

黒字企業でも、取引金融機関の1行が反対するだけで補助金が使えなくなります。
経営改善計画策定支援補助金、通称「405事業」は、借入金の返済負担など財務上の問題を抱える中小企業・小規模事業者が、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)の力を借りながら経営改善計画を策定するときにかかる費用の2/3を国が負担する制度です。2013年3月にスタートしたこの事業は、当初予算額が405億円だったことから「405事業」という通称で広く知られています。
🏛️ 制度の主管は中小企業庁と中小企業活性化協議会です。全国47都道府県に設置された中小企業活性化協議会が申請の受け付けを行い、費用の補助を実施しています。
この制度が特に重要なのは、単に「計画書を作るための補助金」ではない点です。計画策定と並行して金融機関への交渉・合意形成を行い、リスケジュール(返済条件の変更)や新規融資といった実際の金融支援を引き出すことまでをひとつのパッケージとして支援する仕組みになっています。つまり書類を作ることが目的ではなく、会社を本当に立て直すことが目標です。
2025年度補正予算では「認定支援機関による経営改善計画策定支援補助金」として101億円が計上されており(令和7年度補正予算)、国がいかにこの制度を重視しているかがうかがえます。これは制度が継続的に機能していることを示す数字であり、金融に関わる方にとって見逃せない情報です。
また2026年3月26日には手引き・FAQが改定されており、最新の情報を常に確認することが重要です。
参考:経営改善計画策定支援の詳細制度概要(中小企業庁公式)
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/05.html
この制度を利用できる対象者は、次の3つの要件をすべて満たす中小企業・小規模事業者です。借入金の返済負担等により財務上の問題を抱えていること、自社の力だけでは経営改善計画の策定が難しいこと、そして経営改善計画策定支援を受けることで金融機関からの支援が見込めることです。財務が苦しければ誰でも使えるわけではなく、「改善の可能性がある」と金融機関が判断できる状況であることが前提です。
対象外となる法人形態も把握しておく必要があります。
- 学校法人・社会福祉法人・一般社団法人・一般財団法人
- 公益社団法人・公益財団法人・農事組合法人・農業協同組合
- 生活協同組合・有限責任事業組合(LLP)・特定非営利活動法人
これは意外と見落とされがちな点です。NPOや農協などは対象外となります。
補助金の構造は制度の「枠」によって異なります。
📊 通常枠の補助上限と補助率
| 費用区分 | 補助率 | 上限額 |
|---|---|---|
| DD・計画策定支援費用 | 2/3 | 200万円 |
| 伴走支援(モニタリング)費用 | 2/3 | 100万円 |
| 金融機関交渉費用 | 2/3 | 10万円(任意) |
📊 中小版GL枠の補助上限と補助率
| 費用区分 | 補助率 | 上限額 |
|---|---|---|
| DD費用 | 2/3 | 300万円 |
| 計画策定支援費用 | 2/3 | 300万円 |
| 伴走支援費用 | 2/3 | 100万円 |
中小版GL枠とは、中小企業の事業再生等に関するガイドライン(中小版GL)に基づいた本格的な事業再生・廃業支援を行う場合の枠です。通常枠より支援規模が大きい点が特徴です。これは重要なポイントです。
なお、制度を複数回使うことは原則できません。ただし例外があり、新型コロナウイルス感染症の影響など外部環境の変化で業況が悪化した場合は再利用できる場合があります。その場合、過去の補助実績が引き継がれるため、合計上限は最初から変わらず300万円です。
参考:中小企業基盤整備機構による制度詳細説明ページ
https://www.smrj.go.jp/supporter/revitalization/improvement.html
この制度を利用するステップは、一般的な補助金の申請とは順序が異なる部分があります。計画書を作ってから補助金をもらうのではなく、補助金の利用申請を先に行ってから計画策定に入る点がポイントです。
流れを整理すると次のとおりです。
1. 認定支援機関への相談 — まず取引金融機関や税理士・会計士などに相談し、経験ある認定支援機関を見つけます。中小企業庁の認定経営革新等支援機関検索システムでも検索可能です。
2. 中小企業活性化協議会への利用申請 — 事業者と認定支援機関の連名で申請書類を提出します。主要金融機関(メイン行・準メイン行)の連名または確認書面も必要です。
3. 審査・利用決定通知 — 協議会が審査し、利用決定通知が認定支援機関に届きます。
4. 経営改善計画の策定 — 認定支援機関がデューデリジェンス(DD:財務調査)を実施し、現状分析・課題抽出・改善策・数値計画を策定します。
5. バンクミーティングの実施と全行同意の取得 — 取引のある全金融機関を一堂に集め、計画を説明し同意を得ます。全行から同意書を取得することが必須条件です。
6. 支払申請・補助金受領 — 金融機関の同意取得後、支払申請書を提出し、2/3の費用が補助されます。
7. 3年間のモニタリング — 認定支援機関が四半期ごとに進捗を確認し、金融機関に報告します。モニタリング費用も補助対象です。
計画策定から金融機関全行の同意取得まで、実務上は2〜3ヶ月程度かかるケースが多いとされています。書類整理や財務データの分析、バンクミーティングの日程調整など、地道な作業が積み重なります。着手するには相応の時間と覚悟が必要です。
参考:申請の流れと必要書類の詳細(NBCプラスオンライン)
https://plus.nbc-consul.co.jp/blog/about-405-project
この制度で最も見落とされがちで、かつ最も重要なポイントが「全取引金融機関の同意が必要」という要件です。これが405事業の核心であり、同時に最大のリスクでもあります。
405事業は「バンクミーティング方式」で運営されます。つまり、メインバンクだけが了承すれば補助金を使えるわけではありません。サブバンクも含め、すべての取引金融機関が計画内容に納得して同意書に署名しなければ、制度が成立しないのです。仮に1行でも「この計画では同意できない」と判断すれば、それまでかけてきた専門家費用の自己負担分(1/3)が回収できないまま計画が白紙に戻るリスクがあります。
金融機関がバンクミーティングで同意するかどうかを判断する際の主なポイントは以下の通りです。
- 窮境要因(業績悪化の原因)が明確に特定され、除去策が示されているか
- 計画のアクションプランが実現可能性の高いものか
- 全行で公平な条件となっているか(特定の銀行だけ有利・不利になっていないか)
- 自行の債務者区分(不良債権の分類)にどう影響するか
特に「公平性」の観点は重要です。ある金融機関が「うちだけ金利を上げてほしい」などの要請をバンクミーティング内で行うことは、全行同意の前提を崩す行為として認められません。全行が足並みを揃えて支援するのがこの制度の設計思想です。
もし全行の足並みが揃わないまま不同意となると、私的金融調整が破談します。そうなると不同意の金融機関が"引き金"を引いた形となり、他の金融機関も一斉に債権回収に動く可能性があります。そのリスクを全員が理解しているからこそ、協力関係が成立しているとも言えます。
金融機関との信頼関係が鍵です。過去の返済状況の誠実さ、財務情報の透明な開示姿勢が、バンクミーティング成功の土台となります。
認定支援機関は国内に数万機関あると言われており、税理士・公認会計士・中小企業診断士・弁護士・商工会議所・地域金融機関など、幅広い種類の機関が含まれています。多ければ多いほど選ぶのが難しくなります。しかし、405事業においては機関の「種類」よりも「経験値」と「金融機関交渉力」の方がはるかに重要です。
実際、計画が金融機関に承認されなかった主な理由として、「計画の実現可能性が低い」「経営者のコミットメントが見えない」「窮境要因の分析が浅い」などが挙げられています。これらは認定支援機関の実力に直結する問題です。
認定支援機関を選ぶ際の確認ポイントをまとめます。
- ✅ 過去の405事業の支援実績件数(具体的な数字を確認する)
- ✅ 金融機関との交渉経験があるか(元銀行員・元調査員などの経歴は強み)
- ✅ 費用と業務範囲が事前に明確に提示されるか
- ✅ バンクミーティングの設定・進行を支援できるか
- ✅ モニタリング(3年間)まで対応可能か
あまり語られない独自の視点として、「顧問税理士に頼むべきかどうか」という問題があります。顧問税理士が認定支援機関である場合、費用の節約になると思われがちですが、実は税理士が得意とする税務申告業務と、405事業に必要な「金融機関交渉を前提とした経営改善計画策定」とは別のスキルセットが必要です。税務のプロが必ずしも金融交渉のプロではありません。この点を区別して専門家を選ぶことが、計画の成功率を上げる上で非常に重要です。
また、認定支援機関が対象企業に20%以上出資している場合、その企業は制度の対象外となります。これは利益相反を防ぐための規定で、知らずに申請してしまうと審査で弾かれてしまいます。顧問先に出資しているケースは少ないですが、確認を怠らないようにすることが原則です。
認定支援機関の検索は中小企業庁の公式システムから行えます。まず相談の一歩として、最寄りの中小企業活性化協議会に問い合わせるのもひとつの手です。
認定支援機関の検索はこちら。
認定経営革新等支援機関検索システム(中小企業庁)
参考:405事業の注意点・デメリットを詳解(和田経営研究所)
https://wada-keiei.com/archives/9233
405事業と混同しやすい制度に「早期経営改善計画策定支援事業(通称:バリューアップ支援事業)」があります。両者はどちらも認定支援機関が関与し、費用の2/3を補助するという点で共通しています。しかし対象者・目的・補助上限・モニタリング期間の4点で大きく異なります。
📊 2つの制度の比較表
| 比較項目 | 405事業(経営改善計画策定支援) | バリューアップ支援事業(早期経営改善計画) |
|---|---|---|
| 対象者 | 金融支援が必要な財務問題を抱える中小企業 | 資金繰り管理など基本的な経営改善が必要な事業者 |
| 金融支援 | 必須(全行同意が前提) | 不要(金融機関への提出のみ) |
| 補助費用の上限 | 300万円(通常枠) | 25万円 |
| モニタリング期間 | 計画後3年間 | 計画後1年間 |
端的に言えば、「これ以上悪化する前に手を打ちたい」段階なら早期経営改善計画策定支援事業、「すでに返済に支障をきたしており金融機関との条件変更が必要」な段階なら405事業、という使い分けになります。自社の状況を正確に判断することが重要です。
なお、早期経営改善計画策定支援事業は2025年度から通称「バリューアップ支援事業」と呼ばれるようになり、補助額の上限が計画策定費用15万円+伴走支援5万円(任意)+決算期伴走支援5万円+金融機関交渉費用10万円(任意)という構成になっています。金融機関への提出が必要とはいえ、同意書の取得は不要なため、ハードルは405事業に比べて格段に低いです。
どちらの制度を使うべきかに迷った場合は、まず最寄りの中小企業活性化協議会か、取引金融機関のメインバンクに相談するのが最も確実な判断方法です。状況に応じた適切な制度案内を受けることができます。
参考:制度を詳解した中小企業支援コラム
https://www.sme-support.co.jp/column/p826/