非上場株式相続の評価方法と遺産分割の注意点

非上場株式相続の評価方法と遺産分割の注意点

非上場株式相続の評価と分割

非上場株式相続のポイント
📊
評価額の二重性

相続税評価額と実際の時価に大きな差が生じるケースが多い

⚖️
遺産分割の複雑さ

株式の分割や代償金の支払いに関する問題が発生しやすい

🏢
会社規模による判定

大会社・中会社・小会社の分類により評価方法が異なる

非上場株式相続の評価額算定における二つの価値

非上場株式を相続する際、必ず理解しておくべきなのが評価額の「二重性」です。非上場株式には相続税評価額時価という2つの異なる価値が存在し、この理解が不十分だと相続手続きで大きな問題が生じる可能性があります。

 

相続税評価額は、税務署が相続税を計算するために使用する評価額で、純資産や業績をもとに算出されます。一方、時価は実際にその株を売却したり、事業承継の場面で評価される「実勢の価値」、つまり換金価値を指します。

 

この2つの価値には、しばしば大きな乖離が生じます。例えば、相続税評価額が1億円でも、実際の時価が3億円というケースも珍しくありません。これは、相続税評価額が時価よりやや低めの金額で算出できるように計算式が設計されているためです。

 

特に、過去の蓄えが多く純資産が大きく積み上がっている会社は、より時価が高額になる傾向があります。この評価額の差は、以下のような場面で重要な意味を持ちます。

  • 遺産分割協議での株式評価
  • 遺留分侵害額請求における算定基礎
  • 第三者への株式売却検討時
  • 事業承継計画の策定時

非上場株式相続における会社規模判定の重要性

非上場株式の相続税評価を行う際、会社規模の判定は欠かせない手続きです。会社は大会社、中会社、小会社のいずれかに分類され、この分類により評価方法が大きく異なります。

 

会社規模の判定が必要となるのは、以下の3つの条件をすべて満たす場合です。

  • 相続、遺贈又は贈与によって非上場株式を取得したこと
  • 取得者が同族株主等に該当すること
  • 特定の評価会社に該当しないこと

同族株主等に該当しない場合は、配当還元方式によって評価するため、会社規模の判定は不要となります。しかし、多くの中小企業の相続ケースでは、相続人が同族株主等に該当するため、原則的評価方式による評価が必要になります。

 

会社規模の判定は、単純に売上金額の大きさや資本金の多さだけで決まるものではありません。従業員数、売上高、純資産価額など複数の要素を総合的に勘案して判定されます。この判定を誤ると、相続税額の計算に大きな影響を与える可能性があるため、専門家による適切な判定が重要です。

 

非上場株式相続における遺産分割の特殊な課題

非上場株式が相続財産に含まれる場合、通常の遺産分割とは異なる複雑な問題が生じます。特に、株式の準共有状態が発生した場合、権利行使をめぐって相続人間でトラブルが生じるケースが多く見られます。

 

非上場株式の準共有とは、複数の相続人が共同で株式を相続した状態を指します。この場合、株主としての権利行使は原則として準共有者全員の合意が必要となり、以下のような問題が発生する可能性があります。

  • 株主総会での議決権行使者の決定
  • 配当金の受領方法
  • 株式譲渡の承認申請
  • 会社に対する各種請求権の行使

さらに、代償分割を選択する場合、代償金の支払い能力が問題となることがあります。特に、非上場株式の評価額が高額になるケースでは、代償金を現金で支払えない相続人が続出し、遺産分割協議が長期化する原因となります。

 

このような問題を回避するためには、生前からの事業承継対策や、遺言書の活用による株式の集約化などの準備が重要です。

 

非上場株式相続時の換価方法と権利行使戦略

相続により取得した非上場株式を現金化したい場合、いくつかの換価方法が考えられます。しかし、非上場株式の多くは譲渡制限株式であるため、自由な売買ができないのが現実です。

 

主な換価方法として以下が挙げられます。
会社による自己株式取得
会社が株主から直接株式を買い取る方法で、最も一般的な換価手段です。ただし、会社の財務状況や他の株主の同意が必要となる場合があります。

 

第三者への譲渡
事業承継を目的とした第三者への売却です。この場合、株式譲渡承認請求の手続きが必要となり、会社側が承認しない場合は売却が困難になります。

 

株式売買価格決定申立
会社が譲渡を承認しない場合、裁判所に対して適正な売買価格の決定を申し立てることができます。この手続きにより、会社は決定された価格で株式を買い取る義務を負います。

 

少数株主として権利行使を行う場合、情報収集が重要な戦略となります。株主総会での質問権、議題提案権、議案提案権などを活用し、会社の経営状況を詳細に把握することで、より有利な条件での換価交渉が可能になります。

 

非上場株式相続のデジタル時代における新たな視点

近年、デジタル化の進展により、非上場株式の評価や管理にも新たな課題が生まれています。特に、IT企業やデジタル関連事業を営む非上場会社の株式相続では、従来の評価方法では適切に価値を測れないケースが増加しています。

 

無形資産の価値評価が困難なデジタル企業では、知的財産権、顧客データベース、プラットフォームの価値などが企業価値の大部分を占める場合があります。これらの資産は、従来の純資産法や類似業種比準法では適切に評価できず、DCF法(割引現在価値法)による評価が重要になります。

 

また、リモートワークの普及により、株主総会のオンライン開催が一般化しています。これにより、遠方に住む相続人でも株主権の行使が容易になった一方で、デジタルデバイドによる情報格差が新たな問題として浮上しています。

 

さらに、ブロックチェーン技術を活用した株式管理システムの導入により、株式の所有関係や譲渡履歴の透明性は向上していますが、相続手続きにおけるデジタル認証の問題など、新たな法的課題も生まれています。

 

これらの変化に対応するため、相続人は従来の相続対策に加えて、デジタル資産の把握や管理体制の整備についても検討する必要があります。特に、IT関連の非上場株式を相続する場合は、技術的な専門知識を持つ専門家との連携が不可欠となります。

 

非上場株式の相続は、税務面だけでなく、会社法、相続法、さらにはデジタル技術の知識が複合的に必要な複雑な手続きです。適切な対応を行うためには、早期の専門家相談と、将来を見据えた包括的な対策の検討が重要です。