カーボンクレジット価格の推移と今後の動向を解説

カーボンクレジット価格の推移と今後の動向を解説

カーボンクレジット価格の推移と仕組み・今後の動向

省エネ型のJクレジットを買っても、GX-ETSには使えず損をする場合があります。


この記事のポイント
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Jクレジット価格は9年で約10倍に急騰

2016年の入札初回価格は約510円/tだったが、2025年末には再エネ電力クレジットが5,610円/tまで上昇。GX-ETS制度設計の具体化が価格上昇を加速させている。

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EU ETSは1トン76ユーロ(約10,500円)水準

欧州の排出量取引制度では2021年以降に価格が急騰し、一時100ユーロを超えた。日本のGX-ETS上限(4,300円)とは依然として大きな開きがある。

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クレジットの種類によって使用可能な制度が異なる

GX-ETSの適格クレジットはJクレジットとJCMに限定。海外認証機関(Verraなど)のクレジットは対象外のため、調達前の確認が不可欠。


カーボンクレジット価格の基本的な仕組みと種類


カーボンクレジットとは、CO₂などの温室効果ガスの削減量や吸収量を数値化し、取引可能な「権利」として認証したものです。一口に「カーボンクレジット」と言っても、その発行主体や認証機関によって複数の種類が存在しており、それぞれ価格水準や使用できる制度が大きく異なります。これが重要な前提です。


日本国内では主に「Jクレジット」「JCM(二国間クレジット制度)」「超過削減枠」の3種類が代表的です。国際的には「ボランタリークレジット(自主的市場向け)」として、Verra(VCS)やGold Standardが認証したクレジットが流通しています。さらに、EU・英国・韓国・中国などが運営する「排出量取引制度(ETS)」における排出枠も、広義のカーボンプライシングに含まれます。


価格を決める要因は主に3つです。第一に「需要と供給のバランス」、第二に「政策・規制の変化」、第三に「クレジットの品質・用途適格性」です。需要量は制度・規制によって劇的に変動することがあります。特に日本では、GX-ETS(グリーントランスフォーメーション排出量取引制度)の制度設計が具体化するたびに価格が大きく動く場面が見られます。


金融に関心がある方が押さえておくべき最大のポイントは、「カーボンクレジット」という単一の市場があるわけではなく、プロジェクトタイプ・認証機関・制度適格性によって数百ものマイクロマーケットが存在する、という点です。つまり価格は一つではありません。




参考:東京証券取引所が公開するカーボン・クレジット市場日報(価格の一次データとして最も信頼性が高い)
東京証券取引所「カーボン・クレジット市場日報」(JPX公式)


Jクレジット価格の推移:2016年〜2026年の変遷を詳解

Jクレジットの価格推移を見ると、その上昇ペースは非常に鮮明です。制度が開始した2016年6月の第1回入札では、落札価格はわずか510円/tでした。まるでビール1本分のコストと同程度です。ところがそこから状況は一変します。


2016年〜2022年の入札時代には、再エネ電力クレジットが約3,000円/t、省エネルギークレジットが約1,550円/tまで上昇しました。さらに2023年10月に東京証券取引所にカーボン・クレジット市場が開設され、相対取引から取引所取引へと移行したことで価格の透明性が高まり、価格上昇が一段と加速しました。


2025年12月末時点のJクレジット市場における主要クレジット価格は以下の通りです。


クレジット種別 2024年1月時点 2025年12月末時点 変化率
再エネ(電力) 約3,000円/t 5,610円/t +87%
省エネルギー 約1,600円/t 5,190円/t +224%
森林 約6,100円/t 約5,000円/t ▲18%
農業(中干し) 約5,000円/t(25年1月新設) 5,374円/t 微増




注目すべきは省エネルギークレジットの約3.2倍もの上昇です。もともと再エネより安価だったため、GX-ETSの制度整備によって買い圧力が一気に高まったとみられています。一方、森林クレジットは2024年初時点で6,100円と最も高く、むしろやや軟化しています。これは需要の性格の違いを示しており、すべてのクレジットが同じ方向に動くわけではないということを明確に示しています。


なぜ2024年以降に急騰したのでしょうか? 最大の要因は、GX-ETSの第2フェーズ(2026〜2030年)において、適格クレジットがJクレジットとJCMに限定されたことです。Verraなど海外認証機関のクレジットが非適格となり、需要がJクレジットに集中した結果として価格が押し上げられました。さらに、SHK(温対法)制度のガス事業者への排出係数開示が始まり、ガス会社からの買いが加わったことも上昇要因です。価格上昇は政策で動くということですね。




参考:Jクレジットの日次・月次・年次価格データが確認できる信頼性の高い情報源
新電力ネット「Jクレジット価格の推移」(日次データあり)


EU ETSと海外カーボンクレジット価格の推移

EU ETS(欧州連合排出量取引制度)は、世界最大・最古の炭素市場として長年にわたり運営されてきました。その価格推移は、日本のGX-ETSを考える上でも非常に参考になります。


EU ETSの価格は2020年時点では20〜30ユーロ/t程度で推移していましたが、2021年に「Fit for 55」パッケージ(2030年までに1990年比55%の排出削減を目指す政策)の発表を機に急騰を開始しました。2023年2月には一時100ユーロ/tを突破するという歴史的な高値を記録します。その後は調整が入り、2025年10月時点では1トンあたり76ユーロ前後(日本円換算で約10,500円)で推移しています。この水準は、日本のGX-ETS上限価格(4,300円)の2倍以上です。


海外のボランタリークレジット(自主的市場)については、プロジェクトタイプによって価格差が非常に大きいのが特徴です。米国の非営利調査機関Ecosystem Marketplaceが発表した2025年版レポートによれば、2024年のボランタリークレジットの平均価格は6.34ドル/tCO₂eでした。ただし、この「平均価格」は使い勝手の悪い指標と言えます。


プロジェクトタイプ 2024年平均価格(USD/tCO₂)
森林・土地利用(ARR:植林) 20.44
ブルーカーボン 29.72
農業 7.66
廃棄物処理 6.72
再生可能エネルギー 2.67
エネルギー効率・燃料転換 3.05




特に見逃せない事実として、「除去系(Removal)」と「削減系(Reduction)」の価格差があります。除去系(CO₂を大気から直接吸収するプロジェクト)は平均19.50ドル/tなのに対し、削減系(排出を回避するプロジェクト)は4.05ドル/tと、その差は約5倍に達しています。これは意外ですね。


さらに、先進的な直接空気回収(DAC)などの技術的CDR(炭素除去)のオフテイク価格は平均180ドル/tと、ボランタリー市場平均の30倍以上の価格水準で取引されています。「カーボンクレジットの価格を調べる」という行為自体が、実は複数の全く異なる市場を混同した意味のない行為になりがちです。調べる際は必ずプロジェクトタイプと市場種別を明確に区別することが基本です。




参考:海外ボランタリークレジット市場の最新価格動向・需給分析に関する総合レポート
Sylvera「カーボン市場の動向2026:価格・品質・市場トレンド」


GX-ETSと2030年に向けたカーボンクレジット価格予測

2026年4月、日本では改正GX推進法が施行され、GX-ETS(GX排出量取引制度)が本格稼働します。これは日本初の義務的な排出量取引制度であり、年間排出量10万tCO₂以上の企業約400社が参加対象となります。これが国内のカーボンクレジット価格に与える影響は計り知れません。


GX-ETSの排出枠価格は、制度安定のために上下限価格が設定されています。政府が2025年12月19日に示した水準案によれば、2026年度の下限価格は1,700円/t、上限価格は4,300円/tとなっています。2030年度には下限1,913円/t・上限4,840円/tに設定される見通しです。


ただし、Jクレジットの実勢価格(2025年末時点で5,000〜5,610円/t)は、すでにGX-ETSの排出枠上限価格(4,300円)を上回っています。つまりJクレジットは「GX-ETS上限価格よりも高い」という逆転現象が起きているのです。これは痛いですね。


東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室とエクスロードの共同調査によると、GX-ETSの排出枠価格は2030年に向けて以下のように予測されています。


  • 2027年時点:最多予測は「4,001〜6,000円/tCO₂e」
  • 2030年時点:「6,001〜8,000円/tCO₂e」と「8,001円以上/tCO₂e」が拮抗


また、GX-ETS第2フェーズ(2026〜2030年)における年間の排出枠・クレジット需要量は「少なくとも278万トン以上」に達するという試算もあります。一方、Jクレジットの現在の供給量は年間100〜150万トン程度です。需要が供給の約2倍以上になる可能性があり、構造的な供給不足が予想されます。供給不足が原則です。


2026年からはGX-ETSでクレジットを使用できる上限が「排出量の10%まで」に制限される方針も決まっています。つまり、クレジット購入だけで排出削減義務を消化することはできず、実際の削減努力が求められる仕組みです。金融投資家の視点からは、Jクレジット供給企業や再エネ関連事業に対する需要増加シナリオとして捉えることもできます。




参考:GX-ETSの仕組み・上下限価格・対象企業等の詳細が掲載された環境省の公式解説
WWFジャパン「GX-ETS制度案のパブコメが実施中」(上下限価格の解説あり)


カーボンクレジット価格変動における独自視点:品質格差リスクと「クレジット座礁化」

金融に関わる方なら「座礁資産」という言葉を聞いたことがあるでしょう。化石燃料企業の資産が気候変動規制によって価値を失うリスクです。実は、カーボンクレジット自体にも同様の「座礁化リスク」があります。これはほとんど語られない、業界内でも盲点となっている論点です。


具体的には、2023年以降、グリーンウォッシュ問題が表面化し、REDD+(森林破壊回避)などのボランタリークレジットの信頼性に疑問符が付き始めました。ある研究によれば、REDD+プログラム由来のクレジットの削減効果のうち、実際にCO₂削減に結びついているのは「6%のみ」という試算も存在します。この問題は意外ですね。


これを受けて、炭素市場の整合性を評価するICVCM(自主的炭素市場のための誠実性評議会)が「コア・カーボン原則(CCP)」を策定し、低品質クレジットの市場排除が進んでいます。Sylveraのデータでは、BBB+格付けのARRクレジットは中央値価格が35ドルを超える一方、低格付けの同種クレジットは20ドルを下回り、価格差は拡大し続けています。つまり、「全てのクレジットが値上がりする」という前提での投資戦略は誤りです。


市場全体の価格を見るのではなく、個別クレジットの品質評価が今後ますます重要になります。高品質なARRクレジットの平均スポット価格は2025年12月に26ドル/tに達しており、年初の14ドルから約86%上昇しています。一方、低品質・低格付けのクレジットは、買い手すら見つけられない状況も起きています。これが条件です。


金融的観点で言えば、「カーボンクレジット市場全体に投資する」という感覚は、「株式市場全体に漠然と投資する」という行為と同様に、個別銘柄の選別眼がなければ大きなリスクになりえます。カーボンクレジット市場では、クレジットの認証機関・プロジェクトタイプ・コンプライアンス適格性・格付けを軸にした銘柄選択が不可欠です。


将来のコンプライアンス需要増加という追い風を受けるのは、あくまで「高品質で制度適格なクレジット」に限られます。この知識を持つかどうかが、大きな損益の分かれ目になります。価格だけを追いかけるのはリスクが高いです。




参考:カーボンクレジット活用においてグリーンウォッシュがどのような法的・財務的リスクをもたらすかの解説
エクスロード「カーボンクレジット活用におけるグリーンウォッシュとは?」


カーボンクレジット価格の今後を左右する5つのポイントまとめ

ここまで解説してきた情報をもとに、今後のカーボンクレジット価格を読む上で特に重要な5つのポイントを整理します。金融的な意思決定に直接役立てることができます。


第一に、「Jクレジット需給の逼迫」です。GX-ETS第2フェーズの年間需要は278万t以上と見込まれる一方、供給は100〜150万tにとどまります。需要超過が構造的に発生する可能性が高く、価格上昇圧力は継続すると見るのが自然です。


第二に、「GX-ETS本格稼働の影響(2026年4月〜)」です。約400社が参加する義務的制度がスタートするため、クレジット需要は一段と拡大します。特にJクレジットとJCM以外は適格外のため、適格クレジットへの需要集中が起きます。


第三に、「EU ETSとの価格差の行方」です。EU ETSが76ユーロ/t(約10,500円)、日本のGX-ETS上限が4,300円と、依然として大きな乖離があります。日本が脱炭素目標達成を本気で目指すならば、この差は将来的に縮小する方向に動く可能性があります。


第四に、「品質プレミアムの拡大」です。高品質クレジットと低品質クレジットの価格差が世界的に拡大しています。CORSIAでは2024年に航空会社32社が参加し、ANA・JALも21.70ドル/tで高品質クレジットを調達しました。品質優先の流れは不可逆です。


第五に、「政策・規制変化のモニタリング」です。2015年に京都メカニズムクレジットが温対法対応に使用不可となった際、Jクレジットの無効化量が1年で約10倍(7万t→70万t)に急増した実績があります。制度変更のたびに価格は大きく動きます。これだけ覚えておけばOKです。


金融に関心がある方にとって、カーボンクレジット市場は新たなアセットクラスとして確かに注目に値します。ただし、「環境に良いから値上がりする」という単純な発想ではなく、制度・政策・品質・需給構造を精緻に分析した上での判断が求められます。この市場は「制度が価格を作る」という特殊な性格を持つことを念頭に置いて、今後の動向を見ていきましょう。




参考:日本のカーボンクレジット市場全体の価格・相場・今後の予測を詳しく解説した記事
エクスロード「【26年1月】カーボンクレジット価格ガイド|Jクレ・海外・ETS」


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