
軽課税国判定において税負担率は最も重要な指標となります。現在の日本の外国子会社合算税制では、税負担率20%未満を軽課税国判定の基準としています。この基準は「トリガー税率」と呼ばれ、外国関係会社がこの基準を下回る場合、その所得が日本の親会社に合算課税される可能性があります。
税負担率の計算は単純な法定税率ではなく、実際の納税額を所得で割った実効税率で行われます。この実効税率による判定方式は1992年に導入され、それ以前の「ブラックリスト方式」(軽課税国を国別に指定する方式)から大きく変更されました。
計算式は以下のようになります。
この方式により、たとえばタイやベトナムのような法人税率が20%を超える国であっても、経済特区の軽減税率や設立初期の免税措置により実効税率が20%を下回れば、軽課税国として判定されることになります。
実効税率の計算には多くの複雑な要素があり、単純な表面税率だけでは正確な判定ができません。特に重要なのは、日本の税法に従って計算し直した実際の税率に基づく判定が必要だということです。
非課税所得の取り扱いが重要なポイントとなります。分母には「その本店所在地国の法令により外国法人税の課税標準に含まれない事とされる所得の金額(非課税所得)」を加算する必要があります。ただし、現地国の税制により損金として取り扱われた引当金や準備金は、将来的に課税される所得であり恒久的に課税を免れる所得ではないため、一般的には非課税所得には含まれないと解されています。
連結納税制度を適用している場合の計算方法にも特別な注意が必要です。法令上は「分子の税額は実際の納税額による」とされており、連結納税ではなく単体納税を前提とした規定となっています。この場合、「仮定計算した単体所得金額に基づいて全体の納税額をグループ法人間で按分する方法」や「連結納税制度を受けなかったものとして、単体所得と単体所得税で算定する方法」などが検討されます。
確定申告後の税務調査で指摘を受け、外国子会社の課税所得を日本の税法に則って計算し直した結果、利息と配当金の課税の取り扱いが異なっていたために実効税率が20%以下になってしまうケースも頻繁に発生しています。このような事態を避けるため、事前の慎重な検討と専門家への相談が不可欠です。
税負担率が20%未満であっても、適用除外基準を満たせば外国子会社合算税制の対象とならない場合があります。適用除外基準は「事業基準」「実体基準」「管理支配基準」「非関連者又は所在地国基準」のすべてを満たす必要があります。
事業基準では、主たる事業が株式等債券の保有、工業所有権または著作権の提供、船舶又は航空機を貸し付けるものではないことが求められます。実体基準では、事業を営むのに必要と認められる事務所、店舗、工場などの固定施設を本店所在地国に有することが必要です。
管理支配基準では、本店所在地国において事業の管理、支配および運営を自ら行っていることが条件となります。非関連者基準では、主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空輸送業の7業種の場合、その取引の50%超を非関連者と行っている必要があります。
適用除外を受けるためには、確定申告書の別表17(三)で適用除外の有無を明らかにし、特定外国子会社の貸借対照表や損益計算書、税務申告書などの一定の書類を添付しなければなりません。この添付要件には宥恕規定がないため、書類添付を忘れて税務調査になってから要件をクリアしていると主張しても認められません。
令和7年度税制改正により、新たにグローバル・ミニマム課税制度が導入されることで、軽課税国判定における税負担率の重要性がさらに高まっています。この制度では最低税率15%が設定され、従来の20%基準と併せて複層的な判定が必要となります。
グローバル・ミニマム課税には「所得合算ルール(IIR)」「軽課税所得ルール(UTPR)」「国内ミニマム課税(QDMTT)」の3つのルールがあります。所得合算ルールは、子会社等の税負担が15%を下回る場合、親会社等の所在地で15%に満たすように税負担を課すものです。
軽課税所得ルールは、親会社等の税負担が15%に至らない場合、子会社等の所在地で15%に至るまで課税を行うルールです。国内ミニマム課税は、日本国内の企業等の税負担が15%に至らない場合、最低税率である15%に至るまで課税を行う制度です。
これらの新しいルールにより、企業は従来の20%基準に加えて15%基準も考慮した税務戦略を立てる必要があります。特に多国籍企業グループにおいては、各国の税負担率を総合的に管理し、グローバル全体での最適化を図ることが重要となっています。
適切な税務コンプライアンスを維持するため、定期的な税負担率の見直しと専門家による詳細な分析が不可欠です。
軽課税国判定における税負担率の実務では、多くの企業が見落としがちなポイントがあります。特に重要なのは、判定は法人ごと、かつ事業年度ごとに行われるという点です。これは従来のブラックリスト方式とは大きく異なる特徴で、同じ国に複数の子会社がある場合でも、それぞれ個別に判定する必要があります。
海外企業誘致のための優遇税制の影響も見逃せません。多くの国では「経済特区による軽減税率」や「設立後数年の課税免除」といった優遇措置を提供しており、これらを適用した結果として実効税率が20%以下になるケースが増えています。特にアジア諸国では、このような優遇措置が頻繁に改正されるため、定期的な確認が必要です。
タックスヘイブン税制による申告漏れは年間100件を超え、さらに増加の一途をたどっています。その原因の多くは認識不足や単純な計算誤りです。特に以下のようなケースで問題が発生しやすくなっています:
これらのケースでは、添付義務のある資料を基に慎重な検討が必要です。また、適用除外要件をすべて満たしている特定外国子会社についても、その子会社が資産運用的な所得を有する場合は、内国法人の株式等の保有割合に応じて、その所得を合算しなければならない場合があります(2013年3月決算から適用)。
FX取引など金融商品取引を行う企業においては、特に為替差損益の取り扱いや金融所得の課税方法が各国で異なるため、税負担率計算において複雑な調整が必要となることがあります。これらの調整を適切に行わないと、想定外の合算課税が発生するリスクがあります。
正確な判定を行うためには、現地の税務専門家との連携、定期的な税制変更の把握、そして日本の税法に基づく再計算の実施が不可欠です。