重要な事実です。


任意規定とは、当事者の合意により変更できる規定のことです。強行規定(当事者の合意でも変更できない規定)とは異なります。危険負担については、民法の条文より契約書の特約が優先されます。


つまり、民法の条文をどれだけ正確に理解していても、署名した契約書に不利な特約が入っていれば、法律上の保護を受けられなくなります。これは知らないと大きな損失に直結する事実です。


実務でチェックすべき危険負担条項のポイントを示します。



  • 🔎 危険移転時期の確認:「引渡し時」以外の時期(「契約締結時」「所有権移転時」など)が定められていないか確認する。

  • 🔎 債権者主義の特約がないか確認:「引渡し前に目的物が滅失した場合も買主が代金を支払う」といった旧民法ルールの特約が残っていないか確認する。

  • 🔎 天災・不可抗力の定義を確認:「天災とはどの範囲か」が曖昧な場合、地震・水害・感染症流行などが含まれるか確認する。

  • 🔎 買主側に有利な特約の余地:たとえば検査業務がある取引では「検査合格時」を危険移転時期とすることで、買主側のリスクをさらに低減できる。


「危険負担は売主側が不利」とされることが多いですが、任意規定であるため交渉次第でルールを変えられます。交渉材料として活用することが可能です。


ここで注意が必要なのは、金融機関ローンを活用した不動産購入のケースです。売買契約後・引渡し前に物件が滅失した場合、買主が契約解除を選択しても、ローンの融資実行前であれば銀行との関係は基本的に問題ありません。ただし、融資実行後(引渡し後)に滅失した場合は、ローン残債が残る可能性があります。これは危険負担のルールとは別に、借入契約のルールが並行して動く局面です。


契約書の危険負担条項に違和感を感じた場合は、弁護士や司法書士に相談することで、署名前にリスクを把握できます。相談窓口としては、法テラス(0570-078374)が低コストで利用できる公的機関の一つです。


参考:e-Gov法令検索にて民法の最新条文(536条・567条)を無料で確認可能。改正後の原文確認に活用できる。


民法(最新条文)|e-Gov法令検索




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